142 納品依頼

「いらっしゃいませ、リサ様」

「エミリーさんお久しぶりです!」


近寄るとそっと体を動かして何処かに案内してくれるエミリーさんにそのまま着いていく。

クリスも一緒だけど、特に指摘はないみたいだ。

窓口に行くのかと思ったが以前保湿剤のレシピを登録しに来たときと同じように応接室に行くみたい。

レシピの他に献上品の宝飾品もあったからある意味助かった。

流石にあの宝飾品を他の人からも見える窓口に出すわけにはいかなかったから。


「リサ様は首都を出られたあとも楽しい旅ができたようですね?」

「色々あったけど、概ね楽しい旅でした!旅の仲間も増えましたし!」


案内された部屋のソファーに座り、首都を出てからの旅の雑談をすることになった。

首都を出てからは盗賊退治して、ドラゴン退治して、冤罪かけられて、エルフの里に行って、ダンジョン行って、鉱山行ってっと。

首都を出てからなかなか長い旅をしてきたように思う。


もちろん、エミリーさんには詳細な話はしないけど。

正直に話しても信じられる内容じゃないし、驚く内容ばかりだからだ。

自分で振り返ってもちょっと信じられないくらい色々あって気が遠くなる。


「えっと、今日はまず料理長から預かったレシピを渡しますね」

「はい。今回もリサ様と連名ですね、登録しておきます」

「あと、ちょっとお手数かけるんですが、これを」


そう言って出したのはネレーオさんに作ってもらった宝飾品だ。

それを見たエミリーさんは目を奪われたように固まった。

私が改めて見ても目を惹かれる素晴らしい宝飾品だから、初見のエミリーさんがこういう反応になるのも当然だ。

とはいえこのままでは時間がもったいないので、少し時間を置いてエミリーさんに声をかけた。


「っあ!も、申し訳ございません!」

「いいですよ〜見惚れるのも仕方ないですから」

「えぇ、えぇとても素敵な品ですね」


エミリーさんは蕩けるような目で小さくため息を零した。

商業ギルドのナンバー2であるエミリーさんから見ても高評価のようだ。

これなら安心して献上できるかな。


当初の予定通り、この宝飾品を後ろ盾になってもらっている方に献上したいので、私の貴族窓口になると言っていたリンダさんと連絡を取って欲しいとエミリーさんにお願いする。

緋色の獅子メンバーの拠点は知っているものの、いきなり押しかける訳にはいかないし。

こんな高価な品をいきなり持っていったら絶対に怒られる。

リンダさんだけじゃなくシャロンさんにも確実に怒られる。

ちゃんと手順を踏まないといけない!


それに今回はクリスもいる。

私の仲間とはいえ、勝手に拠点を教えるわけにはいかないだろう。

エミリーさんは驚いた表情の後何か考える素振りを見せたが、最後には笑顔で頷いてくれた。

ただ、これほどの物を商業ギルドで預かるのは怖いので、リンダさんと連絡が取れるまで私が持っていて欲しいとのことだった。


以前も変なお花畑のギルド員がいたもんね。

一掃したとはいえ、それはわかりやすい者だけで一癖も二癖もある連中がまだ潜んでいる可能性もある。

それも踏まえ、エミリーさんから連絡がきてから商業ギルドで受け渡しすることになった。


「それで、ちょっとお願いがありまして」

「?できることなら」


エミリーさんからお願いとは。

覚えている限り初めてな気がする。

無茶なことでなければ受けたいとは思うけど。

クリスのことをちらりと見られたけど、今更クリスに隠すようなことはないのでエミリーさんにお願いの内容を話してもらう。


「以前作られた美容液を作ってもらえないでしょうか?」


無茶でも何でもないことをお願いされて目が点となる。

作ることはまったく問題ないのだけど、保湿剤はレシピも登録しているから他の薬師でも作れるはずなのに。

わざわざ私に依頼する理由が知りたいけど、聞いていいものなのかな。


「もちろんです!理由といいますが、本当に大したことはありません」


そう言ってエミリーさんは急に遠い目をしだした。

無理やり聞きたいわけじゃなかったんだけど、エミリーさんが呆れるような理由なんだと察した。

念のため理由を聞くと察した通りだった。


とある夜会でとある貴族の婦人が若返ったと注目を浴びたそうだ。

その婦人が私が作った保湿剤を使っている後ろ盾の貴族さん。

私の保湿剤だけが要因とは思えないけど、貴族さんはその時に自慢しまくったそうだ。

そのため同じくらいの地位にいる他の貴族が同じものを欲しいと商業ギルドに依頼を出しているそうだ。

権力で無理強いとまではいかないが、まだかまだかと無言の圧力がきているそうだ。


貴族なんだからお抱えの薬師に作ってもらったものを使えばいいと思うのだけど、それはそれらしい。

登録したときの騒動と同じで、開発者の作った品物がプレミアム扱いになるのと同じ流れだと察したよ。


「これ、その依頼された貴族様の分だけ作って大丈夫なんですか?」


私が懸念したのは、依頼された貴族の分だけ作ると後ろ盾になってもらっている貴族さんとの亀裂が起きるようなことにならないかだ。

そう私が懸念した通り、エミリーさんもそう思い当たってお伺いをしれくれたそうだ。

事前に手回ししてくれるエミリーさん素敵!


自慢しまくった貴族さんも自分が発端だとわかっているので、詳細をちゃんと調べていたらしく、エミリーさんのお伺いにすぐ返事をくれた。


「作れるようであれば同量作って欲しいそうです。でも時間や材料などで無理そうであれば少量でも作って納めてくれればいいと」

「なるほど、数は問題ないと」


以前にも購入された分があるから、持っている総数で争うようなことではないのか。

大事なのは私が両方に納品したという事実があればいいってことだろう。

まあでもリンダさんと連絡が取れるまで時間かかるだろうし、その間に作ればいいから同量作ることはできるだろう。


エミリーさんに依頼を受けることを伝えると、感激したように頭を下げてきた。

依頼してきた貴族様は納品されるのが当然とすでに相当額を支払っている状況だったというのだ。

うわー貴族様特有の感覚だ。絶対に断られるわけないと思っているんだろうな。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

この国のフォースとレディの後ろ盾さんと同じくらいの地位ということは、そういうことですよね(白目)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る