115 裏ダンジョンの出口

「で、改めて分配方法なんだけど」

「お金が急に必要って言うわけじゃないから、ドロップしたアイテムを欲しい人がもらうのでいいんじゃないかな?いらないものは売ってパーティーの飲食に使うとか?」

「お金に困っているわけではないのでいいのではないでしょうか」


確かに欲しい物をもらえればそれでいいかな。

このメンバーならドロップしたアイテムを総取りなんて考える人いないだろうし。

欲しい物が被ったら、もらった数が少ない人がもらえばいいしね。


「じゃあこのスキル玉が欲しい人〜?」

「僕はいーらない!」

「必要ありません」


クリスとじいじはいらないっと。

クリスは魔法を使うイメージがないし、じいじは自分で魔法が使えるからな。

リアンさんは?と目線を向けると「戦闘に参加していないのでもらえません!」と心なしか涙目だ。

リアンさんの言うことにも一理ある。

クリスの提案もあるので、このスキル玉は私がもらって、じいじに何か魔法を入れてもらおう。


「後は、1階層でクリスが倒したスライムやゴブリンのドロップはどうする?」

「スライムジェルとか魔石とかいらないかな。持っていても使い道ないし」


ということで、クリスが倒したスライムやゴブリンの魔石はギルドに売ることに決まり。

さっき倒したゴブリンの上位種の魔石も誰もいらないので売却決定だ。

これならパーティーの飲食代も安泰だろう。


「そういえば、魔石って魔道具に使うんだっけ?」

「魔道具に使うこともあれば、ランクの高い魔石は薬の材料に使われることもあります」


魔獣を倒して魔石を売却している割にその魔石が何に使われているか知らない。

魔石を使ってある魔道具はじいじが持っているコンロや道具屋さんに売られているコンロなどの高価な品くらいしか見た覚えがない。

高価な品しか使えないのであれば、そんなに需要があるとは思えないけど。


「魔道具と言っても色々ですね。裕福な家庭や食堂などでは、コンロに魔石を使っていますし」

「へー」


10歳までは辺境の村で過ごしてきた記憶はあるけど、どれも原始的な生活だったと思う。

枯れ木や木を切って薪にして、火はかまどでおこして、水は井戸から汲んでいた。

怪我をしても村には医者なんていないし、ポーションなんてなかったから、お布施を払って教会の人の初級ヒールで治してもらうみたいな感じだったと思う。

魔道具のある生活は裕福な家だけなら、それこそ魔石がダブつきそうだけど。


「スライムやゴブリンの魔石は街の灯りとして使われることが多いですね。自力で魔法や魔力で灯りを出せるのは普通の人には難しいですから」

「へー」


街では灯りの燃料として活用されているようだ。

しかし灯りを出すのが難しいというのはどういうことだろう。

魔法を知らないから出せないということではなさそうな感じがするけど。

無意識に首を傾げているとリアンさんは気をきかせて事細かく説明をしてくれた。


まず魔法を使うのであれば魔術師に学ぶ必要があるけど魔法学校の生徒や弟子でもない人に簡単に教えるようなものではないこと。

また自分の魔力を使って灯りをつける魔道具はあるが、魔法を学ぶのと同じように魔力の使い方を学ぶことが難しいため、結果的に魔石を使う魔道具を使用するのだという。


「まあそのため弱いスライムでも買い取りされて、低ランクの冒険者の糧になっているので悪いことではありませんよ」


私もじいじから教えてもらえなかったら、今のように魔法は使えなかっただろうな。

前世のうっすい記憶を頼りに魔法が発動したかもしれないけど、同時に魔力が暴走したかもしれない。

そう考えると最初はハードモードだったけど、じいじと出会えたことで色んなことができるようになって、色々な体験をすることができた。

今は恵まれていると改めて思う。


「ちなみに魔石を使って作る薬は?」

「魔力関連の薬になるためリサ様にはあまり関係ない薬ですね。作るにしてももう少し品質のいい魔石を使って作ったほうがいいでしょう」


一応ゴブリンの上位種の魔石もあるのだけど、じいじ的には高品質ではないようだ。

そう言えば、ローウの街で倒したドラゴンの魔石はどうしたんだろう。

このタイミングで思い出すってことは、まさかじいじ、ドラゴンの魔石を使って薬を作らせる気では…!?


「まあ、その内ですね?」


にっこり笑うじいじにこれは確定だなと確信する。

ドラゴンの魔石、売ったらどれくらいのお金になるんだろう。

それで作る薬ってどんな効能があるのかな。

いやその前に難易度高そう。

でも高価で希少だから失敗できずオロオロしそうな自分の姿が浮かぶ。

慌てても仕方ないから、未来の自分に冥福を祈って、今は頭から忘れておこう。


「さてあまりのんびりするのもどうかと思いますので、一旦このダンジョンから出ませんか?」

「でも出口が見当たらないよ?どうする?壁を破壊する?」


じいじの提案にクリスは矢継ぎ早に質問する。

クリスの言う通り、宝箱の奥に出口がないかと期待したがそれらしきものは見当たらない。

やっぱり壁を破壊するしかないのかも。


「リサ様が手に入れた鍵はどうでしょうか?」

「鑑定では2階層に行くための鍵ってなっているよ?それにどこにも鍵穴は見当たらないし」

「う〜ん、あっ!」


何かを思いついたクリスが、ちょっと貸してと言うので2階層への鍵を渡す。

そして入ってきた扉に近づいて、その扉に鍵を差し込む素振りをすると。


「おおー開いたよ!」

「それでいいの?」


2階層に行く鍵だって書いてあったくせに、1階層の扉を開けられるってどういうこと!

これで元のダンジョンに戻れるのかも知れないと思ったところで嫌な予感がよぎった。

その先って本当にもと来た道なんだろうか?


「クリス待って!先に行かないで!」

「えっ?」


鍵の鑑定には2階層と書いてあった。

クリスが開けた先がもし裏ダンジョンの2階層であるなら、入った瞬間ボス戦になってしまうかもしれない。

クリスを引き止めたが、時すでに遅し。

クリスは扉の先に足を踏み入れてしまった。

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