66 深紫の涙

「リーンの魔の森で狩ったんです。じいじにも確認してもらったからイビルベアーで間違いないと思います!」

「あ、うんそうね。ここまで綺麗な濃い紫の色は深紫の涙でしょうね」

「いいの〜リサ?オークションに出せば相当な高値で競り合うと思うよ?」


元々貴族対策として何かあれば渡そうと考えていたからここで贈り物にしても問題ない。

お金もまあまあ持っているし、魔獣のオークション後にはもっとがっぽり入る予定でもあるから、この眼球、もとい深紫の涙を贈ってもお金の心配もない。

私が持っている中で一番高価なものっていったらこれだろうしね!

流石に保湿剤のように貴族が気にいるものをポンポン作り出せるわけじゃないし、未確定のものをお礼にはしたくないし。


「いいんです!私が持っているもので、貴族の方に渡せる一番高価なものはこれになるので!で、流石に瓶詰めのままじゃ無粋すぎます?」

「いい、いや!そのままでいい!深紫の涙は鮮度が命なんだ!」

「鮮度?」


宝飾に鮮度とは如何に?

元々眼球という生モノだったんだから鮮度って言えば鮮度だけど?

でも既に宝飾になっている眼球に鮮度なんてあるの?


「深紫の涙は元が眼球だからか、加工するとき特殊な方法を用いないと劣化する」

「劣化…」

「そう。今は濃い紫だが、劣化すると赤茶色にくすんでいく」

「くすむ…」


元が赤紫色の目だったから死後劣化で赤い血が酸化して茶色になるのかな〜

いやでも宝石だよね?

宝石が変色?変色するのに宝石なの?

それって外に出せないんじゃないかな?

アクセサリーにもできないの?家に飾っておくだけ?


「リサ、ものすごく困惑している」

「どちらかと言えばこちらが困惑するんだが。持っているってことはAランクのイビルベアー倒したってことだろう?」

「そうね、おじ様にもらった国宝級の物を出していないから、恐らくリサちゃんが自分で手に入れたものを出しているんだと思うけど」


お互いが困惑しているカオスな状況になってきた。


「とりあえず、それは瓶詰めのままでいいから」

「じゃあエイルさん達が持っていきます?それとも警護の人に渡しておきますか?」

「えっ?警護の人がどこにいるかわかるの?」


隣の部屋から前に監視していた人の気配がするからてっきり知っているものと思っていたけど、シエラさんは知らないらしい。

ちらりと視線を隣の部屋に向けると、エイルさんが驚いた表情をする。


「よくわかったな?」

「以前警護された方と同じ気配だったので」

「気配ってそんなに区別つくものなの?それ街中で大変じゃない?」


気配を探ったり区別する練習をしていた時はそれは大変だった。

じいじも気を使ってまずは森の中で練習させてくれたくらいだし。

練習してようやく慣れた感じだ。

街中では気配は極力探らないけど、気になった気配にはマーキングをつける感覚ですると自分の近くにいるときにわかるようになっていた。

そして最近視線を感じたときの気配を隣の部屋から感じたのだ。


「慣れですかね。それで警護のお兄さんに渡せばいいですか?」

「すでにご存知のようなので、俺がお預かりしますよ」


苦笑しながら部屋に入って来たのは、思ったより背の高いお兄さんだった。

見つからないように潜んでいると聞いていたので、無意識的に小柄な人だと思っていたようだ。


「お手数ですがお願いします!」

「承りました。…確かに、深紫の涙で間違いないですね」

「あっお兄さんは鑑定持ちですか?」

「えぇ、申し訳ありません。念の為に確認させてもらいました」


高貴な方へ渡すんだからチェックは必要だ。

だから申し訳なさそうに眉を下げたお兄さんに謝罪は必要ないと首を横に振る。

信頼関係もないのに下手なもの受け取るわけにはいかないものね。

危ないものだって混じっている可能性だってあるんだから。


「しかしすごいですね。最高品質の深紫の涙なんて初めてみました。これは倒されてから1日以内に加工しないといけないはずなんですが」

「最高品質なんですか?死後から加工までの時間も品質に関係するんですか?」


イビルベアーの眼球を見たのも加工したのもこれが初めてなので、市販されている深紫の涙の品質がどんなものか検討も付かない。

瓶詰め前の鮮度も関係するってこと?

やっぱり色とかも変わるのかな?


「はい、死後時間が経つとやはり赤色が強くなり、その状態でアクセサリーに加工すると焦げ茶に変色してしまいます。イビルベアーの眼球を加工したものは一応すべて深紫の涙と呼ばれますが、本来であれば名の由来となったこの濃い紫が出ている宝飾に付けられるのが正しいのです」

「じゃあお返しの贈り物にもバッチリですね!」


加工に失敗すると紛い物扱いされることもあるらしいけど、名の由来になった色が出ている状況ならベストな贈り物になるでしょう。


「貰い過ぎな気もいたしますが、本当によろしいのですか?」

「面倒な貴族の方の対応が楽になるなら安いものです!欲しくなったらまた捕まえに行けばいいだけなので!」

「そう、ですか」


お兄さんは引きつったような顔をしつつ、瓶を受け取った。

普通であれば、狩るのも大変でそれも街まで持ち運ぶのも大変なイビルベアーを簡単に捕まえられるという常識外れの言葉に引いたのだが、当の本人はわかっていない。


「さて、流石にそろそろ登録しに行きましょう?私たちも着いていくからね!」

「そうそう!ついでに帰りにショッピングしない?首都のお薦めのお店教えてあげるわよ!」

「いいですね!じいじはどうする?」

「少しお話してから宿に戻ります。服以外であればお好きなものを買っていいですからね?」

「はーい」


女性だけのショッピング第2弾だ!

登録しに商業ギルドに行くのは少し億劫だけど、楽しいショッピングが待っていると思えばやる気に繋がる!

軽く身支度を整えて、今回はシャロンさんも含め4人でショッピングに行くこととなった。


「じゃあ、じいじまた後でね!」

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