87 エルフの里

「ようこそエルフの里へ」

「うわぁ!」


森のトンネルを抜けた先に、緑に溢れたレンガの家が並んでいる。

前世の北欧?カナダ?そんな感じの街並みっぽい気がする。

1軒1軒の間隔が広く、そこには木や花が植えられているからか、赤茶色のレンガと草木が森の自然と調和している。

ラノベで定番のツリーハウスっぽい家を想像していたけど、いい意味で裏切られた。

とてもゆったりした雰囲気と穏やかな景色にうっとりしてしまう。

この世界の穏やかなエルフにピッタリだね!


「そう思われるのはリサ様だけかと」


じいじがボソッと何か言ったみたいだけど、よく聞こえなかった。

振り返って見てみるけど、微笑んでいるじいじがいるだけだった。

気のせいだったかな?


「リサはこれを付けていてね」


そう言って渡されたのは、蔦をイメージしたような腕輪だった。

材質は木なのかな?と思ったけど、受け取ってみると木にしては強度が違う気がする。

金属にしては軽いし、プラスチックのような質感だ。


「特別な製法で作ってあるのよ。その作り方は後々のお楽しみね」

「作り方見せてもらえるんですか!楽しみです!」


これもエルフ特有の技術が使われているものらしい。

色んな事を学べそうでとてもワクワクする。

さっそくもらった腕輪を付けてみると、あっという間に濃い緑色からガラスのように半透明の緑になった。

また陽の光を吸収して腕輪自体が所々発光しているように見える。

まるで木漏れ日のような腕輪だ。


「エルフは少数民族と言われているが、それでもこの里だけで千を超えるエルフがいるの。全員には紹介できないから。これはリサが許可を得ている里にいる者という証よ」


確かにこんなきれいな腕輪は人族の国にはないだろう。

これだけきれいで光っていればすぐ目につくし、目印に丁度いいね!

じいじも問題ないと頷いているし、里にいる間はずっと付けておこう。


リサはのんきにもそう思っていたが、その腕輪は世界樹の枝が丸一本使用されている貴重品だったりする。

さらにその腕輪には本人の性質が表れるように細工が施されていた。

ステータスに犯罪関係の記載があれば、腕輪の色がどす黒く色が染まる。

エルフ曰く、鑑定はしていないのだからマナー違反ではない、疚しいことをしていなければいいのだからと公言している。

じいじはリサ様がきれいだと喜んでいるからいいかとその事を伝えないことに決めた。

色々あってエルフと人族の溝は意外に深いようなのだが、リサがそれを知ることはなかった。


「まず宿を案内したいところだけど、里には宿がないのよ。だから、わたしの家に泊まってね」

「宿はないんですね?」


こんなキレイな場所なら観光地としても人気になりそうなのに。

疑問に思ったが、そもそもエルフの里が秘匿されているということも思い出した。

外部の人が来ないから宿がないのかもしれない。


「そうそう。来るのは許可持ちだから、基本知り合いの家に泊まることになるしね」


リアさんの言葉通りだと、私たちはじいじの知り合いの家に泊まることになり、それがリアさんと言うことになるということだ。

手紙の魔法でお願いしたんだから当たり前だったね!

自分でボケて自分でツッコんでしまった。


「ここだよ。里の中心にあるから、迷うことはないだろう」


そう思っている間にリアさんの家に到着したようだ。

目の前の家は見上げるほど大きく、豪邸と言っても差し支えないくらいだ。

他の家と同じようにレンガ造りながら、その端から端までの距離が尋常ではない長さで、中央の玄関にいるせいもあるだろうが、それでも端が見えないのは相当の大きさと言うことだろう。

こんな大きな家、中心じゃなくてもすぐ見つけられるだろう。


「1人で住むには大きいと思うかもしれないけど、わたしの工房も兼ねているからね。この広さが必要なんだよ。いざという時の避難場所でもあるね」

「そうなんですね」


何役も兼ね備えているからこの大きさなんだ。

リアの説明によると工房以外にも調薬もしているため、専用の薬草を育てる温室も奥にあるのだという。

幅だけでなく奥行きも広い家のようだ。

里の中より家の中で迷子にならないかちょっと心配になる。


「そこのじいさまがいるから、迷子になることはあるまいて」


じいじの知り合いだから色々できるエルフだと思ってはいたけど。

だからってじいじと同じように当然の人の心を読まないでください。

いつもじいじに心を読まれているため、心を読まれることに抵抗感がなくなってきているけど。

それでも毎回読まれるのは遠慮したいので、口を尖らせて不満をアピールしておく。


「ふふ、可愛いね。こんな素直な子なかなかいないよ?」


そう言ってリアさんはリサの頭を撫でながらじいじに視線を投げかける。

それに対しじいじは何も読めない笑みを浮かべている。

心の読み合い合戦かな?

首を傾げたリサにリアさんとじいじは穏やかな笑みを浮かべるだけだった。


その日からリサの穏やかな日々が始まった。

エルフは長寿命でもあるから蓄積されている経験が文字通り桁違いだ。

なのに奢ったことなく、質問すれば笑顔で対応してくれる。


ある時は洋裁の話。

ローウで購入した使い切れないかもしれないと思っていた羊毛とドラゴンの素材があることを話すと、それを使った防寒具の作り方を教えてもらったり。

ある時は薬草栽培の話。

エルフの里では薬草も育てているので、自分も薬草を育てていることを言うと、お互いの薬草の違いを調べさせてもらった。

そのため薬草がどのように育つのかおおよそ解明することができ、ワーキングスペースの魔法を使用すれば今後は森に入らずとも薬草が使いたい放題となった。

そのお礼にローウで買ったチーズで料理を作れば大変喜ばれ、別の技術を教えてもらったり。

転生してから初めてとも言える穏やかで有意義な時間を過ごしていた。

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