64 見張りの視線
緋色の獅子メンバーの報告でエストガース国の上層部が右往左往しているなんて思ってもみないリサは宿で夕食を取っていた。
商業ギルドから戻るとすぐに宿の料理長にすべてレシピ登録ができたことを伝えた。
その報告に満面の笑みを浮かべた料理長は早速その日の夕食から提供を開始した。
流石プロの技。自分で作ったよりも洗練されていて、とっても美味しかった。
食べ終わって食堂を見回すとデザートを出された全員が驚いた表情をし、恐る恐る一口食べると、その後は夢中で食べていた。
中にはおかわりをする人もいる。
リサにとってはありきたりなデザートだが、周りの反応からデザートの種類が少ないのかもしれないと感じた。
まだまだ食べたいデザートはあるが、しばらくは新しい料理は作らないようにしたほうがいいかもしれない。
もし作るなら商業ギルドでレシピを確認してからがいいかな〜などとのん気に考えていたが、その場合、間違いなく商業ギルドの受付嬢であるエミリーに見抜かれ、捕まってレシピを登録する羽目になることを思いついていなかった。
美味しい料理を堪能したところで、これからの予定をどうするか考える。
冒険者ギルドで首都内の依頼を受けてみてもいいかと思っていたが、ランクアップの騒動があったからしばらく近づきたくない。
また絡まれるのはゴメンだし。
とりあえず、野営地で教えてもらった組み立てしやすいダミーテントを購入しながら街の中を数日フラフラすることにした。
首都だけあって、とても広く1日では回りきれない。
いざと言うときのためにも街中を把握できるようウインドウショッピングをしながら楽しんだ。
欲しいと思うようなものはなかった、というかじいじが持っている物のほうが良すぎて欲しいと思えるものがない。
けれど可愛いものやキレイな物を見るのは心躍る時間だった。
勇者に祭り上げられてからゆっくりする余裕があまりなかったものだからこういう時間がないと人生楽しめないものね。
今持っている服はじいじからもらったものだけだから、いくつか普段着も買っておいたほうがいいかと思っていたが、それはじいじが必要ないと頑として譲らなかった。
普段着が必要であればこちらをと、素朴なデザインのワンピースを渡された。
じいじから渡されるものは普通じゃない可能性があるから鑑定してみるとやっぱり今着ている冒険用のワンピースと同じ製法で作られたものだった。
き、奇跡の一着がまだあったなんて…!
ちなみに鑑定スキルは持ち物を一通り鑑定したことで能力アップして、原材料がわかるようになりました!
白目を向きそうになったが、なんとか堪え、じいじに他の服はないかと聞いたが出される服の殆どが魔獣の素材と世界樹の素材を使った服だった。
奇跡の一着は一着ではなかったよ、お姉さん…。
きっとこの並んでいるのを服飾士のお姉さんに見せたら卒倒するかもしれない。
しかしじいじが出してくる服はどうしてそんな高級品しかないのかと打ちひしがれるリサを横目に、じいじはホケホケ笑う。
「街中とはいえ、いつ何が起こるかわかりません。いつでも対応できるよう、後手に回らないよう備えが必要なのですよ?」
それにそんなに貴重なものではありませんしと呟くじいじに言いたい。
世間では国宝以上の貴重品なんだよ!
じいじが言うほど気軽に手に入るものじゃないんだと!
しかしじいじと世間の評価が違いすぎて、じいじに理解できないことはすでにわかりきったことだ。
じいじからもらった服はその製法は置いておいても、幅広いデザインで中古の平民の服に見えるものもある。
それを突き返すのも勿体ないし、むしろ外見より性能が高い服なんてお得だよね!
リーヴォルの服屋のお姉さんも触らなければわからなかったっていうし、見つかったら見つかった時!と開き直ってじいじから洋服をもらい、それを着回すことにした。
「でね、じいじ。ちょっと気になっているんだけど…」
「そうですね。害意はないようですが鬱陶しいですね」
やっぱりじいじも気づいていた。
気のせいだと思いたかったが、じいじが言うなら確定だろう。
首都に着いた翌日くらいからか、視線を感じた。
その日だけなら冒険者ギルドで絡まれたのを見た人から注目されたのかと思っていたのだが、その日から今日までずっと視線を感じるのだ。
毎日見られているなんてそれは見張られているってことだと思うんだけど、心当たりがないから余計どうしていいかわからない。
また見張っている人も複数いるようなので組織的な何かに見張られていると思われる。
「気になるようであれば排除しますが?」
「排除とかは別にいいけど」
外から様子を伺う程度で、部屋の中までは見られていない。
前世だったらストーカーとプライバシーの侵害になるんだろうけど、この世界にプライバシーなんて存在しない。
他の人がいる場所から見ているだけなら何の罪にもならないし。
勇者時代は寝ているときも監視されていたのでそれに比べたら軽いものだ。
それに私から見た感じは戦闘系の人ではなさそう。
どちらかというと隠密系かな?
それなら冒険者業中は追ってこれなくなるだろう。
「そもそも何で見られているの?そこが解決しないとイタチごっこにならない?」
今見張っている人を追い返してもまた別の人が派遣されるなら意味ないし。
他の手段で来られたらまたそれは面倒臭い。
「ではその原因に確認しに行きましょう」
すぐには行けないので、明日行きましょうねとじいじはにこやかに笑った。
すでに原因まで把握済みとかすごくない?
基本じいじは私と一緒にいたよね?いつそんなこと調べることができたのか不思議でならない。
いつかじいじくらいスマートに物事の対応ができるようになれたらいいな。
*
「こちらですね」
「ここ…?」
じいじに案内されて訪れた場所は見知らぬところだった。
でも部屋の中から知っている気配がするのでとても戸惑う。
えっ?本当にここが原因なの?
戸惑う私を余所にじいじはその建物へ入っていくので慌ててついていく。
「いらっしゃい、リサちゃん」
「シャロンさん…やっぱりここにいるの緋色の獅子の皆さんの拠点なんですね」
つい数日前まで一緒にいたからその気配を覚えていたから間違えてはいないと思ったが、見張られている原因が緋色の獅子のメンバーであるということが直結しないので余計混乱する。
「すまないなリサ、ここまで来てもらって」
「いえ、それは良いんですが。やっぱりここって皆さんの拠点なんですか?」
「そうよ。いつか案内しようとは思っていたんだけど、まさかこんな要件で呼ぶとは思わなかったわ」
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