106 ヴェッレット街のギルドマスター

「僕が問題を起こしたわけないよ。起こったから呼んだんだ」

「わかってるって!Aランクの中でも温厚なお前だからな。それに、もしお前が問題を起こしたんならよっぽどの事だ」


背の高い男性が楽しげな口調で2階から降りてきた。

リアンさんに軽口を話している姿を見ると親しい人のようだ。


「話は…部屋でした方がいいみたいだな」

「詳細を聞きたいと言うなら、そうだね。お願いするよ」

「んじゃ、こっちだ」


男性に言われる方向へ進むリアンさんの後ろをついていく。

ちょっと話しただけでも会話が通じる様子をみると本当に仲が良さそうだ。


「で、どういうわけなんだ?」

「後ろの方たちとパーティーを組むように依頼したら拒否されたんだよ」


案内された部屋のソファに座るなり、男性は訳を聞いてきた。

それにリアンさんが素直に答えると男性は視線をこちらに向けた。


「…なるほど、それは失礼な話だな」


男性はしばしこちらを見たと思ったら、頷いてリアンさんに同意した。

見る人が見ればじいじの凄さはわかるもんね。

港町リーンのギルドマスターもそんなこと言っていたし。

リアンさんも男性の同意に誇ったような顔をして笑う。


「だよね!大体さ、パーティーを組むのも離れるのも冒険者の自由だろう?それなのに、あの対応はないよ。あの受付嬢を雇うなんてこのギルド大丈夫なの?」

「相変わらず容赦ないな。でもお前の言う通りあの受付はない。口利きした奴がいるだろうからそこのヤツと諸共クビだな」

「うんうん、ダンジョンがある冒険者ギルドを任せられているんだから油断はしないようにね」

「冒険者なんだから自分の力でのし上がればいいものをなぁ。足を引っ張りたい連中が多くて困るわ」


はははと笑いながらも目が笑っていない男性にちょっと顔が引きつる。

この話、部外者が聞いちゃいけない内容じゃないかな〜?

惚けて聞かなかったことにしたいと思わず顔を明後日の方向に向ける。


「そっちの彼女たちも気をつけてな?特にアードリアンのパーティーメンバーになるなら遠からずそういった連中が近づいてくるから」

「あーそれは聞きたくなかったです」


視線を反らしていたというのに、助言と言う体の忠告をもらってしまった。

わざわざ言うっていうことは親切なんだろうけど、同時に巻き込む気満々な感じがする。

ここは仕切り直して話を変えよう。


「こっほんっ。それで貴方がリアンさんの言われていたギルドマスターでいいんでしょうか?」

「おっ?そうだったな、自己紹介がまだだった」

「うわーここまで連れてきておいて名乗ってないとか礼儀がないね〜」

「お前が珍しく怒っていたからそっちに気を取られたんだよ!挨拶したいから茶々入れるな!」


テンポのいい会話に仲良さそうだと思ってはいたけど、本当に親しい間柄だとわかる。


「改めて、ここのギルドマスターをしているエルヴィンだ。ちなみにアードリアンとは前に一緒にダンジョンなんかを冒険した仲だ」

「リアンさんと冒険…なるほど」


リアンさんの口調も砕けていたし、会話も気安い。

一緒に冒険した仲間なら当然だと納得する。

相手が自己紹介したのであれば自分も名乗らなければいけない。


「えっと、Cランクのリサと言います。同じくCランクのじいじと」

「昨日登録したばかりのクリスだよ!」


自分の名乗りをした後に視線を向けると、クリスもすぐ意図をわかって自己紹介をする。

僕ちゃんとできたでしょう!と言わんばかりの顔でこちらを見てくるクリスが可愛く感じる。


「あぁ、今後もこのギルドをご贔屓に!んで、さっさとパーティー登録しておくか」

「エルヴィンにしてもらえたら因縁つけられることもないか〜リサ様たちもそれでいいでしょうか?」

「それならよろしくお願いします」


他の受付嬢に依頼してまた因縁つけられたくない。

だからギルドの最高権力者であるギルドマスターに対応してもらうってことか。

確かにその方が早い。


「おぉ!お前が敬語使っている姿を見るとは思わなかったぜ!」

「やっぱりリアンさんは普段敬語使わないんですか?」

「会ったときから上から目線の口調だったな。エルフは基本そんな感じだったから気にしなかったけどよ、今の敬語聞いてゾワってしたわ」


そう言って腕を擦るエルヴィンさんの肌を見ると鳥肌が立っていた。

リアンさんの敬語にそんな反応するなんてよっぽどだ。

エルフの里で関わった人は基本砕けた口調だったし、リアンさんの口調は聞き慣れないとは思っていたけど、そもそもリアンさんが使い慣れていないのも原因なのかな?

だから口調が定まっていないってことか。


「リアンさん慣れていないならなおさら口調崩してもらっていいですよ?」

「いや、しかし、それでは任せていただいた族長に申し訳なく」

「あーお前が敬語使っていると逆に余計なことに巻き込まれないか?」

「あぁ、そんなパターンありそう」


リアンさんがAランクだと言っていたし、憧れる人がいっぱいいそう。

そんな憧れの人が下出ではないけど敬語を使っている相手がご年配と女2人、しかもその内の1人は登録したばかりの未成年。

これは…絶対絡まれると断言できる案件!


「まあ言葉が通じない奴にはアードリアンとパーティーを組んでいる時点で絡んでくるだろうけどな」


それはリアンさんと一緒に行動できないと言っているも同然では?

ちらりと視線をリアンさんに向けると青ざめた顔を横に振っている。

族長のリアさんに任されたって言っていたから無責任なことをしたくないんだろう。


「困る困る!族長に怒られる!」

「族長ってそんなに怖いのかよ?」

「当たり前だろう!」

「速答かよ!笑える!んじゃてっとり早い方法をやるしかないだろう!」


ギルドマスターの輝かしい笑顔にとっても嫌な予感しかない。

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遅れました…。

すみませんうっかり日付を勘違いしておりました。

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