36 手合わせ

「いくぞ!」


一言声をかけてくるエイルさんにちょっと困惑したけど、手合わせだと気を取り直して構える。

自分の技量を知ってもらうのはもちろん、相手の技量を知るための手合わせ。

魔法で足止めして、すぐ決着をつけてはいけないだろう。


まっすぐ剣を振り下ろすエイルさんの斬撃を剣で受け止める。

勢いはあるけど、ブレがあるように感じる。おかげで力が分散していて受け流しやすい。

すぐに剣を押し返し、後ろに下がる。


エイルさんはそれを好機と捉えたのか空かさず、振りかぶってくる。

それを同じように押し返し、後ろに下がっていくを繰り返す。


「どうした?受けてばかりじゃ勝てないぜ?」

「…うん。こんな感じならいいかな?」


威力もスピードも対応も大体わかった。

やっぱり最初に感じた強さと変わらないと思う。

言われた通りこのまま受けてばかりいても問題はないだろうから、さっさと終わらせよう。


「《アースバイン》」

「っうわ!」


エイルさんの両足に土でできた蔦が絡まる。

足が動かなくなったことで前かがみになった首元に木の剣を沿わせた。


「勝負はこれでいいですか?」

「そこまで!嬢ちゃんの勝ちだ!」


私の問いかけにギルドマスターはすぐさま勝ちを宣言してくれた。

じいじもギルドマスターも予想がついていたのか、落ち着いた様子だったが、緋色の獅子のメンバーは驚きに固まったままだった。

エイルさんも固まったまま声もあげず、前かがみになった状態で見上げてくる。


ずっと見られても恥ずかしいんだけど。

何と声をかけていいかわからず、そっとアースバインを解いて、さっさとじいじの側に向かった。


「…ちょ、ちょっと。え、あの子魔法も使えるの?」

「身体強化もできるって話しましたよね?」

「魔装技は大体が肉体か自分が触れているものに魔力を纏わせる技術よ!魔力を変形させて放出する魔法とは系統が違うわよ!」


いち早く正気に戻った女性が叫んだ。杖を持っているから魔術師なのかな?もしくは殴り魔術師?

魔装技と魔法は系統が違うというが、どちらも魔力を操作する技術だから同じじゃないかな?

ただ、魔装技の詳細を知らないのでどう答えていいか迷う。


「魔法は体外に、魔装技は体内に魔力を放出すると考えていいでしょう。ただ得意不得意があり、どちらかに偏る人が多いというだけですよ」

「なるほど!それなら私はどちらかというと魔法寄り?」

「そうですね」


私が疑問に思っていたこともスムーズに答えてくれるなんて、さすがじいじ!

木の剣に魔力を纏わせるより魔法を使う方がイメージしやすいのかすぐ発動できることが多かったし、納得だ。


「ちょっとなんで魔法寄りなのに、剣術や肉体強化を教えているのよ!使う魔力や時間がもったいないでしょう!!」


思わずと言った感じで杖を持った女性が更に叫ぶ。


「最初は剣士として訓練されたので。後出しで魔法を覚えさせた経緯があります。人より魔力量が多いですし、魔法特化させると接近戦で不利になりますから、そのまま剣術も使えるようにしています」

「こんな華奢な子に、しかも魔力が多い子を剣士として訓練…?最初に教えたやつ馬鹿じゃない?」

「そうなんですよ。馬鹿な者たちばかりでしたね」


訳がわからないと頭抱える女性に、じいじが呆れたように賛同した。

馬鹿な者というか視野が狭い連中だった気がする。

既成概念にとらわれて、勇者=剣士みたいなイメージが凝り固まっていたらしく、散々素振りや打ち合いをさせられたな。

打ち合いというより一方的なタコ殴りを受けたと言ったほうがいい気もするけど。

そんな遠い記憶を思い出した。


「イヤイヤ!リーダーと打ち合えるだけの剣術も使えて、魔法も使えて、なんでそれでDランクなんだよ!おかしいだろう!!」


次は盾を持った男性が叫び出した。

なんでと言われても…


「技能はあるが冒険者登録してから日が浅いのもあってランクが上がっていない。それとどうにもランクを上げたくないらしい」

「成人しているかどうかわからない若い女と年寄りのパーティーがCとかBだと絶対絡む人出てくるでしょう?」


冒険者ランクは最低限侮れないランクであればいい。

Dランクでもまあまあ稼げているからお金の心配もないし、ランクを上げると疑われたり絡まれたりするデメリットが高いので、上げる旨味を感じないのだ。

まあDランクでも若干絡まれやすいことを今実感しているけど。

でもじいじがEランクとかだと違和感しかないし、仕方ない。


「Dランクでも絡んだお前たちが指摘することじゃないな。これでCやBだったらもっと煽りがひどくなっただろう?」


成人前後の女の子と老人が自分たちと同じかそれ以上のランクパーティーだった場合と考えるとギルドマスターの言った通りもっとひどく絡んだかもしれない。そう思ったのか緋色の獅子のメンバーは誰も反論しなかった。


「冒険者だから舐められたらお終いとか思っているだろうが、粋がる前に相手の技量をまず図れるようになれ」

「…ぁあ」


ギルドマスターの小言が棘のようにブスブス刺さっていくように見え、緋色の獅子メンバー全員が項垂れた。

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