34 顔合わせ
「こちらがCランクの緋色の獅子だ。エイル、こちらはDランクのリサとじいさんだ」
そういえばパーティ名を考えていなかった。
有名になりたいとかはないから今すぐにはいらないけど冒険者と合同依頼が増えるようならパーティ名は必要になりそうだな。
でもそれは後でいい。
「リーダーをしているエイルだ。合同依頼だが自分の身は自分で守ってもらいと思っている」
冒険者というより騎士っぽさがある真面目な人がきた。
こちらを侮って見下してくる奴じゃなかったのは良かったけど、懸念した通り上から目線の言葉が出てきた。
じいじに視線を送り、頷き返された。
「冒険者が自分の身を守るのは当たり前なことです。口で言っても伝わらないこともあるので、手合わせで証明できればと思います」
丁寧な言葉を選んで微笑み返した。
一応Aランクの魔獣を倒せるし、緋色の獅子がそのAランクより強いとは思えない。
自分より弱い奴が相手の力量も測れず、上から目線で、私たちを、特にじいじを弱いと断言するとやっぱりイラッとする。
「ははは、お嬢ちゃん新米冒険者だね?上のランクの先輩には敬うものだよ?」
エイルさんの後ろで静観していた盾を持った男性が笑いながらこちらを威嚇して来た。
それに笑い返すだけにして、ギルドマスターに視線をやった。
「はあ早速だよ。ほら、訓練場に行くぞ!手合わせでどれくらいの実力があるか判らせればいいだろう?」
「そうよね~生意気な新人ちゃんを諌めるのも先輩冒険者の役割よね~」
さらに後ろ側に控えていた女性から完全に見下した発言をしてきた。
そっちから喧嘩を売ってきたというのに、言い返されて怒っているようだ。
でも相手がやる気になってくれて良かった。後から全力じゃなかったなんて言われたら困るもの。
「さてルールは1対1の対戦式。緋色の獅子は嬢ちゃんと爺さんどちらがいいか選べ」
「こちらは全員対戦するのですか?それではあちらが不利なのでは?」
6人と2人のパーティーだから、私とじいじは最大5人と対戦する可能性がある。
それに緋色の獅子のメンバーは戸惑っているようだったが、ギルドマスターは6戦するし、早く相手を選べと急かしている。
ギルドマスターがそういうならと、渋々緋色の獅子のメンバーは相談しだした。
「武器は木で作られた模擬戦用の武器だ。魔法は広範囲のものは使用するなよ」
「はーい!あくまで手合わせで、相手をぶちのめすことじゃないからね!」
「合同依頼をするんだから、大きな怪我をさせることのないようにな!」
私のぶちのめすという言葉にギルドマスターが釘を刺す。
煽られたからと言って後遺症の残る怪我をさせるつもりはないのに、心外だ。
相手がまだ相談中なので、端に置かれている木の剣を手にする。
魔法という方法もあるが、魔法だと殺傷力のあるものかハメ技みたいなものも使ってきたから、実力を確かめる手合わせで使用するわけにはいかないだろう。
大きな怪我をさせるなって言われているし。
準備運動の代わりに木の剣をブンブンと素振りをしながら、大きな怪我をさせず、でも実力が伝わる方法がないか考える。
剣を使用するなら、結界盾も使った方がいいかな?相手の武器も魔法も防げるし。
いやでも結界盾は対人戦で使わないほうがいいってじいじ言っていたな。
結界は通常丸い形をしているので、盾を模した結界、しかも自分を覆わないサイズに調整できるのはあまり見たことないから騒がれる原因になりそうだとかなんとか。
魔法を使うにしても、泥系とかに限定して足止め、それから剣で寸止めすれば怪我は少なくなるかな。
相手が魔法使いだったら、攻撃は避ける方向でいいかな。
いつも使っている魔剣なら魔法も切れるけど、木の剣じゃ魔法を切ることできないよね。
あれ?魔剣が魔法を切れるのって魔力で覆われているのもあるのかな?
「じゃあこの剣も魔力を纏わせたら魔法切れる?」
「嬢ちゃん…?」
訝しむギルドマスターの声は届くことなく、木の剣に魔力を纏わせることに集中する。
感覚は魔剣を使ったときの感覚でなんとなくわかる。
木の剣は吸い上げてはくれないから、刀身の部分から魔力が滲み出て剣の形に魔力が添うようにイメージして。
焦らず、木の剣が壊れないようにゆっくり、ゆっくり。
「っあ、できた?」
刀身部分だけ、魔力を纏わせることができた。
ちょっと均等とはいかないけど、抜けがないくらい全体を覆うことができたみたいだ。
「じいじ!試したい!」
「はいはい、《ウォーターボール》」
私の意図を読んだじいじがすぐに複数のウォーターボールを作って投げてくれた。
いつかの修行と同じように中心を見定めて真っ二つに切る。
ウォーターボールは威力をなくし、切られたら消えていった。
魔剣には及ばない切れ味だけど、ただの木の剣で魔法を切れることを考えると使い勝手がいいだろう。
まだ纏わせることに時間がかかるし、纏わせる魔力の厚さにムラがあるから、要練習だね。
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