107 ギルドマスターの提案

「力を知らしめるしかないだろう!」


そんなことだと思いましたよ!

冒険者は強くてナンボな所があるから、ランクが低くても強いと分からせればいいと考える人が多い。

実力主義は悪くはないんだけど、なんでもそれで解決しようと考えるのは困る。


「やってみて損はないだろう〜訓練場も空いているし、何なら対戦相手も見繕うぜ?」


考えている間にもギルドマスターは対戦をものすごく推してくる。

ただ、強さを見せたところで未成年の女の子というフィルターがかかると適用されなくなる可能性もあるのに。

それに世の中はそんなに上手くはいかない。


「対戦したら絡まれなくなると思います?」

「なくならないと思うか?」


疑問に思うのは当然なので、ギルドマスターの質問に頷く。

人は自分の見たことしか信じない人が多い。

対戦して強いところを見せてもそれを信じるのは、あくまでもその場にいた冒険者だけだろう。


「絡まれる頻度は減っても全く絡まれないということはないでしょう?」


どうせ絡まれるならわざわざ見世物になる必要はない。

いつの間にかにらみ合っているように見つめていたギルドマスターがあぁ〜とため息をついた。


「えぇ〜残念〜面白い対戦だと思ったのに〜」

「お前は賭けがしたいだけだろう?」

「…てへっ」


リアンさんの指摘にてへっなんて某ペロりキャラクターみたいな顔しやがった。

大人の男性がしても可愛くとも何ともないどころか、引いてしまう。


「賭けだけじゃないぜ。冒険者たちの鬱憤を間引きするいい機会かな〜と思っただけだよ」

「悪気もなくリサ様たちを巻き込むな!」


おぉう、困っている友人の仲間をあっさり見世物にする気だったのか。

ギルドマスターとしてのお仕事と言う面もあるためか、悪意がなかったから全然分からなかった。

リアンさんはもしかして巻き込まれたことあるのかな?

深読みすると自分を巻き込むのはいいと言っているように聞こえるけど。


「とりあえず!対戦しません!早くパーティー組んでダンジョンに潜ってしまいましょう!」


いつまで経っても話が進まないので、当初の予定通り進めた方が早いと決断する。

冒険者ギルドにいれば絡まれる確率が高いなら、さっさとダンジョンに潜ってしまえばいい。

ダンジョンは広いし、見かけてもそうそう絡んでこないだろう。

…この考え、フラグにならないよね?


「しゃーねか。んじゃギルドカード出せ」

「はーい」


対戦を諦めたギルドマスターはすぐにパーティー登録をしてくれた。

そしてすぐ執務室へと戻っていった。

ギルドマスターも暇じゃないからね。

特にダンジョンを管理するギルドマスターなんて仕事が多そうだ。

いつまでもここにいるとまた巻き込まれるかもしれないので、さっさとダンジョンに向かうことになった。


「巻き込まれ防止の為にダンジョンにそのまま泊まり込むのはありかな?」

「そうですね、10日くらいは大丈夫かと」

「なんでそんなに慌てて泊まり込みにするの?リアンと一緒にいると絡まれるって言うならダンジョンの中で合流するとかは?」

「そ、そんな…」


何気にクリスが一番酷い提案をしてきた。

リアンさんとはダンジョンの中でしか交流しないとは。

リアンさんがものの見事に落ち込んでいるよ。

クリスは気にしていないけど。

それも確かに良い手段かもしれないけど、警戒していることはそれでは防げないのだ。


「心配し過ぎかもしれないけどさ、もしかしたらクビにした受付嬢から情報が漏れるかもしれないでしょう?」

「…あー雇い主がいるかもしれないんだっけ?その人から噂が広がりそうってこと?」


聞きたくはなかったが、冒険者ギルドの内部でも野心たっぷりの人が手を出そうと足掻いている人がいるようなことを聞いたからね。

用心するに越したことはないと思う。

ギルドマスターの元パーティーメンバーであるリアンさんが、Gランクとパーティーを組んで不正にランクを上げたなんて不祥事をでっち上げられたりして。

ギルドマスターがそれに正しく対処していないとか因縁つけることも可能かもしれない。


「うへ〜自由をモットーとしているハズの冒険者がそんな宮廷みたいなドロドロの権力争いしないで欲しい〜」


クリスが嘆くのも仕方ないが、金と権力があるところでは起こりやすいことだから仕方ない。

せいぜい巻き込まれないように自己防衛するしかないのだよ。


「リアンさんはすぐダンジョンに潜れますか」

「ダンジョンに潜るために必要なものはいつも持っていますから大丈夫ですが、本当に?」


初めて入るダンジョンで非常識な提案をしている自覚はある。

けどこういう時の決断は早くした方がいい。


「決められたのなら僕も行きます」

「よし!じゃあさっそくダンジョンに行きましょう!」


即断即決!

冒険者ギルドを出てダンジョンに向かう。


「ちなみにダンジョンで必要なものって、魔獣の森に入るときとあんまり変わらないですよね?」

「潜る日数によって量が変わるだけで、必要なもの自体は大きく変わりません。ただ深層に行くのであれば環境に対応できる装備は必要です」


資料室でも見たが、ここのダンジョンは100階層まである。

10階層までは洞窟で、30階層までは森と普通の環境なんだけど、31階層から環境がガラリと変わってしまう。

火山や雪山、広大な海が広がる階層になっているそうだ。

潜る期間は10日くらいだし、環境変化がある階層まで行く予定は今のところない。


「洞窟と森の階層にいるようにしましょう!」


火山や雪山も対応できるかもしれないが、目的もなしに潜りたいとは思わない。

今回の目的はあくまでもダンジョンを堪能するだけなんだから!

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