144 クリスのランク試験

もしかしなくても疑われていたりする?

私とじいじがクリスの依頼を手伝ったと。

クリスもそんな空気を感じたのか頬を膨らませて抗議した。


「魔法を使えばこれくらいの時間で終わらせられるよ!この依頼は魔法でしちゃいけないっていう制限はなかったよ?」

「し、失礼しました!少々お待ち下さい!」


私もだが、後ろから感じるじいじの冷たい視線に受付のお姉さんは慌てたようにギルド内に駆け込んでいった。

クリスの依頼処理をせずに。

なので依頼の処理をしてもらうためには必然的にここで待つことになってしまう。


「クリスどうする?待つ?」


受付のお姉さんが駆け込んだ理由はわからないけど、もしかしてこのままここにいると何か余計なことに巻き込まれそう?

そうなる前に避難したほうがいいかな?


「ううん〜ちゃんと処理して欲しいから待っている〜初ソロの依頼達成だしね!」


初ソロ達成の記念かぁ…なんてぴゅあな


「ついで疑いと放置した分の対価をもらわないとね!」


…ピュアな考えだけではなく打算もあったようだ。

そうだね、疑惑だけでなく処理の放棄もされて待ちぼうけしている状態だもんね。

クリスがGランクでもやる気になればこの短い時間でもかなり稼げるもんね。


「大変申し訳ございませんでした!」


数分待ったあと上役らしき人を連れて受付のお姉さんは鼻息荒く戻ってきた。

何も言わず待たせたあげくその態度に私もじいじも厳しい目を向けた。

それを疑問に思った上役の男性が状況を聞き出し発したのがその一言だった。

上役の人は受付のお姉さんの対応がよくなかったとわかったようだ。


Gランクとはいえ、塩漬けだった依頼を早期解決してきたクリスを疑って説明もせず放置して、上役を連れて戻ってきたと思ったら謝罪もない。

役満どころではない暴挙っぷりだ。


「Gランクでもちゃんと対応しないとギルドの印象悪くなっちゃうから気をつけてね〜」


追加対価を交渉するのは上役の人だとすぐ判断したクリスは受付のお姉さんに軽く手を振って下がらせた。

こんな暴挙をしている受付のお姉さんだが、本人は別にクリスを蔑んでいるわけではない。

たぶん、自己完結する性格と暴走する性質が嫌な方向で噛み合って今回の暴挙を引き起こしたんだと思う。

いや、そんな人を受付に据えるなと思うんだけど。


「そう思うなら相応の手続きして欲しいけど〜?」


クリスは上役と思わしき人ににっこり笑って依頼書をひらひら揺らしてみせる。

表情にも声にも怒りは感じないはずなのにちょっと寒気を感じるのは気のせいではないはず。

その証拠に上役の人は背筋を伸ばし、クリスから依頼書を受け取るとすぐ処理を行った。

塩漬けだった依頼だけあって依頼料もショボいがそれはそれ。

クリスの初めての依頼が達成されました!


「そういえば何か用があったの〜?」

「そ、そうでした。大変失礼なことをしておいてなんですが、この短時間でこの依頼を解決されたとのことで、ぜひ他の依頼も受けてもらえないかと思いまして」


一応受付のお姉さんは仕事をしていたようだ。

街の排水口は今回掃除したところだけじゃないから、短時間で解決したクリスに他の依頼を受けてもらえないか上役の人に相談しに行ったようだ。

もうちょっと相手に説明したほうがいいと思うよ。


「う〜ん、受けることはできるけど、さっきの対応も含めて誠意を見せてほしいかな〜?」


まあだからってクリスが譲歩するわけもなく。

見た目は未成年だけど、一応長年生きてきた世界樹の記憶を引き継いでいる訳なので手加減する理由もなく上役の人にグイグイ交渉していく。

結果、クリスが本日中に首都の排水口の依頼を達成すれば、依頼料を上乗せ、さらにランク試験を受けられる権利をもぎ取った。


未成年は必然的にGランクだけど、討伐ができると証明できるランク試験を受ければランクを上げることができる。

クリスが魔法を使えるってアピールしていたのも良かったみたい。

体格は小さいから魔獣に力押しで負けてしまうと思われそうだけど、魔法だと遠距離から攻撃できるから未成年でもある程度魔獣が狩れると判断してもらいやすいからね。


冒険者ギルドもランク試験を受けさせるだけだから不利益なんてないだろうし。

魔獣を狩れる人が多いほうがギルドの利益になりやすいから、ランク試験でその腕前を確認できるなら未成年でもランクを上げたいだろうしね。


クリスは上機嫌で依頼をこなし、1日と言わず2時間ほどで依頼を達成した。

やる気が半端なかったので清掃自体は一瞬で、ほとんど移動の時間だったけど。


冒険者ギルドに戻るとこんなに早く終わると思っていなかった上役の人が慌てて依頼の精算の対応をしてくれた。

あんまり早いからランク試験の手配もまだできていなかった。

依頼が終わったらすぐに試験かと思ったが、詳細をすると試験は後日になるらしい。


というのも港町リーンと違って首都では即日試験をすることはしないらしい。

首都には学園もあり、そこで力をつけた生徒が冒険者になることも多く、まとめて試験を実施しているようだ。

ちょうど学園の長期休暇前なので一斉に申請している人たちがいるとかで。

確かに未成年者のランク試験は同じ難易度で一度にしたほうが効率がいいよね。


あ、でも逆に未成年者が一斉に試験だとクリスの技量が飛び抜けていると知られてしまうのではないだろうか?

手加減しているとはいえチートじいじと模擬戦をできるだけの実力はあるのだ。

魔獣の討伐だってダンジョンでオークも倒している。

Gランクでオークを倒すとかないよね。


「大丈夫!試験は受付順にするみたいだから、他の受験者の実力を見ながら調整するよ!」


任っせて〜と笑うクリスを見てそれはフラグだと突っ込みたくなる。

いや絶対これ受験者と揉める未来が見えるんですけど!

どうせ学園の首席とか上位クラスとか貴族の子息とかの見せ場を奪ったなんて因縁つけられて、模擬戦をして、逆恨みされる未来が!!


一応!念のために!そんな未来を回避するためにクリスと打ち合わせしておこう。

後ろ盾があってもカバーできるところはしておいたほうがいいんだから!


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お察しの通りそんな未来になりそうな…ふふふ

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