12 魔鉱石の剣

「それがいいのですか?」


じいじの問い掛けは穏やかで、否定的な態度はみられない。


「うん、これ!って思ったから」

「左様でございますか。籠手はどうしますか?」

「この剣見て、思い付いたことあるから、それを試してみるよ。それでも必要だったら後からまた買うよ」


店員さんに剣を見せて、代金を問うと


「一週間しても問題なければ、払ってくれ」

「どういう事ですか?」

「そいつは、どうしてか買ったやつが返しに来るんだ。おすすめはしないぜ?」


直感で購入を決めたが、呪われた剣的なものだったりするのかな?

悪い気配はしないけど、念のため《鑑定》でみる。



【魔鉱石の片手剣】

真鍮に魔鉱石が練り込まれており、使い手の魔力により変化していく。

なお、一定以上の魔力がなければ体力が削られていく。



なるほど、今まで買った人は魔力が足りなくて体力を徐々に削られ、そのせいでお店に返却した感じかな?

一定としかわからないので、私に使えるかは断言できないが、いけそうな気がする。


「わかりました、一週間後にお支払いに来ます!」


笑顔で断言する私に呆気にとられる店員さんを置いて店を出た。

さあ、思い付いたことを早速実戦してみよう!

ただ、実戦するのも勿体ないので、ギルドに寄って手頃な依頼を受けてから行くことにした。

Dランクの討伐依頼はあるかな~



やって来ました森の中。

受けた依頼はキラーアント討伐だ。

キラーアントの外殻は斬撃に強いが、ちゃんと関節を狙えば切り落とすことができるのだ。

外殻は軽鎧の素材にもなるため、なるべく胴体を傷をつけないように殲滅しないとな。


「その前に一つ、これから新しいものを手にする際は必ず鑑定を行ってください」

「じいじが笑っていたからいいかと…」

「私がいない場合がございます。触る前に必ず鑑定をするよう習慣付けしてください」


お小言をもらいました。

確かに無用心だった。

これが本当に呪われた武器だったら、触った時点でとり憑かれるなんてこともあるのかな。

じいじのお言葉からありそうなので、これからは必ず鑑定するようにしよう。


「それで新しい剣でどのような戦法になさるのですか?」

「まずはこれを見て!《結界》」


通常の結界は自身を覆うように展開するのだが、今回左手の甲部分に円の形で展開させた。

そう、小盾を結界で作ってみたのだ。


小盾とはいえ、持つと重たいし、戦闘が終わっては置いて、始まったら持ってと一々面倒だと思っていた。

試合なら終われば外しても問題ないが戦闘はそうはいかない。

野外じゃいつ魔獣が襲ってくるかわからない。


そこで出し入れ自由な結界魔法で作った盾。

しかも、小盾に拘らず状況に応じて大きさを変えることができるし、なおかつ透明な結界にしたので、防いでいても相手の動きがまる見え!

盾の利点を最大限生かして、弱点をことごとく潰せるこの方法は、私の戦闘スタイルを色々増やしていけるはず。


「手始めにキラーアントで練習したいと思います!」

「良い方法だと思います。キラーアントなら、小盾より長方盾がいいでしょう」

「はい!」


群れとは離れた場所にいるはぐれキラーアントを見つけ、気配を消して近づく。

後ろから不意をついて後ろ足を切り落とす。

慌てて此方に顔を向けたところで、結界盾を展開、噛もうとする顎に打撃を与えつつ防いで、その首を一閃。

関節を狙ったとはいえ、抵抗を感じず、するりと切り落とせた。


「あれ?」

「剣が変化しているようですね」


そういえば、剣の試しのためにも来ていたんだった。

今更ながらに剣を見ると、剣を覆うように魔力の膜ができていた。

魔力を吸って切れ味を向上させつつ、本体の刃を守っているのかな?

このくらいの魔力なら問題ないし、切れ味も上がって刃こぼれの心配もないなんて…素敵!


これはいい買い物だったんじゃない?

じいじが持っている程じゃないけど、これも上級物だよね!


「よしっ!このまま狩りをしつつ、新しいスタイルの精度をあげるぞ!」


新しい剣と戦闘スタイルにテンションが上がった私は、そのままキラーアントを誘導しては切り刻み、時折結界盾で頭を打撃してを繰り返し殲滅しまくった。約100匹ほど。


冒険者ギルドに納品した際、思わずといった感じで受付のお姉さんに「少しは自重を覚えた方がよろしいかと」と言われてしまった。

その言葉に上がりきったテンションは一気に下がり、はたっと正気に戻った。

目立つ予定じゃなかったのに、のんびりするための街の散策だったのに。

明日こそは、冒険者業をお休みして別の事に使おう。

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