63 順調すぎた依頼の要因(※エイル視点)
リサがレシピの登録に追われている頃、依頼が終わり拠点に戻ってきた緋色の獅子のメンバーは部屋で寛いでいた。
だがリーダーのエイルだけは悩ましい表情をして唸っている。
「な〜にしかめっ面しているの?無事依頼終わったんだから良い顔しなよ〜」
「そうなんだがな」
そんなエイルをシエラが茶化すが、エイルの表情は晴れない。
他のメンバーはエイルが何を考えているかなんとなく予想がついている。
だから頭の中でぐるぐる悩んでいるだけじゃ解決しないからほらほら話してみなよと軽く言葉をかける。
「今回の依頼、順調に到着しただろう?」
「言っていたね〜盗賊も出てきたのに早すぎるって。本当であればもう数日は遅く到着するはずだったんでしょう?」
エイルの悩みは依頼の日程にあった。想定よりも早く到着しすぎたのだ。
盗賊を捕縛した上に想定していた日程より早く到着するなんて普通はありえない。
まあ、そのおかげで込み合う前に拠点に帰ってこれて良かったと思う。
オークション直前だと、人が多くて混雑するし、食料など色々なものが不足するので先に買い込むことができた。
それにはいつもは満室になる宿をリサたち用に確保することができたのだ。
良いことだらけなのでいつもこのような日程で動くことができればと思ってしまうが、その要は依頼を一緒に行ったリサたちらしい。
「シャロンは聞いているんだよな?」
「えぇ、でもこれはここだけの話よ?それに詳細までは教えられないわ」
首都が見えた際にそのようなことを話していた。
リサは気軽な感じで話そうとしていたが、シャロンとおじいさんが相談して、他に聞かれない場所で話すと約束したのだ。
誰にも聞かれないように防音結界を展開すると、エイルに話を振られたシャロンは真剣な面持ちでメンバーを見回した。
ピリっとした緊張した空気が漂う。
「あのおじ様がその、ちょっとした人避けの魔法を使っていたのよ」
「人避けか?王家の影とかが使うやつか?」
「でもそれって、動いていたら使えない魔法じゃなかった?」
メンバーそれぞれもその魔法については知っていたが、それは移動中に使えない代物だ。
潜伏している場所を悟られないため、または護衛する者が他者に見つかりにくくするために使用されていたはずだ。
範囲だってせいぜい数mだったはず。
その内容に頷きつつ、シャロンは目をそらす。
「恐ろしいことに、移動中にしかも数km以上の範囲で使用できるらしいの。だから、移動中すれ違う人が極端に少なかったでしょう?首都に向かっているのに」
「そういえば」
いつもは首都へ向かっていれば他の出稼ぎや行商にたくさん会うはずなのに会った記憶がない。
野営地でも他に泊まった人たちはいなかった。
そう考えてメンバーの背筋が凍る。
「それってまじか?俺たちも気づいてなかった…!」
「明らかに違和感があるはずなのに!」
そんな大規模なものが使われたのであれば、普通は気づくはずなのに、言われるまで、違和感すら感じなかった。
それだけでいかにすごい魔法が使われていたかわかる。
というかCランクの依頼に使用するもんじゃないだろう!
「あのおじいさん、どこかの密偵だったりしないよね?」
「そうじゃないと言い切れないのがまた…」
「でもそれだとリサは?」
「他国の貴族の令嬢か庶子かと思ったぜ?爺さんはお目付け役的な感じでいるのかと」
ラウルの言う通り獅子のメンバーは当初、どこかの令嬢かもしくは隠されている庶子なんじゃないかと思った。
でも髪と瞳の色合いがこの国の貴族にはない色合いだったから国内ではなく他国の血を引いているのかもしれないと。
着ているものもよく観察すると高級なものだと思うし、言葉も丁寧、食事のマナーも知っている。
なので当初の予想が当たりだと緋色の獅子のメンバーは考えた。
リサがここにいれば、服に関してはじいじからもらっただけで高級品なんて知らなかったです!言葉遣いも食事のマナーも前世の教養があっただけです!と泣いて否定しただろう。
また誤解する要素はまだあった。
リサの魔力量はどう考えても一般人の規模ではなかった。
道中シエラが気になって出身を聞いたときに隣国の村出身の身分証を見せられていたが、それも貴族の血筋だとわからないように用意されたものとしか思えなかった。
「ただなぁ、不自由してなさそうな令嬢がわざわざ冒険者になるか?」
「いや、目の前にわざわざ冒険者になった人がいるでしょう?否定する要素じゃないでしょう」
そう言ってメンバーの視線は一点に集中するが、それはさておき。
「これって報告案件?」
「ちょっと保湿剤の話も持っていきたいのに、不穏なこと言わないでよ!」
保湿剤は美容に拘る女性陣がとても気に入っており、今後も入手できるよう後ろ盾になってくれそうなところに訪問する予定らしい。
その事を聞いて改めて女性陣の肌を見ると、冒険者業で日焼けしていた肌が全体的に白くきめ細やかになっているように思う。
第三者から見ても効果がわかるほどすごいこの保湿剤を女性陣はもう手放すことができない。
「確かにすごい効果だな」
「そうよ!朴念仁の男どもすらわかるこの効果!外に出るだけで日差しの攻撃を受け、魔獣との戦闘で擦れる肌がこの通りなのよ!」
だからこそ商業ギルドに登録した後に余計な横槍がないように万全を期したいのだ。
この効果があれば、親しくしている高位貴族の後ろ盾はすぐ得られると確信している。
女性の美に対する執着は貴族・平民問わず恐ろしいものだ。
身内に女性がいる者たちはそれを身を持って知っている。
そして男性陣の頭にチラッと過ったことがある。
保湿剤がリサの血筋の貴族の門外不出の秘伝だったら、後ろ盾を得たとしても入手することが難しくなるかもしれない。
そんなことになったら女性陣が荒れ狂うだろう。
そして自分たちはそれを止められない。
ヤバいなと思ったが、お利口な男性陣は口には出さなかった。
「でも話さないのは無理じゃない?黙っていたほうが変に疑われるわ」
「そうだな、その辺も含めとりあえず報告はしておこう。判断は上に任せるさ」
リサが他国の血を引いていており、そのため凄腕の執事が付き添っている可能性があること。
また知識が豊富で今後も新しい物を生み出す可能性が高い才女であることを手紙に綴る。
証拠の品として後ろ盾用の予備の保湿剤も複数、同封して上層部に丸投げした。
それを受け取った上層部はもしかしたら相当高位の庶子の可能性も考え、その裏付けのため奔走することになった。
特に安全性が認められた保湿剤を使用した某ファーストレディからものすごい圧力があったとかなかったとか。
決して証明されない裏付けのために右往左往する姿を、もしリサが知っていたのなら「ご愁傷様です」と手を合わせて言っていただろう。
まさか主神の加護を持ったが故に一時勇者に仕立てられた村娘とは誰も思いもしない。
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