140 計画完了
宝飾師でもあるからなのか、ネレーオさんは世界樹の涙を凝視しながら、恐れ多いと声を震わせる。
やっぱり希少なものなんだよね。
でも昨日クリスがもっと形いいの世界樹の涙を出せないかとポロポロ流していた光景を思い出すと、その希少性が薄らいでいく。
自分の価値観が普通の人から離れている状況をひしひしと感じるけど、今はそれを考えるときじゃないので放置する。
「ネレーオさんに作って欲しいんだよ〜是非ともね!」
「あ、ありがとう、ござい、ます!」
軽い調子で依頼するクリスとまるで神に祈るように世界樹の涙を掲げて目を潤ませているネレーオさんの落差がひどい。
感涙しているネレーオさんに構わず、じいじは早速とばかりにデザインの打ち合わせに入った。
後ろ盾の方に似合う宝飾なんて私にはわからないから、作る種類からデザインまで全部じいじに丸投げする。
その間に私はじいじに教えてもらった人よけの魔法陣を人寄せの魔法陣に書き換えることになっている。
まず、これ以上発動しないように、魔法陣から魔力を抜いていく。
それから魔法陣を可視化して書き換えていくのだ。
人よけと人寄せの魔法は似ているので、一部の違うところだけを書き換えるだけでいい。
と言っても魔法陣を読めない私にはどの部分を書き換えるのかはわからないので、クリスに指示してもらいながら、間違えないように慎重に書き換えていく。
「ここで止めれば大丈夫だよ」
「ありがとうクリス。私も遠からず魔法陣の勉強したほうがいいかな」
クリスの誘導で人寄せの魔法陣に変えることができた。
あとは魔力を込めればすぐ発動できる状態だ。
魔法を可視化した魔法陣のことは聞いたことあったけど、実物をこんなに早く見るとは思わなかった。
魔法陣に使われている文字は独特で、昔の日本で使われていた文字が連なっている書体みたいな感じだ。
使われている文字の規則を覚えると魔法陣を作り出すことができるそうだ。
じいじからもらった便利な魔道具があるから、これと言った魔道具を作りたいとは思わないけど、今回みたいに魔法陣に関連した事件に巻き込まれることもあるかもしれないから覚えておいたほうが良さそうだ。
旅の間にクリスに教えてもらうことになった。
「おじい様の方も終わったみたいだし、宿に戻って早速魔法陣の勉強しようか〜!」
「うぅ、せめて今日はネレーオさんが作ってくれたアクセサリーを堪能しようよ〜」
いざ勉強となると尻込みしてしまったが、結局はクリスの勢いに押されて勉強することになった。
それからはネレーオさんのお店の様子を見ながら、魔法陣の勉強をするという日々が続いた。
魔法陣を止めたから当然のようにネレーオさんのお店には少しずつ人が訪れるようになっていった。
認識さえされれば、素敵なお店なので人気のお店になっていくのもあっと言う間だろう。
ただ、長男さん側もバカではないので、ネレーオさんのお店にお客さんが入っている状況に気づいていた。
人よけの魔法陣があるのに、私たちに続いてお店に人が集まるようになってくれば怪しむのも当然だ。
その状況を打破しようと、人よけの魔法陣を再稼働させようとしたり、お店で難癖をつけたり、暴れたりして評判を下げようとしていた。
しかしこちらにはチートじいじがいる。
ひっそりといつの間にかお店を見張っていたじいじがすべて跳ね返していた。
魔法陣に手を出した人はその魔法を反射させ、難癖をつけてきた人には豊富な知識で論破し、暴れようとした人は取り押さえ、そして証人としてネレーオさんの母方の祖父へ送りつけたらしい。
らしいというのも、全てが終わった後にじいじとその場に立ち会ったネレーオさんから話を聞いたからだ。
じいじが対応している間、私とクリスは街の散策と魔法陣の勉強をしていてまったく気づいていなかった。
じいじは変なところで過保護になるんだよね。
盗賊退治とか対人の戦闘はさせるのに、貴族関係にはなるべく関わらせないようにしている。
私が祖国の王たちにされたことに傷ついていると思っているのかもしれないけど、私自身そこまで気にしていないんだよね。
前世の記憶が戻ったこともあって、虐げられてきた記憶も記録を見ているように薄れてきているから。
気にしないと伝えたこともあるけど、じいじは納得しなかったので、今ではじいじにお任せ状態だ。
そんな事をしている間にじいじの思惑通りに進んでいく。
「これがお預かりした世界樹の涙です」
「うわぁ〜」
水晶の宝飾を作ってもらったから、ネレーオさんの腕はわかっているつもりだったけど、それは本当に、つもりだった。
世界樹の涙自体がとても希少で美しいものだから、下手な宝飾師でも貴婦人に似合う宝飾になってしまう。
けどネレーオさんが作ったのは、そういったものとは次元が違う。
世界樹の涙だけが目立つのではなく、世界樹の涙以外の貴金属とも調和の取れた1つの宝飾品として美しさを感じる。
「すごいですね。本当にきれい、です」
ネレーオさんに込み上げてくる感動を伝えたいのだけど、上手く言葉にできない。
本当に素晴らしいものができあがったと思う。
「今回、こんな贅沢な宝飾を作れるなんて思ってなかったです。一生かかっても得られない経験をさせてもらいました」
頭をさげてお礼を言うネレーオさんは職人としても一皮むけた表情をしていた。
こっちが勝手にしているお節介だけど、それでもネレーオさんの経験になれたのなら良かった。
それはクリスの涙だと思い出すと、真面目に感謝しているネレーオさんに大変申し訳ない気持ちになってしまうけど。
後はこれを後ろ盾の貴族の方に贈れば作戦も完了。
…思ったけど貴族に贈るならネレーオさんの実家に贈ったほうがよかったのでは?
「そちらも別で用意してございます。ただ身内贔屓と取られる可能性と、ネレーオ様のご実家にリサ様から贈る理由がないので控えさせていただきました」
じいじが考えていないわけ、なかったですよね!
これで本当に計画完了だね!
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