2 出奔
さて勇者の話のはずが、魔王との戦いが終わって、王の悪巧みを暴くなんてことから始まったのには訳がある。
始まりは、異世界勇者のテンプレだ。
異世界なんて言葉でわかる通り、私は転生した。
テンプレ通り、神様に巻き込まれ、お詫び加護付き転生だ。
しかし違うこともあった。
自分が転生したことを思い出したのは魔王国に向かった時で、テンプレにある幼少時からのチート無双とか全くない。
まあ、神様に「赤ちゃんの時から自我持つの辛いから、少し育ってから転生を思い出させて」と願ったけどさ。まさか少し=15年だってわかるはずない。これが神様クオリティか。
そして勇者と言えば魔王だが、この世界の魔王は悪の組織で、世界を支配してやるー!とか人類を滅ぼすー!とか、まーったくない。魔族が多くいる国を治める国王に過ぎないのだ。
更に、勇者ヘイトテンプレの自国の王の悪巧みに巻き込まれ、話の冒頭の流れになったのだ。
「リサ様、それでは少々理解しづらいと思います」
「心の声に指摘しないで!」
そもそも何で勇者に選ばれたかというと、私に神様の加護があったからだ。
大陸支配を考えた王が、勇者をでっち上げるため、教会と組んで国中の子供達のステータスを確認させたのだ。
そこに神様の加護を持った私がひっかかった。
そして10歳の私は城に徴兵され、ひたすら騎士達に鍛えられた。
前世の記憶がない私は、普通の子供だった。
だから周りに言われるまま剣を振るい血反吐を吐きながら、訓練をこなした。
終日「魔王を倒すのだ!」と言われ続け、少しでも反抗すれば殴られ、食事や睡眠時間を減らされ、終いには勇者らしくないからと女であることを隠され、対外的に男として振る舞うことを強要された。
あれは洗脳と言っていいと思う。前世を思い出す前の私は無感情になりつつあったほどだから。
「本当、あの時期は辛い日々でしたな」
「じいじがいなかったら、絶望で死んでいたかも知れないね」
騎士の訓練で瀕死だった私を助けてくれたのが、じいじだった。勇者として祭り上げておきながら、世話はおろか怪我をしても治療されない私を癒して、生活に必要な品を用意してくれたのだ。
私が今生きていられるのも、人間不振に陥っていないのも全てじいじのおかげだ。
「特別なことはしておりませんよ」
「私には特別なことだよ」
本当に、感謝してもしきれない。
ありがとうとにっこり笑うと、じいじは、ほほほっと朗らかに笑い返してくれた。
「これからどうしますか?」
「故郷の村に帰っても面倒なことになりそうだしね」
王命ということもあるが、私はお金で城に売られた。そんな村への情はあまりない。
またあの王達が追ってくる可能性もある。
それに折角前世の記憶を取り戻したのだ。どこかでひっそり暮らすのはまだ早い気がする。
10歳までは故郷の村から出ることなく過ごし、城では鍛錬ばかり。唯一の国外は魔王退治に向かった魔王国だけ。
まずはちゃんと異世界を堪能して、老後はスローライフがいいだろう。
そうと決まれば、テンプレの旅!
「では、国境近くまで急いで行きましょう。追っ手が来るとも限りませんし」
「…そうだね。早速向かおうか」
じいじが心の声に返事できることはスルーだ。
旅に必要なものは大体アイテムボックスにいれてある。
前世の記憶を取り戻してから、取得したスキルの1つだ。城に戻ったら王とのいざこざがあると予想して、帰路の町などで少しずつ買い集めた物を収納して隠しておいたのだ。
「目標は日暮れまでに国境の街に着くことです」
「は~い!」
街道から外れ、森の中に走り去るじいじを追いかける。
のんきに街道を通っていたら国境に着くなんて何日かかることか。
あと爆走するにも人目のつかない森の中を突っ切るのが早い。
まあ魔獣がいる森を突っ切るなんて普通の人からしたら考えられないだろうけど。
前世の記憶を思い出してから私のステータスはかなり飛躍した。どうやら加護の力は記憶が戻って来てから発揮するように設定されていたらしい。
魔王に挑めるように鍛えられていたのも合間って、現在自分の力がどのようなものか把握できていない。
力を体に馴染ませると同時に、加減を覚えるためじいじに指導を受けている。
「速度は落とさず、魔獣は避けながら東に向かいますよ」
「魔獣を避けられなかった場合は?」
「魔獣を倒します。戦闘で遅れた分早く走らなくてはなりませんよ?」
聞いた通り、じいじの指導はかなりのスパルタだ。
けれどこの指導だけで、体力把握・脚力強化・集中力強化・気配感知スキルの向上・突発への対応力などが鍛えられる。
第一、じいじはできないことはさせない。
「目標達成できたら、今日の夕飯はハンバーグにいたしましょう。」
「よしっ!ハンバーグのため頑張るよ!!」
ご褒美があればやる気も出る。
じいじは飴と鞭をよく理解し使いこなしている。
気合いを入れ直し、気配感知スキルで捉えた魔獣を避けるルートを考えながら、木や岩を避けて進んでいく。
それでも森の中に魔獣の群れがあれば、避けるのも難しい。
群れに当たる前にどうするか決めなくてはならないが、どうしたものか。
群れなので、剣では時間がかかる。また森の中では火系統の魔法は基本控えるものだ。雷も火花が飛ぶかもしれないから注意が必要。
山火事になったら責任取れないしね。
使うなら、風か水系統が定番。
そういえば、魔獣の種類はなんだろう。
どうにか先にいる魔獣の種類が調べられないかな?
鑑定スキルでどうにかできないかな。
気配感知スキルを鑑定スキルで見るように使用してみる。
《探知スキル取得》
《マッドウルフ12匹》
ぉおう、探知スキルになるのか。
この世界じゃ、スキル取得は先天と後天の2通りだ。
先天スキルは主に血筋、親から引き継ぐもので、後天スキルは熟練して覚えるものになる。
初めての割に種別も数も正確にわかったっぽい?
気配感知は騎士との訓練でも使っていたから熟練度が上がっていたのかな?
まあ使えるなら問題ない。
とりあえずマッドウルフだ。
えっとウルフ系は狩りの時に前方と後方に別れて獲物を囲い込むから、気づかれる前に対処しないといけない。
攻撃するなら近づかないといけないけど、ウルフにも気付かれる。
この位置からどうにか攻撃できないかな。
《千里眼スキル取得》
…ぉう、探知スキルを睨むように見ていたためか、千里眼スキルを取得したようだ。
スキルの習得が早いような、良すぎるような…。でも丁度いい、マッドウルフ達の状況がよく見える。
このまま魔法使えるかな?
《エアカッター》
千里眼スキルでマッドウルフの首に狙いを定めて、風魔法を実行する。
マッドウルフの首元で発生したエアカッターが見事命中。
このスキルは魔法と併用はできるようだ。
これなら足を止めずに、倒して進める!
《千里眼・アイテムボックス》
千里眼とアイテムボックスを同時発動させ、マッドウルフの死骸を収納しておく。
死骸の放置はいけないからね。
この調子なら目標の日暮れまでに着けそう。
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