86 憧れの木のトンネル

憂鬱な気分から一転、リサはやる気を取り戻した。

これもじいじが提案してくれたおかげだ。

何か土産を準備した方がいいかと思ったけど、ドラゴンの余った素材を渡せばいいと言われ、頷いた。

また、もし必要であれば現地でデザートでも作ってあげれば喜ばれると。

その言葉に、もしやエルフはメシマズなのかと戸惑ったが、よく聞くと人族と交流が少ないため料理のレシピも少ないという。

なるほど、それであれば料理やデザートのレシピを紹介すればそれが手土産になるのかも。

どのレシピを教えるかは実際好みを聞いてから伝えよう。


「では、宿を引き払って街の外に出てしまいましょう」

「うん!パックちゃんもまた小さくなってくれるかな?」

(コクコク)


善は急げとばかりに準備をしていく。

とはいえ、ほとんどアイテムボックスに入れたままなので、身だしなみを整え、宿を出るだけ。

門を出る際にまた絡まれたらどうしようかと思ったが、そんなこともなくスムーズに街から出ることができた。

散々絡まれていたので警戒していたが、拍子抜けするほどあっさり出ることができた。


「じいじ、エルフの里って近くにあるの?」


行くと聞いていたが、エルフの里が何処にあるのか聞いていなかった。

秘匿されていると言っていたから、こんな街の近くにあるとは思えない。

勝手なイメージだけど森の中にありそうだから、放牧産地であるローウの近くにありそうではあるけど。


「近くにはありません。場所を秘匿されているのはもちろんですが。里出身のエルフか、許可された者でなければ見つけることもできない場所なのです」


そう言ってじいじが転移魔法を発動する。

じいじの転移魔法を体験するのはこれで2回目になる。

使う魔法量だけを見れば、私にも使用できそうだけど、転移魔法をそう簡単ではない。

私が発動するとその複雑な魔法構成から無駄な魔力が多くなり、最後には魔力が足りなくなるのだ。

だから転移魔法を取得したいならまずは魔力操作を上達させなければならない。

何事にも近道なんてないから、基本の魔力操作を丁寧に練習していくのみだ。


「着きました。こちらが入り口になります」

「わぁ〜やっぱり森なんだ!」


着いた先は森の中。

エルフって言ったらやっぱり森の中だよね!

そして目の前に森のトンネルの入り口がある。

あの名作アニメのトト○へ続く木のトンネルみたいだ。

あの大人は屈んで通っていたけど、目の前のトンネルは大人が立ったまま歩けるくらいの大きい。

ちょっと前世の子どもの頃の憧れが目の前に存在しているようで思わずにんまりしてしまう。

もちろんトト○はいないって分かってはいるんだけど。

ちらりと入り口の奥をのぞき込むが、ずっと森が続いているように見える。


「さぁ、この先に行けば里に着きます。行きましょう」

「うん!あっでも許可がないと入れないんじゃないの?このトンネルの先で確認しているの?」


じいじはエルフではないから、許可をもらった人ってことだろうけど、私は初めてくるから許可をもらわないと行けないんじゃないかな?


「ふふ、先に連絡をもらっているから大丈夫よ。お嬢さん」

「あっ」


トンネルの先にいつの間にか立っている人がいた。

エルフ!エルフです!

長い耳に金髪に碧眼!おぉ!イメージ通りのエルフさんがそこにいらっしゃった!

全然気が付かなかったけど、いつの間にかいらっしゃった。

一応じいじに鍛えられているのに、気配を感じられなかったってことはそれだけ強者ってことだよね!

じいじと同じように気配がなかった。


「行くことが決まった時に連絡しておきました」

「さすがじいじ!いつの間に!」

「宿を出る前にですね」


私が身だしなみを整えている間にじいじはエルフさんに連絡していたようだ!

相変わらずじいじの魔法はすごい!近くで展開されていたはずなのに全然気づかなかったよ!


「一応族長をしているエアーディリアよ。普段は族長やリアと呼ばれることが多いよ」

「族長!とってもお若いのに!」


美形なのもあって、人族なら20代に見える若さ!

族長っていうと長老のイメージがあるから、20代に見える人が族長と言われて、反射的に驚いてしまった。


「リサ様ちゃんとご挨拶を」

「あっ、ごめんなさい!リサです!よろしくお願いします!」

「ふふ、人族からよく言われるから気にしていないわ。よろしくね」


ちょっと失礼な対応をしてしまったけど、大らかに許してくれた。

うぅ、ありがたい。

これからエルフの里に入る。未知の世界だから、驚くことがいっぱいあるかもしれない。

驚いても失礼な対応をしないように気をつけないと!


「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。ちゃんと謝れる子に怒るエルフなんていないから」

「はい!気をつけます!」

「ふふ、可愛いわね。さぁ里に行きましょう」


長寿命のエルフから見たら15年しか生きていないリサなんて赤ちゃんの様なものだ。

赤ちゃんならば知らないことが多く、失敗するのは当たり前。

それに甘えずちゃんと自分の非を認め、謝り、改善しようと取り組むリサの姿勢にエアーディリアは微笑ましく感じていた。

さらにいえば、里への出入りが許されている許可持ちの保証もあり、リサが主神様の加護を持っていることもあって、エアーディリアの中ではすでに身内扱いだった。

これが里への出入りも許可されていない、自分の非を認めず自己中心的な人族が現れた場合、弁解の余地など与えず残酷な判断を下したことだろう。

そんなことは知らないリサは、エアーディリアの優しい対応に安堵した。

前世のラノベでは高慢とか排他的なエルフとかあったけど、この世界のエルフは穏やかなんだな〜と見当違いのことを思っていた。


「そうそう、今回ドラゴンの素材が手に入ったのよね?聞いた話だとエルフの職人と一緒に作業してみる?」

「いいんですか!可能なら洋服づくり見せていただきたいです!」

「意欲があっていいわね。できる範囲教えてあげるわ」


エルフの職人の技術なんてそう簡単に見せてもらえないと思っていただけに、とても嬉しい提案だった。

簡単な繕い物しかやったことがないので、是非とも今回の機会に学んで手に職をつけたい。学んでおけば旅の途中でも自分で洋服を繕ったりできるようになれるかもしれない。

それにこの先ずっと冒険者ができるとは限らない。

何があっても食べていけるためには貪欲に、学べる時に学んでおかないと損だもんね!

そんな話をしている間にトンネルの出口が見えてきた。

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