155 精霊の女王

「へぇ〜海の中でもこういう感じなんだね」

(コクコク)


精霊の後を追って扉を通ったけど何の違和感もない。

精霊の技術もすごいんだな〜

着いた花畑は緩やかな風が吹いてとっても穏やかな雰囲気だ。


「うん、ここだね。じゃあさっさと精霊女王の元に連れて行ってもらおうかな?」

「ヒィィー」

(サササッ)


穏やかな花畑とクリスの悪どい笑みの対比がひどい。

パックちゃんも怖くて私の肩に避難してきたよ。

まあクリスの気が済むようにすればいいと思っているので野放しにしておく。


「何をもらおうかな〜やっぱり精霊の花蜜がいいかな?」

「精霊の花蜜?」

(ハテ?)


おや、知らない言葉が出てきたぞ?

名前からして甘い物なのかな?

クリスも予想に違わず食いしん坊だし、欲しがりそう。

精霊って頭文字がつくくらいだからなかなか手が入らないものなのかもしれない。


「さっきの花畑の密だよ!精霊が管理しているんだ!エルフの里では時々だったら手に入れられるけど人族の街じゃじゃ手に入らないの〜」


クリスも好物なので旅のおやつに持って来たかったが、タイミングが悪いことにエルフの里に保管されていた花の蜜の在庫がなくて持って来れなかったらしい。

ちなみにエルフの時々は十数年単位なので、人族にしたら一生かかっても手に入れられなさそう。


「迷惑かけられたからたーっぷりもらわないとね〜!」

「なるほど」


クリスが悪どい笑みを浮かべているな〜とは思っていたけど、好物をたくさんもらうためか。

貴重な甘いもののようだし、クリスの態度にも納得だ。


「ほら、女王のところに連れて行って!」

「は、はいー!」


精霊を急かして丘へ続く道を登っていく。

丘以外には何もなさそうだけど、女王様はどこにいるのかな?


「こ、こちらです〜」


丘のてっぺんの何もないと思われた空中を精霊がタッチすると、大きな城が現れた!

うわー隠蔽徹底しているね。

そうまでして隠さないといけないようなところなのかな、精霊の国って。


「女王様〜女王様〜ごめんなさい〜!」

「…他の方と一緒に帰ってきたのでもしやと思っていましたが」


案内された部屋に入るとそこには、厳かな雰囲気をまとったドレス姿の方がいた。

女王というイメージ通りというべきなんだろうけど、実際のイタズラ好きな精霊とこの女王を比べるとなんかチグハグに感じる。


「大変申し訳ございません。こちらのものがご迷惑をおかけしたようで」

「…う〜ん、そうなんだけどさ。君って本当に精霊の女王?今まで見たことある女王とはまったく違うみたいだけど」

(コクコク)


クリスとパックちゃんから見てもこの精霊の女王の態度は違和感があるらしい。

そうだよね!

ちょっとしたイタズラを許せばどんどん自己解釈して被害を拡大させていくような精霊のまとめ役とは思えない。


「…やはり他の女王とは違うのですね。薄々は思っておりましたが」

「うん、他の女王は大抵それぐらいのイタズラで文句を言うなんてひどい!みたいな駄々をこねて、そうなったら実力行使で謝らせるってことが定番なんだけど」


ひえ〜精霊の女王の駄々こねって世界樹の記憶でも定番になるくらいのテンプレなんですか!

ならすぐ謝罪した目の前の精霊女王は本当に異例だ。


「…うぅ、やっぱり私は異質なんですよね。前の記憶があるばっかりに歪な存在なんでしょう」


ちょ!この人…じゃない精霊!

前の記憶あるの?!


色々な技術が発展しているから転生者の存在は感じていたけど、まさか精霊に転生する人がいるとは思っていなかった!


「精霊って聞いてなんか凄そうな種族に生まれたと喜んだのも束の間、イタズラ好きって、どこの妖精の話なんですか…」


こちらが何も問いかけていないのに自分語りを始めた。

まあ、妖精と精霊の違いには私も驚いたから同感だけどね!

もしかしたら前世も同じ世界からの転生だったりするのかも?


そのまま一人語りを聞いていると、どうやら根が真面目過ぎて精霊の感覚とまったく合っていないようだ。

それでも真面目だから女王に選出されたから、この国の女王をやっているけど、ほとんどの政務は謝罪ばっかりだという。


「なるべく謝罪しなくていいように、国の入口を海の中にしても、それを飛び越えてイタズラをする者が多くて!もう、本当に、一体どうすればいいかと…!」


うわーうわーこれは参っていらっしゃるー!

頭を抱える目の前の女王を見て悟ってしまった。


感性が違う精霊の尻拭いをずーっとしていて、海の中にまで避難していたのに、それなのにイタズラは止む気配がなく。

終いには私たちがクレーム言いに来たからキャパがオーバーしているんじゃ…!


「うーん、もうさぁ、女王止めて国を出てみたらどう?」

「国を出る…?」

「そうそう。根本的に合ってないことを無理にすることはないよ〜基本、自己中心なのが精霊だし、割り切って外に出たほうが良さそうだよ!」

「外に…」


何に触発されたのか、クリスが思いつくようにどんどん提案していく。

女王はクリスの言葉を復唱していて、目の焦点はどこか別のところを見ているようだけど、ちゃんと考えられている?


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気づけばこの小説は1周年過ぎていました…!

これからもご贔屓によろしくお願いします…!

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