65 緋色の獅子の拠点訪問

エイルさんやリンダさんの出迎えを受けて、リビングのソファーに案内された。

他のメンバーはすでに揃っており、緋色の獅子のメンバーと向かい合わせに座る。


「それで来てもらった経緯なんだが、その意図はなかったが結果として迷惑をかけてしまったようで…」

「私たちも知ったのはおじ様から連絡を受けてからなの。でもごめんなさい」

「いえいえ、さっきも言いましたが少し気になった程度なので!そんなに謝られることじゃないですよ!」


項垂れる緋色の獅子の皆さんの様子に慌ててしまう。

受けた被害なんて、ちょっと見られているかなって思う程度だし、実害なんてないに等しい。


「でもその理由は知りたいので教えてもらえますか?」

「もちろんよ!そうね、簡潔にいうと保湿剤についてこれ以上ない後ろ盾が得られたの。もう、それは最良の!」

「そのせいもあって、リサに警護がついていたみたいなんだ」


見張られているということじゃなくて、警護だったんだ、あの視線って。

後ろ盾がついたからって警護って必要なものだっけ?

その困惑に答えるようにシャロンさんが苦笑いしながら教えてくれる。


「とりあえずは商業ギルドにレシピを登録するまでは続けるらしいから、レシピを登録すれば警護はなくなるはずよ?」

「わざわざ警護が付くなんて大げさじゃないですか?」

「普通ならいらないんだけどね」


そう言って教えてもらった内容に顔が引きつる。

後ろ盾を得るために保湿剤を提出したのだが、まずは危険物ではないか確認が入る。

その過程で幾人かのチェックを通るわけだが、その幾人かがあまりにも画期的な保湿剤に興奮して大声で話してしまったらしい。

それを小耳に挟んだ小物が後ろ盾を得る前に捕まえて独占しようと画策しているらしい。


「この保湿剤は本当にすごくて、こんなすごい物を作ったんだったらまた新しいものができるんじゃって思うバカどもがいるのよ。だからリサを捕まえよって考えいるのよ」

「はぁ、一応貴族に逆らうのは不敬罪になるんですっけ?」

「貴族の責務をちゃんと理解しているのであれば不敬罪なんて言い出さないんだけど、そういうバカほど不敬罪って叫ぶのよ」


苦々しい顔でリンダさんが吐き捨てるように言う。

貴族絡みで嫌なことでもあったのかもしれない。

でも予想していた通り横暴な貴族もいるってことだよね。

レシピ登録についてはますます気を付けないと!


「ところで保湿剤のレシピって登録できるのよね?どこかの門外不出の秘術とかじゃないわよね?」

「私が思いついて作ってみただけですね。もしかしたら先に作っていた方がいても、レシピの登録がされていなければ、私にもわからないですが」


シャロンさんは不安そうな顔をしているが安心して欲しい。

前世の保湿剤の作り方をちょっと参考にしてはいるが、これはこの世界のファンタジーな薬草を使っているので完全オリジナルレシピだと思っている。

使っている薬草も前世でいうヨモギみたいにその辺りに自生していて、どうやら雑草扱いされているからこんな草を使って何かを作るって考えるとは思えない。

ポーションが作れるほどの効能もないからレシピ登録している人もいないんじゃないかと思うけど、他に思いついた人がいないとは言い切れない。


「リサが考えたものならレシピ登録しても問題ないわね!」

「じゃあ早速登録しに行こうよ!善は急げって言うでしょう!」

「あっ登録前にリサにはこれを」


登録できると女性陣が活気づく中、リンダさんが差し出してきたものは、ギルド証のような形をしていた。

後ろに名前が記載してあるのは同じだが、表のデザインは商業ギルドとも冒険者ギルドとも違うデザインなので首を傾げる。


「後ろ盾の証明書よ。商業ギルドで登録する際に一緒に提示しておきなさい」

「さっき言った馬鹿な貴族が突っかかって来たらそれを見せてみて!」

「それでも引かなず武力行使していたらぶっ倒していいぞ」


どこぞの貴族の後ろ盾の証らしい。

表のデザインがその貴族を示す紋章ってことかな?

貴族を相手できる証を会ったこともない人にポンと渡すなんて、大丈夫なんだろうか?

そんな考えを見抜かれたのかシャロンさんが苦笑する。


「ここ数日リサの行動をみて判断したそうだから安心して。犯罪とかに使用するのはもちろんダメだけどリサがそんなこと使うとは思っていないから」


どうやら緋色の獅子のメンバーの信頼もあって貰えたようだ。

冒険者のイロハを教えてくれたり模擬戦をしてくれただけでもありがたいのに、世間知らずなことをバカにせず色々手配してくれてありがたい。


「ありがとうございます!」

「いいって!後輩の面倒みるのも先輩の努めだからな!」

「後ろ盾の方にもお礼を伝えたいんですが何か贈り物もしたほうがいいですか?」

「基本的に欲しいものは自力で入手される方だから、どうかしら?」

「また保湿剤みたいな新しい手入れ商品ができたら献上するでいいんじゃないかしら」


やっぱり後ろ盾になれるくらい高貴な方だと、私が持っているものくらい自分で手に入れられそうだよね。

でも感謝の印くらいは贈っておいたほうがいいだろう。

何事も貰い過ぎはいけないっていうし、ちょっとせこい考えだけど贈ったっていう事実があったほうが、貸しばっかり作っているとは思われないだろうし。

後々トラブルにもなりにくそう。

貴族の人に贈っても問題ないものあったっけ?

「じいじ、イビルベアーの眼球って宝飾品扱いだったよね?」

「そうですね。オークションにも中々出ないものなので今回のお礼の品としてもいいでしょう」

「だよね!」


ホルマリンの瓶に入れっぱなしだけど、流石に無骨すぎるかな?

とりあえず出してみてそのまま贈っていいか意見を聞いてみよう。


「これをお礼の品ということで渡したいんですが、そのままじゃちょっと見栄えが悪いとおもうんですが。何かアクセサリーに加工してから渡ししたほうがいいですか?」


マジックバッグから取り出すフリをして、アイテムボックスからイビルベアーの眼球を漬けた瓶を目の前のテーブルに置く。

じいじに合格をもらっているから品質的には問題ないはずだ。

洞窟でじいじに教えてもらって一から下処理した体験がとても遠い昔のように感じるけど、まだ数ヶ月しか経っていないんだよね。

転生してから一番濃密な時間を過ごしているなと改めて感じる。


「い、イビルベアー?ってことはこれ、深紫の涙!?」

「深紫の涙?あっそういう別名があるんですか?」

「本物の、イビルベアーの眼球であれば、宝飾名として深紫の涙と言われているわ」

「へー」


確かに戦っている時のイビルベアーの瞳の色は赤紫系の色だったが、ホルマリン漬けにしたら黒みがかった濃い紫になっていたな。

その紫の色から宝飾名が付けられたみたいだ。

確かにいくらキレイでも貴婦人が眼球なんて言っているイメージはないわ。

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