137 魔法陣

まあ仮に本当にトラブルだったとしても、ネレーオさんのことをここで見捨てるという判断はないしな。

だってすごくいい人そう!いや、多分、絶対いい人!

そんな人が頑張って夢を叶えた結果が残念なことになるなんて見過ごせない。

結局は私が笑顔で旅立ちたいから、仕方ないことだよ。


とりあえずネレーオさんには私たちの宝飾品作りに集中してもらって、その間にこっそり調べることにしよう。

原因の目星はついている。お店に入った時の違和感。

恐らくそれがお客さんや従業員が来ない原因だと思う。


けど、気になるのは、なんでその原因があるのかってこと。

根本の原因がわからないと、原因を取り除いただけじゃまた同じことの繰り返しになるかもしれないしね。

それならまだしも、もっと悪いことが起こるかもしれない。

ネレーオさんの平穏を取り戻したいのに悪化させるなんて絶対に避けないと!

その日はひとまず宿に戻ってクリスと作戦会議を行うことにした。


「もう原因はわかっていんだっけ?」

「クリスも感じたでしょう?お店入った時に!」


わかっていながら聞くんだからクリスも人が悪い。

お店に入った時に感じた魔力の動きにも心当たりがあるはずなのに。


「じいじもわかっているよね?」


ネレーオさんと遭遇してからじいじは笑顔だけどずっと黙ったままだった。

私が感じた魔力をじいじがわからないはずないのに。

じいじはちょくちょくこうやって問題を解かせようとするけど、いい人そうな人が巻き込まれている現状すら試験にするのは意地が悪い気がする。


「そうですね。ではリサ様はどのようなお考えで?」


じいじは時たま頑固だ!

どうしても答え合わせがしたいらしい。

まったく仕方がない、私の考えがあっているか確認してもらおう。


そもそも出会った時からおかしいのだ。

私は地面を掘っているのを見られたくなくて、ちゃんと対策をしたいのだ。

人よけの魔法を使って。

なのにネレーオさんは自然に私たちを見つけた。

まだまだ未熟な腕ではあるけど、じいじ直伝の魔法なのだ。

凄腕の魔術師には通用しないかもしれないが、一般人に通用しないわけない。


そしてネレーオさんのお店で感じた魔力の流れ。

あれば人よけの魔法を使ったときと同じ流れだった。

考えられるのはあのお店に人よけの魔法が使用されていたってことだろう。


だからお客さんも従業員もその魔法の影響でお店に来なくなったと考えられる。

ネレーオさんがお店の人よけの魔法が通じないのは多分対象から外されているから。

でも常時展開されているからネレーオさんは段々人よけの魔法に慣れてきて、私のかけた人よけ魔法が効かなくなっていたってところじゃないかな。


「えぇ、いい読みです。ちなみに壁の中に人よけの魔法陣が埋め込まれていますね」

「魔法陣?それを使ったから常時魔法が発動できたってことだね」


魔法陣は魔法を使えない人でも魔力を込めれば使えるものだ。

魔道具でも使用されているものだけど、人よけの魔法なんて一般的ではない。

そんな一般的ではない魔法陣を、なんであのいい人そうなネレーオさんのお店に仕掛けたんだろう。


壁に埋め込むってことはお店を建てた時から計画されていたってことだよね。

嫌がらせ?いや嫌がらせにしてはやっていることは悪質だよね。

嫌がらせ以外の別の目的があるの…?


「恐らくですが、借金を積み重ねて奴隷にでもする気なのかと」

「奴隷!?」

「えぇ、借金奴隷です。そうすればお店と人材両方手に入れることができますから」


ちょっとそんな情報どこかにあったけー?

じいじにツッコミたいけど、そもそもじいじが根拠なく言うはずないので、いつの間にか情報収集していたんだろうね。

抜け目ないというか、本当にいつの間にって思うよ。


じいじの情報を踏まえて考えてみよう。

確かにネレーオさんのお店はとっても素敵だったし、まだネレーオさんが作った宝飾は見ていないけど、飾ってあった宝飾はどれも素敵だった。

審美眼は確実にありそう。それによく考えたらなかなかな顔も整っていたと思う。


お店を建てられるくらいの実績があって、顔も整っていて、技量もある。

そんな人を借金奴隷という正当な理由で拘束して使うのか。


「でもネレーオさんなら借金奴隷になってもすぐ返済できる気がするけど?」

「そもそも人よけの魔法陣を使うような輩です。表向きの体裁だけ整えられればいいのでしょう」


わざわざ正規の奴隷の手順を踏まなくてもいいってことだね。

ネレーオさんを一生使い潰す気満々なわけだ。

さてどうしようかな。


壁の魔法陣を壊すのは簡単だけど、それで終わりになるとは考えづらい。

相手が諦めるとは思えないんだよね。

だってわざわざお店を立てる時から下準備していたってことでしょう。

わざわざ遠回しな方法を取ってでもネレーオさんを手に入れたいという執念を感じる。


しかしネレーオさんを使い潰すだけならぶっちゃけ攫って違法奴隷にすることはできるのにその方法を取っていないことが気になる。

一応借金奴隷っていう体裁を整えているってことは、違法奴隷にした場合に都合が悪いってことだよね。


うーんまずはネレーオさんに状況確認してみようかな。

何かしらの事情があるかもしれない。

幸い今は宝飾の作成の依頼をしているから進捗の確認という体でお店を訪問すればおかしくはないだろうし。


まあ相談ついでに実際に作っている工程も見せてもらえたらラッキーだよね!

手に職とは行かないけど、勉強になるだろうし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る