37 買い物
「で、とりあえず手合わせは終わりでいいかな?」
「あぁそうだな。嬢ちゃん喧嘩売られた割にはあっさりしているんじゃないか?」
上から目線で喧嘩売られたときはイラッとしていたことに気づいていたらしい。
ギルドマスターが訝しむが微塵も遺恨はない。
「実力も思っていた通りだったし。ランクは上でも…自分より弱い人たちをイジメ続ける趣味ないから。そんなことよりこの木の剣って買えますか?」
「そんなことではないはずだけどな。まあそれは受付で言えば購入できるぜ?」
「やった!じいじちょっと買ってくるね!」
ギルドマスターの言葉を聞いて、木の剣を持ったまま受付に急いで向かった。
初めて魔装技ができた縁起物でもあるこの木の剣をどうしてもゲットしておきたかったのだ。
*
「あの嬢ちゃん色んな意味でチグハグだな。達観しているかと思えば幼い、戦いの技術はあるが駆け引きができていない。どういう教育しているんだよじいさん?」
「あれでもマシになったほうです。最初に指導した者との相性が悪かったのもありますが、才能がありすぎたのもよくはなかったですね」
リサが受付に向かうのを見ながらギルドマスターが目を細めて問いかけに、思わず小さくため息が零れた。
最初にリサに会ったときを思い出すと今の元気な姿が奇跡のように思える。
できることなら最初から自分が指導したかったのだが、人生はそううまくいかない。
「じいじー!買えたよ!魔装技の練習しよー!」
心から楽しそうに、自分に懐いてくれる姿に口元が綻ぶ。
過ぎ去ったことを悔いても仕方ない、今が大事なのだから。
「ここでは邪魔になりますから、宿に戻ってから練習しましょう?」
「はーい!ギルドマスター、依頼の打ち合わせは後日で良かったですよね?」
「あぁ、明日打ち合わせして、明後日出発予定だ。練習もいいが準備を怠るなよ?」
ギルドマスターの忠告に、ハッとしてじいじを見る。
「練習は夜でもできますので、先に消耗品などを補充しましょう」
「…は~い」
残念だけど準備を怠るわけにはいかない。特に今回は依頼で、合同でもある。
ギルドの信用と同僚の信用を落とすわけにはいかない。
ということは、じいじのチートアイテムを見られないように対策しないといけないのでは?
少なくともいつも野営で使っているコンロは出せない!
「じいじ!まずは宿に戻って何があるか確認しよう!そうしよう!」
「はいはい、先に首都への道のりも確認してからですね?」
道のりによって必要な消耗品が違う。
行くルートはすでに決まっているとのことでギルトマスターに聞き取り、宿にすぐ戻った。
*
首都までの道のりは大きな街道を通るようで、野営もそんなにする必要はないようだ。
テントはこの間の遠征でも使ったし、2回だけだから怪しまれることもないだろうからこのままで大丈夫。
水筒はこの街で買った普通の水筒に水を入れておけばいいし、それ以外は出さなければいいかな。
この調子ならチートアイテムを見られる心配はないみたいで一安心だ。
問題は食料かな。焚き火はできるだろうけどコンロは使えないから、調理済みのものか、焚き火でできる最小限の調理になるだろうから準備が必要だ。
この間の遠征で食料も結構使ったし、首都に行くと海鮮系が食べられなくなるかもしれないから、ちょっと多めに仕入れておかないと。
早速、泊まっている宿の人に寸胴を渡して海鮮系のスープを作ってもらう。
そのまま市場に出かけて魚介類を中心に野菜や果物も満遍なく買っていく。昼過ぎていたから一部値下げが始まっていて安く購入できた!
あと屋台に美味しいものがあればそこそこの量を買い込む。
料理ができないときにすぐ食べれるようにしておきたいし。
荷物の収納はちゃんとじいじに預かってもらい、アイテムボックスを持っているのはじいじであるアピールは忘れない。
「結構買い込みましたね」
「またいつ来れるかわからないでしょう?特に海鮮の食材は海が近くにないと食べれないから、食べたいときに食材がない!なんてことになったら嫌だもん!」
じいじに呆れたような目で見られるがこれは譲れない!毎日じゃないけど時折お魚が食べたくなるときがあるのだ!
宿に戻ったら夕飯までの時間に買った物の下ごしらえを行う。
夕飯前に宿の調理場を借りるのは迷惑になるので、部屋にワーキングルームを出してこっそり作業。
野菜は食べやすい大きさに、魚介類も食べやすい大きさに捌いておく。魚の頭や骨も捨てずにキレイに洗って出汁を取る。
この世界には鰹節はあるけど顆粒ダシまではないから、取れる時に取っておかないとすぐ使えない。
味噌汁や豚汁はよく作るから大量に作っておいて問題はない。
じいじの呆れた視線にめげることなく、その日の作業を終えることができた。
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