116 裏ダンジョン2階層

「…クリス!」


クリスを引き戻そうと駆け寄っていくと、ギギギっと扉がゆっくり閉まろうとしている。

まるでクリスを中に引き入れるかのように。

やっぱりこの扉は元のダンジョンに戻る道ではなかったみたいだ。


「えっ!ちょっと、戻れない?!」


クリスも扉から出ようとしていたが、透明な膜のようなものが現れ戻るのを邪魔をされた。

クリスが叩いても弾力のあるようで一向に壊れる気配がない。

一度入った者を逃さないダンジョンの罠のようだ。

私たちは扉の中に入るしかないようだ。


その間にも扉はゆっくりとだが閉まっていく。

ここで入れなかったらクリス1人になってしまう!

ヤバい!間に合え!間に合え!

今までないほどの全速力で扉に向かっていく。

じいじやリアンさんも同じように扉に駆け出していく。


けど無情かな、扉はその間も閉じていく。

もう身体1つ分のすき間しかない。

じいじとリアンさんに目配せして最後のダッシュをする。


「間に合ったーぁ」


リアンさんがスライディングして、私はリアンさんの上をジャンプして、じいじはさらにその上の、扉の上部に飛んで扉をくぐった。

着地はちょっと上手くできなくて、滑ってしまったけど、どうにか扉の先には入れた。

いや〜透明な膜に邪魔されなくて良かったよ。

やっぱり扉の先に行かせるために出てきた膜だったんだろうね。


「リサお姉ちゃぁ〜ん!」

「はいはい。間に合ってよかったね。これに懲りたら1人で先行しないでね」


ガチで一生の別れになるかも知れなかったんだから、本当に自重して欲しい。

クリスも涙目になるくらい怖かっただろうから、身に沁みたとは思うけど。

クリスの頭を撫でて慰めるけど、あまりゆっくりする時間はなさそうだ。


「リサ様」

「うん、いるね。リアンさん通常の20階層の守護者はなに?」


ピリッとした気配を感じる。

これはボス級の魔獣がいるってことだろう。


「20階層はオークキングとオークの群れになりますが、まさかここも?」


リアンさんが感じている通り、ここが裏ダンジョンの2階層であるなら、同じように強化された守護者が出るはずだ。

しかし群れっていうのは面倒そうだ。


「オークの群れはリアンさんにお願いしていい?私とクリスはオークキングを倒そう」

「おじい様には頼まないの?」


このまま戦闘になだれ込みそうなので、準備もなしに群れとボスの両方の相手は無理だと判断してリアンさんに協力を依頼する。

Aランクのリアンさんなら、ただ数が多いだけの群れの殲滅は大丈夫だろう。


じいじに殲滅をお願いすると一瞬で終わってしまうのが目に見えているから頼まない。

それだと私たちの経験値にならないからね。

強制的とはいえ、せっかくの通常より強化されたボスなんだから、もらえる経験値はたっぷりもらわなくては!

まあもし万が一があれば手助けはお願いするけど。

ダンジョンだし罠とかあるからかもしれないから、突発の事態になったらじいじにも動いてもらう。

そう説明するとクリスは納得してくれた。

でもオークキング討伐にそう時間をかける気はないんだけどね。


「そろそろお昼だからね!さっさと倒してご飯にしよう!」


ダンジョンに入って3時間くらい経ったころかな?

お昼ごはんの時間が迫っているとお腹の虫が鳴きそうだ。

お腹が空いたまま戦うのなんて嫌だからね!


「リサお姉ちゃん、その気合の入れ方はないんじゃないかな〜」


逆に気が抜けるよと口を尖らせるクリスの言葉は無視する。

大体クリスが突拍子もないことをしたから、続けてボス戦をすることになっているのに。

もし間に合わず扉が閉まったら、クリス1人だったかも知れないんだよ!

オークキングを倒した後でじいじのお叱りを受けてもらおう。


大体、食欲は人の3大欲求なんだ!

なにより私の中では1番重要なんだ。

何のために冒険者しているかっていうと、食欲を満たすためと答えられるくらい重要なんだ!

そのために気合を入れて頑張るんだから!


「そんな事ないよ!美味しいご飯は大事だよ!お昼はそうだな、トンカツなんてどう?」

「トンカツ…じゅるり」


つい目の前のオークを見てトンカツを思い浮かべてしまった。

クリスも以前食べたトンカツを思い出したのか、口からよだれが垂れそうだよ。

クリスも順調にごはんの魅力の虜だね。


「戦闘時は真剣に集中する!」

「「はーい」」


羽目を外した気はないのだが、じいじから注意の声が飛んできてしまった。

美味しいトンカツが待っているのでサクサク仕上げていきましょう!


「「「「「ブヒィィィ」」」」」


こちらの戦意を感じたのかオークたちが一斉に雄叫びを上げた。

群れはリアンさんに任せるとして、その奥にいる黒いオークキングに向けて駆け出す。


「やっぱり色は黒っぽいから、強化種かな?《鑑定》」


【オークキング(裏ダンジョン強化種)】

裏ダンジョン用に強化されたオークキング

通常種の約1.5倍の体力を有する


オークキングは体力が強化された魔獣のようだ。

といってもゴブリンキングも筋力が強化されていたけどスキルとの相性は良くなかった気がする。

このオークキングの場合はどうだろう。

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