31 告発

「き、貴様何を!そんなこと言って、どうなってもいいのか!?」

「今までは権力があるからと黙って言われた通り作業したり、誤魔化したりやってきましたけど!この子がいなかったらもう死んでいたんですから、今更脅されても恐れることはないですよ!!」


ゲスが凄んで脅してくるが、お兄さんはその倍以上のものすごい剣幕で言い返し始めた。

お兄さん、相当ストレスが溜まっていたの?

それとも命の危機で若干理性が外れかけている…?


「そちらの執事さんが言われたことは実際あったことです。テントへの侵入や破壊行為は私以外にも冒険者の方も見られています!どちらが正しいことを言っているかは明らかです!」

「冒険者ごときが言うことを誰が信じるものか!?お前らの勝手な妄想だ!!」


お兄さんが他の人を巻き込むが、ゲスはそれすら否定するという水掛け論になりつつある。

当事者だけどここで証言しても冒険者の言葉だから、ゲスは認めないだろうな。

でも熱いうちに打てってわけじゃないけど、今の内に決着つけないと後から問い詰めても惚けたりしそう。

それは被害損!?


「こんな場所で言い合ってる場合かよ」


奥の方から呆れた様子で竜の尾のリーダーのギャレンさんが近寄ってきた。

確かにいつ魔獣の襲撃があるかわからない場所で言い合う内容じゃないよね。

それはわかるけど言い逃れされたら困るのは私たちなので引くに引けないのですよ。


「とりあえずテントは俺も見てたし、伽についても俺のところのメンバーも声かけられたから確定だろう?それ以外は…じいさん何か証拠あるんだろう?」

「よくおわかりですね?」


笑いながら近づいてきたギャレンさんは軽そうな笑みをじいじに向ける。


「抜け目なさそうな顔しているもんな~…俺はこの中じゃ一番あんたが恐ろしいぜ?」

「そうですか」


ギャレンの後半の不穏な言葉はじいじにしか聞こえていなかったが、じいじは微笑んで返答するのでその不穏な気配は周りには伝わらなかった。


「ギャレン殿もそう言うなら確定なのだろうな」

「た、隊長殿!私よりそんな下賤な冒険者を信じるのですか!?」


静かに私たちの話を聞いていた隊長が目を伏せて呟いた。

そうだろうと感じていても部下のやらかしたことを信じたくはなかったのだろう。

分が悪いと思ったゲスはギャレンさんを貶める発言をしているが、それは悪手だろう。


「下賤なぁ?あんたよりはマシだと思うけどな?まあ判断するのは隊長さんで、俺らはここの領主様と公爵様に報告するだけだがな」

「領主様、公爵様に報告…?」

「おいおい?あんた本当に役持ちかよ?今回の遠征、国からの支援もあって行われているんだぜ?どういう経緯で俺らが派遣されたのかも覚えていないのか?」


思っていた以上にこの領地は、エストガース国でも特に注力されているらしい。

改めて考えると、貿易の要である海と豊富な森を保有しているから当然といえば当然。

そのためギャレンさんたちみたいな有能な冒険者が派遣されたんだろうし。

でもギャレンさんが公爵様にまで面識があるとは思わなかったな~


「竜の尾はAランクですが、Sランクに近いと言われています。またギャレン殿も貴族の子息であるので、その関係からこの依頼で受けれたのでしょう」


こんな所でも心の疑問に答えないで!


「いえ、顔に出ておられましたので。ポーカーフェイスは必要ですが、追々でいいでしょう」

「…は~い」


釈然としないけど素直に返事をしておく。

じいじとそんな会話をしている間にも話は進んでいく。


「まあこいつのことについては、大体結論も出たことだし、撤退する準備をすぐ整えて出発しようぜ?」

「またいつ魔獣の群れが襲ってくるとも限らないからですな。重症者は、いないのか?怪我した者は至急手当を行え!無傷な者は辺りを警戒!手当が完了次第、街に帰還する!」


隊長の一言で、領兵たちは一気に動き出す。

こちらに不利にならない雰囲気なので、じいじに促されて倒した魔獣を回収していく。

そんな中、取り残されているのが例のゲスである。


自分の主張を隊長さんに伝えようとしているが、ことごとく無視されている。

隊長さんもゲスの言い訳を聞くより、隊を整えて早くこの場から離れたいのだから当然といえば当然なんだけど、無視されているゲスはそうは思っていないようですごい形相になっていく。


「おかしい、こんなことおかしいですぞ!なぜわしがっ!」

「大声出すなよ、魔獣が寄ってきたらどうするだよ」


隊長に習ってゲスに構うことなく、周りの領兵の皆さんもやるべきことを優先して動いている。

自分が上司はもちろん、部下からも無視されている状況に耐えられず絶叫する寸前、ギャレンさんがゲスの口を布で塞ぎ、両手を素早く縛った。

どう見ても罪人の拘束方法です。


「帰還の邪魔になるからな口と手は押さえさせてもらうぜ?自分で歩かないと置いて行くことになるから気をつけろよ?」


若干殺気を滲ませながらゲスを脅すと、両手を縛った紐先をあの疲れたお兄さんに渡した。

暴れたら困るけど気絶させたら運ばないといけなくなるから、このような対応になったようだ。

しかもわざと歩かなかった場合置いていく宣言。

こんな森の奥に手を縛られた状態で置いて行かれたら死ぬのは理解できているんだろう、怒りから怯えた表情に変わっていく。

ようやく自分の状況が飲み込めたようで良かった。帰りは穏やかな道のりになりそうだ。

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