138 じいじの計画
思い立ったが吉日とばかりに翌日ネレーオさんの店を訪れた。
お店の中に入るが昨日と同じで中には誰もいない。
本当にお客さんがいない。
まるで開店前のお店に入っているような変な感じだ。
すぐにでも相談したいところではあるけど、ネレーオさんは作業室らしき場所で細工を行っていた。
集中しているネレーオさんを邪魔してまで相談するものでもないから見ながら待たせてもらうことになった。
見ていて思うのはネレーオさんの技量はやっぱり普通じゃないんだろうってことだ。
固いはずの金属がまるで木を削るようにスルスルと掘られていく。
昨日の内に大体の形を整えて、今は水晶をはめ込むための場所を作成しているようだ。
せっかく自分で掘り当てた水晶だからと、水晶はなるべくそのままの状態でハメれるようにしてくれている。
その心遣いも嬉しい。
仮に水晶を置いて位置を確認をすると、次はその周りの装飾部分を掘り出した。
今掘っているのはクリスが希望を出した草木をイメージした装飾だ。
前世でよく便箋やメッセージカードで見たようなシダの葉が生き生きと伸びたデザイン。
世界樹のクリスにとても似合うと思う。
作業をちょっと見るだけだったのが、いつの間にかもうお昼になっていた。
クリスの装飾部分が一段落ついたところでネレーオさんに休憩を提案する。
そのままご飯も食べずに別の装飾に取り掛かろうとしていたから、職業病の職人さんには困ったものだ。
昼食は軽めのパン系を用意して、訪れた理由をさっさと終わらせることにした。
「借金奴隷ですか?」
「ネレーオさんのお店に人が来ないように誰かが策略しているんじゃないかと思って」
核心の人よけの魔法がお店の壁にあることはまだ言わない。
あくまでもそんな妨害があった場合はどうなるのか聞いてみたかったからだ。
こんな遠回りな手段を取っている理由はあるはずだからね。
「そういう手段は考えられないとは思いますが。う〜んそうですね、リサさんたちならいいかな」
そう切り出してネレーオさんが話したのは、ちょっと複雑な生い立ちだった。
ネレーオさんはさる貴族の子として生まれたそうだ。
父も母も貴族なのだが、複雑な事情で公にすることはできず、庶子としてこの街で生きることになった。
けれど父も母も自分を愛してくれたし、母方の祖父には特に目をかけてもらい、貴族としての教育も十分に受けることができた。
父の領地経営の手伝いをする傍ら、興味のあった宝飾師に弟子入りして学び、手伝いなどで得た給与を貯めてこの店を持つことができたのだという。
まあ店を持つことについては、最初は母や母方の祖父は反対したけど、どうしてもやってみたいと熱意を伝え、1人でもできることを証明するため、手出しは無用という約束を交わしたという。
ちゃんと余計な手出しをされていないか、お店の周りを監視することも含めて。
「なのでこの店に余計な手出しをすると母や祖父が黙っていない状況なんです〜」
貴族の目があるなら、下手に手出しできないはずだ。
はずなのに、今手を出されているのはどうしてだろう。
じいじの情報が間違っているとは思えないから、手を出して来ている相手はネレーオさんを借金奴隷にしたいんだろうし。
なんか引っかかる。
独立できることを証明するためということは、証明できなかったら場合はどうなるんだろう。
「その場合は領地経営を手伝う約束です。赤字になった分は働いて返さないといけませんから〜」
うむむ。ネレーオさんの話を聞いても、じいじの情報と乖離がある。
ちょっとじいじと話をしなければ!
昼食の時間は終わり、ネレーオさんは作業に戻り、私たちは一度宿に戻ることにした。
「じゃあじいじが知っている情報を全部教えて!」
「全てとは、まったく欲張りですね」
「そういうからかいはいりません!」
そもそもじいじがどこからか取ってきた情報で余計混乱している状況なんだ。
ちゃんと情報を整理してどうするかを決めたいだけなの!
じいじの冗談はその1回で終わり、すぐにネレーオさんについての情報を教えてもらった。
ネレーオさんは知らないのか、隠しているのか分からないが、父方の長男に疎まれているとのことだ。
公には庶子だが、ちゃんと貴族の血を継いでおり、父親の領地経営の手伝いも少し教えただけですぐ熟せるほど手腕だったという。
当人が望めば爵位を継げるのではと周りから噂されるほどに。
ネレーオさんは全然その気はないけど、気を揉んだ長男が店に人よけの魔法陣を仕掛け、借金を負わせることを思いついたそうだ。
人を使って直接妨害していないので気づかれにくいし、借金を肩代わりする契約書に小細工をして奴隷にすれば、爵位は告げない。
さらに一生こき使えると考えていると。
はっきりいってクズじゃないかな、その長男。
領地経営する貴族としてどうよ?
そんな悪事企む時間があるなら領地のことちゃんと考えなよ。
考えないから弟に取られるかも知れないなんて妄想が生まれるんでしょう!
私からみてもネレーオさんは今の仕事が好きだし、領地経営には興味がなさそうなのに。
長男が治める住民の今後が心配になるよ。
まあ状況はわかったけど、どうしようかな。
ネレーオさんに事情を説明して監視している母方の関係者に人よけの魔法陣をみてもらう?
そうしたら人よけの魔法陣も解けるだろうし、解いた後長男が再度ちょっかいをかけて来ることはないだろうし。
でも長男が捕まったらネレーオさんが領地経営に引っ張られたりしないかな。
宝飾師として続けて欲しいから問題を解決したいのに、本末転倒もいいところだよ。
「ちなみに人よけの魔法はそう広く知られているものではありませんので、長男の後ろにはそこそこの裏組織がいると思われます」
「悩んでいる時に余計な情報追加しないで!」
「全て教えて欲しいと言われましたのはリサ様では?」
「きぃー!じゃあじいじが教えてよ!一番無難に解決する方法を!」
そういうとじいじは待っていましたとばかりににっこり笑みを浮かべた。
えっ、怖っ!
じいじがこういう顔をするのを久々見たよ!
あのクズ王様を断罪する計画を立てていた時くらいの怖い笑顔じゃない?
長男さん、終わったかな?
しかしなんでこんなに怒っているんだろう?
長男さん、じいじに変な迷惑かけたとかじゃないよね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます