閑散話 港町リーンのギルドマスター

※魔の森への遠征前のお話※


ある日とんでもない奴らが街に来た。

Bランクのブラックベアーを一撃で倒し、アイテムボックス持ちのすごい奴ら。

そんな奴らがなんとFランクだった。

受付の案内ミスになるんだろうが、あれは防げようがないと思っている。

現にオレもあの嬢ちゃんがブラックベアーを倒したとは思っていなかった。


その後はヒール草やらホーンラビットやらゴブリンを大量に持ち込むし。

どうしたって、Fランクの実績じゃない。

本当はBランクくらいまであげてやりたいが、

今でさえ、冒険者らしくない組み合わせでギルド内でもちょっとした噂になっている。

Bランクになれば絶対目立っちまうし、どうやら嬢ちゃんは目立ちたくないっぽいしな。


Dランクに上げた以降は大人しくしているようだが、また騒動が起きないといいな。

嬢ちゃんのお目付け役が厄介そうだからな、嬢ちゃんがあれで常識が学べるのかちと不安だ。

そんなことを思いふけっていた頃のことだ。


バチィッ


何かを弾く音に振り向くと、冒険者が倒れていた。

確かDランクのやつか?

何事だと近寄ってみると驚いた。


そいつの顔に『ステータスを勝手に鑑定しました』の文字が浮かんでいる。


ちょいちょいと文字を触ってみるが、指にインクが付くこともなく、肌はツルツルしていて、書いたわけでは無さそうだ。

鑑定されたやつの仕業か?

しかしどうやってこんなもん顔につけることができる?

そんなスキルあったか?


まだ近くにいるかもしれないと辺りを見渡したのが運のつきだった。

先程、思い耽っていた奴と目があった。


『悪い人にはお仕置きです』


声は出ていなかったが、口元の動きでわかった。

読唇術ができないはずなのに、なぜかわかった。

わかりたくなかった。


「じいじ、どうしたの?あっ人が倒れてる?」

「みたいですね。ギルドマスターがいますからお任せしましょう」


嬢ちゃんには優しく言いながら、任せると言ったときに向けられた視線に背筋が寒くなる。

こいつが倒れたのも、顔に浮き出た文字もあの似非執事の仕業だろう。

ギルド内のいざこざは取り締まる必要があるが、証拠がないならそれは難しい。

更に言うなら悪いのは倒れているこいつだろう。

こいつが起きた後、騒ぎにならないといいが…騒ぎの後始末を考えると頭が痛くなる。


嬢ちゃんと似非執事の姿が見えなくなったタイミングで、そいつは意識を取り戻した。

そして案の定、騒ぎ出した。

「あいつのせいだ!あいつにっ!」と喚くのを聞き流して、人のステータスを鑑定をしたのかと問うと言葉を詰まらせた。


人を鑑定してはいけないという法律はない。

ただ、勝手に人を鑑定するのはマナー違反だ。

警備関係の職業でステータスを鑑定する仕事はあるし、そういった職場なら重宝されることもあるが、基本的にはステータスの鑑定ができると知られると謙遜される。

本人にその気がなくても、知らない間に自分のステータスやスキルなんかを見られ、勝手に吹聴されるかもしれないと恐怖するからだ。


そして冒険者のステータスを勝手に鑑定するなら、実力行使されても仕方がない。

…今回、物理的には実力行使されていないが、かなりひどい対応だな。


まだ自分の顔に鑑定したことが書かれていると知らないから、誤魔化せると思っているんだろう。

鑑定なんてしていない!と否定しているが、その言葉を信じるやつはいないだろう。

何たって顔に、腕とか足とかじゃなく、人と接する上で隠すことのできない顔に書かれている。

石鹸で洗えば消えるのか?

いやあの似非執事の場合そんな生易しいことはしないな。

いつ文字が消えるかわからないが、数日はそのままの可能性が高い。


これだけギルド内で騒げば、少なくない冒険者達がこちらを見ている。

そしてこいつの顔を見てぎょっと驚いて後退する。

“勝手に”ってところを見れば、次は自分が鑑定されるのではと、誰も近寄らなくなる。

冒険者としての信用はガタ落ちだ。

ギルドとしても要注意人物として監視しておく必要もあるだろう。


穏やかな日常に戻ったと浸っていたのに。

平穏なんて、冒険者ギルドで思うことではないことは重々承知しているが、それでもな。


本人たちが大人しくしていても、周りが絡んでトラブルが起きる。

あの嬢ちゃんなのか似非執事なのかわからないが、そういう星の巡り合わせに生まれてきたのかもな。


…俺の平穏もまた一時はお預けだな。


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リサが知らないところでも実はトラブルが起こっていたのでした。

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