139 計画開始

じいじの考えた計画はシンプルだった。


その1、人よけの魔法陣をこっそり人寄せの魔法陣に変える。

もちろんずっとそのままにはしないよ。時限制限付きにする。

そもそも人よけの魔法陣がなかったら同じだと思うし。

ちゃんと街の人に認識されれば絶対に繁盛するだろうし、手助けするのはほんのちょっとでいいはず。


その2、長男の扱いについては密告するという手段を取る。

密告先はネレーオさん母方の祖父にするという。

じいじの情報網だと母方の祖父は中々な切れ者なので、溺愛しているネレーオさんを危ない目に合わせようとした長男を逃すことなく処理してもらえるだろうって怖っ!

ほんわかしているネレーオさんとは似ても似つかないんですけど!

どこから来たほんわか血筋!


そして最後その3、じいじが取っておいたドラゴンの魔石で宝飾品を作って私の後ろ盾になっている貴族さんに献上する。

ってドラゴンの魔石あげていいの?

エルフの里でも結局使わなかったドラゴンの魔石だよね?


たしかにローウの部隊長の横暴に後ろ盾の証明書が効果を発揮してもらえたから、お礼はしておきたいと思っていたけど。

ドラゴンの魔石を使った宝飾なんて献上したら、ドラゴン退治したいのがじいじだとバレない?

その結果、国から追いかけ回されるとかないよね?


そんな懸念をしていたら、クリスが代わりに琥珀色の石を出してきた。

水晶のシトリンと同じような色合いなのに、包容している魔力量はまったく違う。

ちょっと借りて鑑定した結果がこちら。


【世界樹の涙】

世界樹の樹液が固まってできたもの

多量の魔力を包容しているため、魔法発動媒体や魔法薬の原料として優れている


「いやいやいや、これはこれでだめでしょう!」

「えぇ〜ドラゴンの魔石は今のところ1つしかないから手放すのはもったいないけど、これなら意識してポロッてすればすぐ出てくるから大丈夫だよ〜」


世界樹の涙って本当に世界樹の涙だったの!?

クリスはそういうけど、世界樹の涙だって貴重品だと思うよ?

そもそも世界樹に会えるのは稀みたいだし、その中で採取?って容易じゃないと思うしねぇ?


クリスは世界樹本人で、瞬きをせずにいれば涙をポロポロ流せるから希少性を感じていないのかもしれないけど。

普通の人にとってはそんなに簡単に手に入れられないものだよ?


ドラゴン討伐者とバレるか、世界樹に会えたとバレるか。

どちらもどっちじゃないかな〜?


「でもコレなら万が一出どころを聞かれても、族長にもらったと言っておけば大丈夫だし〜ドラゴンを討伐したとバレるより良くない?」


ぐぬぬ、クリスらしからぬ筋が通った提案だ。

確かに今後何かの材料にドラゴンの魔石が必要になって、手元になかったら後悔する可能性がある。

世界樹の涙はクリスにお願いすれば手に入る。

そう考えると一択しかないね。


「献上するのはいいんだけど、ネレーオさんのために行う計画の1つだよね?ということは献上の目録にでも誰が作ったかを書いておけばいいってこと?」

「そうですよ。献上できるほどの技術はお持ちですから」


気に入って使ってもらえれば、ネレーオさんの宝飾師としての地位も安泰するかもしれないってことだよね?

貴族の婦人に献上するから下手なものは送れないとは思うけど、希少な世界樹の涙とネレーオさんの技術なら大丈夫か。

じいじのお墨付きだし。


さっそく計画その1とその2を実行しようと思ったけど、ちょっと待つことにした。

今作ってもらっているものが終わってから、計画を実行することにする。

その間ネレーオさんに直接ちょっかいが出ないように、こっそり見守っておくだけにする。

見守るのはじいじだけどね。


私たちだとお店の近くから見守るしかできないから、逆に不審者扱いされかねない。

けどじいじの謎の技術ならひっそり見守ることができるらしいので。

なんでそんな技術持っているのかと尋ねてみたけど、


「できる執事はお嬢様に気配を悟らせないものと聞いたもので」


じいじは誰からそんなことを聞いたの!?

そして聞いたからって普通はそれを実践できないからね!


じいじとそんなやりとりをして全てをじいじに任せた後、街を散策していたある日。

依頼した宝飾ができあがったと連絡が入り、お店に取りに行くことになった。

そしてそれは計画の開始でもあった。


「はあ〜すっごーい」


クリスも思わず声をあげてしまうほど、素晴らしいものが出来上がっていた。

デザイン画を見た時から期待していたが、できた現物はその期待を大きく上回るものだった。

水晶の透明感のある輝きを活かしながら、洗練されたデザインになるように計算されて作られている。

ネレーオさんに出会えて、作ってもらって本当に良かった。


「本当に素敵ですね!ありがとうございます!」

「こちらこそ!作らせてくれてありがとう」


久々に満足できる宝飾を作れたとネレーオさんも嬉しそうだ。

水を差すようで少し気が引けるけど、ここで計画その1を実行します!

ネレーオさんの前に、クリスからもらった世界樹の涙を出してみる。


「実は、お世話になった方にこれを使った宝飾品を作ってもらいたいんです」

「あ、あぁ…!」


希少である世界樹の涙だとすぐにわかったのだろう。

驚きなのか、感動なのか、どちらも混じったのかわからないが、声を震わせて世界樹の涙を凝視している。


「こ、これを、僕が、いいの、ですか?」

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