29 襲撃

そう意気込んで当日を迎えたものの、お昼になってもじいじが懸念していたようなことは起きていなかった。

いや、お昼過ぎるまで魔獣を見かけないというのも異常事態なんだけど。

その異常な状況に短い休憩はしつつも、しっかりした休憩は取らず、奥へと進んで行く。


どこまで進むのか正確な情報を知らされていないこともあり、周囲の緊張がどんどん強くなる。

嫌な空気が、どんどん膨らんでいく風船のように思えて、何かアクションがあるとすぐ弾け飛びそう。それが更に緊張感を高めるというループになっているように感じる。


「この空気大丈夫なのかな?」

「いいえ、こんな時はいつもと違うことが起きやすいですが、だからといって周りの空気に飲まれないように。いつもより少し慎重にするくらいの心構えでいいですよ」


周りを刺激しない程度にじいじは穏やかに笑う。


「わかった」

「経験がないとことには緊張しますが、過剰に反応しては視野を狭めてしまうこともあります」


確かにこの前世も含め、こんな緊張感にまみれたことないから仕方ないといえば仕方ないけど、まだまだ経験が足りないことを痛感する。

小さく深呼吸して、入りすぎていた体の力を抜いていつもの自分のコンディションに戻していく。


「いつもの自分に戻れたら、薄く偵察してみてください。ここではランクの高い冒険者もいますし、いつものような全力偵察をすると感づかれて鬱陶しいですからね?」


茶化したようにウインクするじいじに噴き出しそうになる。

せっかくの深呼吸がムダになりそうだったよ!

じいじのいうことにも一理あるので、いつもより薄くするイメージで偵察を行う。


「…えっ?隊の先頭って」

「先頭だけじゃなく…来ますよ!」


じいじはいつの間にか持っていたショートソードで森から飛び込んできたチータっぽい魔獣を一閃する。

私が把握が追いつかず戸惑っている間に次々来る魔獣の首を落としていく。


「ほら、どんな魔獣なのか確認することが疎かになっていますよ?最初の一匹が来る前か、もしくは一匹目を倒した後すぐ確認しなさい」


あ~やっぱりじいじの訓練は厳しい~

初めての体験で、しかも実践で訓練をぶっこむのはお止めください~


「愚痴を言っている暇はないですよ?ほら次が来ますよ?周りにも気を配って」


また心の声に返さないでください~

そういってもじいじが訓練の手を緩めてくれることがないことは経験済みなので、すぐに剣を構える。

そして言われた通り、周りの領兵に被害がいかないように斬り伏せながら魔獣を鑑定していく。


《フォレスターピューマ 冒険者ギルドランクB 森に群れで生活する肉食魔獣》


鑑定に出てくる内容が詳しくなってきているのはいいけど、不穏な内容。

次々襲いかかって来るのは群れが一斉に襲いかかってきているのだと思うけど、その割には協調性がないように思う。普通に狩りなら統制された動きをするはずなのに、むしろ逃げてきた先にこちらの隊列に遭遇した印象だ。



「じいじ!これ襲ってきているより、逃げてきた感じがするのは気の所為?!」

「な、何言って「気の所為ではないでしょうね?次の獲物が来ますよ?」はっ!?」


思わず大きな声を出してしまい、近くの隊士があり得ないと反論するのをじいじが遮る。

そしてそれが皮切りに襲ってくる魔獣が変化する。


「グレートライガーって、えっ?ライガーって種類いるの?しかもAランク??」

「身体強化ができるため、先程のフォレスターピューマと比べ、皮の強度が段違いです。より力を入れて、一閃で斬り伏せなさい」


ついライガーはトラとライオンの子供だという前世の記憶が過ぎて突っ込んでしまったが、そんなこと考えているときではなかった。群れじゃなくて数匹だからどうにか対応できているけど、接近戦で人を守りながら戦う経験がない私にAランクの相手は難しい。


「じいじ、人がいないところに集められない?!」


できれば一塊に集めて、魔法で一掃したい。


「やり方をおしえましょう。見て覚えてくださいね」


いつもは抑えている魔力を滲ませ、土魔法の土槍を発動させた。

足元を狙っているように見えるが、矛先を一方に揃えている。

そしてじいじから漏れ出た魔力がより警戒心を高めて、同時に周りへの注意力を減らしている。


「はい、ここですよ」

「言うことが軽い~《エアーカッター》《エアーカッター》」


あっという間に集めてしまったじいじの軽い言葉を非難しつつも、自分も軽めな返事をした。

そして風魔法で集まったグレー卜ライガーの首を落としていく。

皮が硬いと聞いたので、同じ場所に2回切り刻むことで、首を落とすことに成功した。


「うっし!とりあえず脅威は一段落かな?」


偵察をしながら倒した魔獣を次々収納していく。

ちゃんとマジックバッグに収納するフリを忘れずに。


「…次の群れが来そうかな?」


フォレスターピューマやグレートライガーほど脅威には感じないけど、その分えげつない数が来そうな感じがする。


「次の魔獣を一箇所に集めて見ましょうね?」

「…はい」


抵抗してもムダ。わかっています。

少しでも領兵の人たちを気にしなくていいように、前に出て構える。

こちらに向かってきてくれるから、調整もしやすい。途中でバラけないようにじいじを見習って土槍で中央に集めていく。


「な、何か、また来るぞ!」

「足音が、今までの比じゃないぞ!」


群れの数が多いから、足音で大地が揺れる音が大きく聞こえる。

どれくらい強い魔獣かわからない人たちはフォレスターピューマやグレー卜ライガー並の魔獣がすごい群れになってきていると感じているみたい。


下手に混乱して大騒ぎになる前に仕留めていたほうがいいかな。

群れの先に向かって魔法を放とうと構えた。

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