141 献上品

じいじが考えた計画はほとんど終了し、後はできあがった宝飾品を届けるだけになった。

後ろ盾になってもらっている方は首都にいるそうなので、首都までは私たちが責任を持って運ぶことになった。


つい先日長男の手先を捕まえたので、次の一手が来ないうちにさっさと献上してネレーオさんの宝飾師としての地位を確立するのだ。

ネレーオさんも何か気づいていたかもしれないが、何も言わず穏やかに見送ってくれた。


厄介事を避けるためにたまたま寄った街だったけど、採掘経験や素敵な宝飾師さんに会うことができた。

ネレーオさんがずっと好きな宝飾師でいられるように祈っています!


想定した以上に街に滞在したので、心持ち早めに首都へ向かう。

いい出会いだったから足取りも軽く、あっという間に首都に着いてしまった。


首都に着いたのは夜になったので以前泊まっていた宿が空いているか不安だったが、日頃の行いがいいのかちょうど部屋が空いていた。

今まではじいじと2人部屋だったけど、クリスも入ったので私とクリスで2人部屋をじいじが1人部屋を取るようにした。

じいじが1人の時間を取れるようになったから、私を気にせず色々情報収集をしている気がするけど、まあ今のところ支障はないので目を逸らしておく。


さすがに夕食の時間は過ぎていたので、残念ながら料理長の夕食は食べられなかった。

けれど、持ってきた差し入れを渡すのには逆にいいだろう。

こっそり調理場に忍び込む…わけもなく、ちゃんと宿の人に伝言を頼んで呼ばれた時間に訪問した。


「久しぶりだな!また会えて良かったぜ」

「料理長お久しぶりです!突然お邪魔してすみません」


料理長は変わらず元気そうで良かった。

下心ありでちょっと後ろめたいが、ダンジョンで手に入れたお土産を渡す。


「おいおい、こんな新鮮な果物どうした?首都周辺じゃこんなの育ててないだろう?」

「ちょっとお世話になった冒険者の方にですね〜ちなみにこんなものもあります!」


料理長の疑問をぼかして答える。

リオンさんからもらったものもあるから嘘はついていないよ!

今から出すのもきっと驚くだろうけど、私はこれを使った料理長のデザートが食べたい!

の・で、呆れられようとも出します!

そうしてエルフのAランクの冒険者でもあるリアンさんも驚いていたオーロアップルを料理長に見せる。


「…だぁ!これだって手渡しで渡すもんじゃないだろう!」


予想通り驚いた声を上げられました。

やっぱり普通の果物とは違うから仕方ないが、私の希望はブレない。


「献上しますので、何卒これでデザートを作っていただけないでしょうか」


両手に乗せたオーロアップルを差し出して、敬々しく頭を下げる。

私の頭ひとつで作ってくれるなら安いものだ。

料理長は沈黙していたが、やがて大きなため息を吐き出した。


「レシピもそうだが、価値観が普通じゃないんだよなぁ。自覚はあるか?」

「あります!常識はずれのじいじがいるので仕方ないです」


私がじいじから学んだことは非常識なことだと散々周りから言われた。

じいじは非常識なことだとわかっているけど、自分の利益になることであれば躊躇しない。

なので非常識は自覚はしているが、私も出し惜しみするつもりはまったくない。

私の中では食欲に勝るものはない!


「はぁ〜まあ無自覚よりマシか。とりあえず、これを使ったデザートかぁ。使ったことはないから味の保証はできないぜ?」

「料理長の腕を信じているから大丈夫です!もし足りないようなら言ってください!ご希望の数を献上します!」


料理長のデザートが食べられるのであれば、ある分出しますよ!


「あーまあー頑張ってみるわ」


料理長は深ーいため息をつきながら、諦めたように請け負ってくれた。

私の粘り勝ちだね!

すぐ食べたいということではないので料理長が心行くまで試作して、美味しいものを作って欲しいです。


そんな私の考えを余所に、翌日の朝食に提供した果物が出されていた。

なんと、予想外のフルーツサンド!

なんでも私が提供した柔らかいパンのレシピを使ってコッペパンを作ってみたので、クリームと果物を挟んでみたとか。


もちろん料理長が作っただけあって、とっても美味しい!

甘いクリームと少し酸味のある果物のハーモニー!

ただ、ちょっと残念なことに食べやすさを重視した結果か、新鮮でジューシーな果物を細かく切りすぎていた。

果肉の食感とか溢れ出るはずの果汁がすでにクリームに混ざっている状態。


貴族用であればこのままでもいいかもしれないが、庶民用ならもっと大ぶりに切ってもいいと思う。

ついでに前世で流行っていた柔らかい食パンを使った断面が美しいクリームサンドの作り方も伝えておいた。


手間はかかるかもしれないけど、一口サイズのサンドイッチの大きさで作れれば貴族用でも見栄えも食べごたえもあると思う。

あと新鮮な果物がない時はジャムやドライフルーツをクリームに混ぜても美味しいと思う。


そう思ったまま徒然と料理長に提案していく。

提案すれば料理長が作ってくれると信じているから!


そしてレシピ登録についても料理長に丸投げしようとしたが、流石にそれは無理だった。

その場で料理長と連名のレシピを書かされ、商業ギルドまで持って行くことに。

確かに朝食を食べたら商業ギルドに行く予定ではあったけど、いつの間に知ったのかな。

料理長も抜け目ない人だ。


仕方ないと料理長から預かったレシピを携えて商業ギルドに向かう。

首都が初めてのクリスも一緒に商業ギルドに行くことになった。

首都にも色々なお店があるからじいじと見回ってきてもいいと伝えたのだけど、こういう用事がないと商業ギルドに行けないからと一緒に行くことになった。


商業ギルドにはエミリーさんいるかな。

色々説明するの面倒だし、エミリーさんなら1から説明する必要もないんだけど、副ギルド長だから忙しいかな?

でも前は周りには黙って受付嬢していたから今日もいるといいな。

そんな願いが通じたのか商業ギルドに入ってすぐの受付に笑顔のエミリーさんが立っていた。

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