136 宝飾店の謎

私も当事者のはずなのに置いてきぼりにされている。

戸惑っている私を余所にクリスとお兄さんのお店に行く話が進んでいく。

まあ、話す様子をみれば悪い人には見えないし、宝飾店であれば渡りに船なので、わざわざ話を折る必要はないかな。


お兄さんの店に行くため、掘り当てた鉱石はマジックバッグに入れ、這い出た穴を土魔法で閉じて地面を掘っていた証拠を隠滅する。


「お姉さんは魔術師さんなんですね〜大きな穴を一瞬で閉じれるなんてすごいですね〜!」

「あっ、はい」


つい普通に魔法を使ってしまった。

指摘した本人はにこにこ笑って小さく拍手までしていて、何かゆるいというか、警戒心を抱かせない人のようで、調子が狂ってしまう。

逆にこちらが突っ込んで追及されたくないので、突っ込めないけど。


話を逸らすべく、お兄さんの事を聞いていく。

名前はネレーオさん。

この街で育ったからか小さい頃から鉱石類が好きで、いつかは自分の宝飾店を持つことが夢になって、最近ようやく叶えることができたと教えてくれた。

自分の店なので妥協したくなくて、自分で採掘したり、宝飾のデザインを書いたり、加工までできるように頑張ったらしい。


子供の頃からの夢を叶えるなんて凄いな。

特に前世と違ってこの世界は結構シビアだと思う。

1から自分でお店を作るのも相当大変だったんじゃないかな。

その苦労をひけらかすことなく、好きなことだから頑張れたんですよと笑うネレーオさんは本当にいい人のようだ。


「ここが私のお店ですね!」

「わぁ、可愛いお店ですね」


白を基調として清潔感のあるお店だが、店長さんの人柄のせいか店全体もほんわかした雰囲気を感じる。

思わず可愛いと言ってしまったが、ネレーオさんは気にしていないどころか嬉しそうな顔をしている。


どうぞと案内され一歩店内に足を踏み入れると何かを通り抜けたような、変な違和感があった。

ちょっと気になるけど、体に害があるものではなさそうなのでそのままネレーオさんの手招きに応じてお店に入っていく。


「素敵ですね」


ほうっと感嘆のため息が零れそうになった。

入った店内はきれいに整頓されており、並べられたガラスケースの中にいくつか宝飾が並んでいる。

美意識センスなんてないけど、どれもきれいで可愛くて、思わず欲しくなりそうなものばかりだ。


「そう言ってもらえると嬉しいですよ」


自分のお店が褒められてとっても嬉しそうに嬉しそうに笑ってくれる。

会ったときから思っていたけど、裏表のないストレートな感情表現をする人だな。

話している私までなんだかほっこりする。


「立ち話もなんですから、奥の部屋でお二人にとって一番の記念になるものを選んでいきましょう!」


そうそう!目的を忘れてはいけない。

お店の奥の個室で手に入れた水晶を中心に宝飾品に使えそうなものを出していく。

結構色々な種類の水晶が出てくるのは前世ではありえないけど、まあ異世界だし、魔力とかあるからそういう影響があるのかもしれないのかも。


そんな考察は他の人に任せて、今は目の前にある水晶を選ばなければ!

せっかく自分の手で掘って手に入れたものだから、とっておきの水晶をいつも身につけられるようにしておきたい。


ネレーオさんは私たちが選んでいく中で、塊の中に隠れている水晶があれば声をかけ、きれいに割って中身を見せてもらえた。

中は複数の水晶が連なってとってもきれいで、これはアクセサリーにするより飾っておきたい水晶だね。


そんな水晶の中から選んだのは、クリスが一番最初に採ったシトリンだ。

太陽の色と言われる透き通ったオレンジ色は髪も色も暗めの私たちのアクセントになるだろう。

同じシトリンがいくつか採れたので、クリスとお揃いで作ることに決まった。


ピアスと髪飾りは持っているから新しく作るとしたらペンダントか指輪かな。

豪華な装いはいらないけど、毎日つけたいくらい可愛いデザインがいいな。

その要望を汲み取ってくれたネレーオさんは、選んだ水晶とつける私たちを見ながらさっとデザイン画を書いて見せてくれた。

どれも素敵なデザインで、欲を言えば全部作って見たかったけど、頻繁につけ変えることもないだろうから断念した。

まあそれでも3種類くらいは作ることになったんだけどね。


「この分であれば5日間ほどでできあがりますよ」


デザインの次は納品とお値段の交渉になるのだが、ネレーオさんが提案したのはどれも破格に感じた。

シンプルな作りとはいえ2人分で6種類の宝飾を5日で作るのもそうだけど、そのお値段が普通の宝飾より安いのだ。

もちろん水晶は持ち込みだけどオーダーメイドと言って差し支えないはずなのに。

商売は大丈夫なのかと心配になるが、ネレーオさんはとっても嬉しそうに頷いてくれるのでその金額をお支払いすることにした。

せめてもの抵抗で前払いにはしたけど。


「そういえば今日ってお店お休みだったんじゃない?来てよかったの?」


うん、私もそう思った。

お店は開いていたけど、お店の中には誰1人としていなかった。

宝飾店って接客する人や研磨する人がいるはずだよね。

それなのにいないってことはお休みだったんじゃないかな。


「…いいえ、開けてはいるんですがお客さんが来なくて。その内雇った人も来なくなって」

「えっ?おかしくない?」


クリス、そんな遠慮のない物言いはどうかと思うよ。

もうちょっと穏やかな言い方があるんじゃないかなと思いつつ、気持ちはクリスと同じだ。

思わず全部欲しくなってしまうような素敵な宝飾店なのに。

さらに店長のネレーオさんも人好きそうな雰囲気でお客さんが来ないどころか従業員が来ないなんてことはあり得ないはず。


「宝飾の説明も作成も一通りは1人でできるのでお店はできるんですが、お客さんが来ないとどうにもですね」


ネレーオさんは目尻を下げて苦笑したが、これはもしかしなくても、トラブルの予感かも…。

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