32 売却

帰還の途中、再度同じ場所で野宿をしたが、その快適さは来たときと比べ物にならないほどだった。

ゲスがいないだけでこんなにストレスなく過ごせるなんて!

人に迷惑かける才能だけはあったんだろうな、ある意味すごい。そしてそのまま大きな事も起こることなく翌日には無事街に着いた。


「長いように感じたけど、振り返るとあっという間だった気がする」

「色々いい経験ができたようで良かったです」


いい経験なのかどうかは置いておくけど、人を守りながら魔獣の討伐もできたし経験値は紛れもなく上がったと言えるだろう。


「依頼の受領もいただきましたし、先にギルドへ報告に行きましょうか?」

「うん!森で狩った魔獣も渡したほうがいいかな?」


ゲスの余罪については一旦隊長さん預かりになったものの、別れ際にじいじは証拠らしきものを渡していたのでおそらく大丈夫なんだと思う。

ちょっと受け取った隊長さんが驚いた表情をしていたのが気になったけど、聞かなくてもそのうち説明してくれるでしょう。


「そうですね。一気に売り出すと値が下がるので本当は小出しに売ったほうがいいのですが、売らないと怪しまれるますからね」

「今はまだ収納のこと公表しないほうがいい?」


アイテムバッグはアイテムボックスと違い時間が停止しないから、腐らずそのまま保存しておくことはできない。

その便利さからアイテムボックスのスキル持ちはどうしても狙われやすい。

狙われても跳ね返せるだけの力を身につけるまでは公表しないほうがいいのはわかる。

だからこの街で売らず他のところで売れば、アイテムボックス持ちとして疑われ、その情報が出回って狙われる可能性が高いけど…。


「じいじのアイテムボックスに預けたように見せかけて、半分くらい残しておいてもいいかな?」


せっかく高ランクの魔獣を確保できたのだから、全部を手放すのは惜しい。

もちろん売値が下がるのも嫌だけど、後からこの素材が必要だった!なんて後悔したくないし。

無制限に保存できるからこその考えかもしれないけど。

生まれ変わっても貧乏性は治らないな~


「良い判断だと思いますよ?売る売らないの極端な選択ではなく、自分に利がある別の選択を提案できるようになったのですから」


じいじが嬉しそうに微笑んで頭を撫でた。

戦い以外で久しぶりにじいじに褒められて、思わず顔がにやけてしまう。


「じゃあギルドに報告と売りに行こう!」


じいじの手を引いてギルドへ向かった。



「で、この山ほどの魔獣を狩ってきたんですか…?」

「結構奥の方で襲撃されたからね!ランクも数も申し分ないと思うけど?」


早速、報告と一緒に、ギルドに売り払う魔獣を積み上げたのだが、偽装して半分とはいえ群れで襲ってきたこともありちょっとした山ができてしまった。

因みに荷物運びの仕事の完了はいつの間にかじいじが書き上げていた数枚の書類と一緒に提出済みである。


「ギルドとしては嬉しいですが、買い取り価格を出すのに少々時間をいただきたいのです」

「どれくらいかかるものでしょうか?」


そういえばギャレンさんたちも魔獣を倒したはずだよね?特にじいじに収納依頼が来ていなかったらアイテムバッグを持っているのか、それともAランクとなれば仲間にアイテムボックス持ちがいるのかもね。

ギルドは更に捌く魔獣が増えて大変かもしれない。

3日くらいかかるかと思っていたけど、もっとかかるかもしれない。


「最低価格での買い取りでよろしければ2日で準備できるかと思いますが、Aランクの魔獣はできればオークションなどの方が倍以上の高値が付くと思いますので」


受付のお姉さんが恐縮した表情で説明する。

お金があればあるだけいいけど、そのために拘束されるのもちょっとな。


「ではAランク以外は最低価格での買い取りしてもらい、Aランクはオークションで売りましょう」

「それが良さそうだよね!オークションはここで開催するの?」

「いえ、オークションは首都のラーナルで行われます。ここは貿易港がある関係でどうしても警備の人手が足りなくなってしまうので」


貿易港だから色々なものが集まり、代わりに不特定多数の人物が行き交うからしょうがないことではある。

そんな中でオークション開いて大物貴族なんかも来て、それを狙った盗賊なんかも来て街の治安が悪くなりそう。お姉さんの言葉に納得だ。


「じゃあその手続でお願いします!」

「かしこまりました。では魔獣は引取り査定いたします。Aランクもオークション出品の査定のためお預かりいたしますのがよろしいでしょうか?」


小規模のオークションなら先に査定すると言うことはないが、今回出すオークションは月1回首都で行われる大規模なオークションになるため先に状態を確認して申請しておく必要があるらしい。


「でもそれだと首都に運ぶまでに状態悪化したら意味ないんじゃ?」

「そうならない為の対策はしてあるさ。ちょうど別件での話もあるからちょっと来てくれ」


呟いた疑問に、背後から近づいてきたギルドマスターが答えた。

主張するように、じいじが出した報告書類を振りながら笑顔で2回ほど訪れた会議室へ促された。

荷物運びの件だと思うけど、顔は笑っているし悪い話じゃないといいな。

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