チートじいじと行く~出奔勇者の諸国漫遊~
ささのはな
1 プロローグ
「それで、魔王は倒したのか?」
静かな謁見の間に王の声が響く。
膝をつき、俯いたまま王に返事をする。
「はい、確かに魔王に勝利致しました」
「ふむ、そうか。…ご苦労、そちには労いをせねばな」
王の言葉を皮切りに、チャリっと響く金属音に顔をあげると、自分の方へ剣の切っ先を向ける近衛騎士達がいた。
問いかけるように王に視線を向けると、にやっと欲望が滲み出した笑みを浮かべた。
「魔王との激闘の末、勝利した。がその代償も大きく、そちは城で療養するということだ」
「療養中は魔王領の統治は王が代わりに行う。安心して死ぬがいい」
王と同じ笑みを浮かべる宰相の言葉にため息が出そうになる。
療養と言いつつ、死ねとか。そんな直接的な言葉を言うなんて、馬鹿じゃないか。
それとも絶対漏れない自信でもあるのだろうか。
いや、この油断は逆にチャンス!
「では、魔王の侵略宣告というのは虚言で、すべては王が魔王領を手に入れるための策だったというわけですか?」
「くくく、そういうことだ。魔王領を治めれば大陸全土を掌握したも同然だからな!」
ぐはははっと未来の自分の姿を思い浮かべたのか、悦を浮かべ笑い声をあげる王に、冷めた視線を向けるのは仕方ないと思う。
まあ、言質を取らせてもらいましたよっと!
ついでに、だめ押しの追撃しておきますか。
「そして軍事費として民から追加徴収した税は王の懐という訳ですね?」
「ふふふ、なかなかに懐が潤ったわい」
「よくもまあ、悪いことばかり思い付くものですね?」
堂々と悪事を誇る態度に呆れてため息混じりに呟く。それを諦めの表情だと勘違いしたのか、近衛騎士は優越感を纏った目で見つめてきた。
「せめて楽に死なせてやろう」
「…論破するのも面倒だ」
一応魔王に勝ったって報告したはずだが。
それを理解していない状況に、頭が痛くなる。
魔王に勝てる実力があると思うなら自分で行けよっ、それとも数で勝ると思っているのか。
視野の狭い人間はこれだから話が通じない。
さて、どうしようか。
「っ大変です!近衛騎士以外の兵達がこちらに、民衆が奮起を上げて城に向かっておりますっ!!」
「なんじゃと?!」
どうやら門番をしていた近衛騎士が慌てて飛び込んできた。
謁見の間を囲っておけば、事がバレる心配がないと思っていたのか、報告を受けた王側が動揺をみせる。
自分が予想より早い動きにちょっと驚いたが、好都合。自分への視線が外れた隙をついて、近衛騎士の包囲網から抜け出し、気配を消して壁際に潜む。
暫くすると側近を連れて乗り込んできたのは、この国の第一王子だった。
「父上、貴方は王として失格だっ!」
「何じゃ突然。そのような戯言をいうのじゃ?」
「勇者殿とのやり取りは、城の者はおろか民衆も聴いておりました!言い逃れはできませんぞ!」
「っそ、そんな!なぜそんなことに!?」
「民の税で私腹を肥やし、更に他国を脅かそうとしたことは、民への反逆でありそんな者に国を治める資格なし!」
王を糾弾する王子は第三者から見てもなかなか格好が決まっている。
やり取りをみるに、王子は企てに関わっていなかったようだ。
民を尊重する考えに、整った容姿。
とてもあの王の血を引くとは思えない。王妃様や側近の頑張りが伺われる。
「さて、そろそろお暇致しましょうか?」
そんなことを考えていると、後ろから声をかけられた。
煌めく銀髪に丸眼鏡、シワ一つない燕尾服を着こなし、いかにも“セバスチャン”と呼ばれそうな執事の老人が立っていた。
まあ名前はセバスチャンではないのだけど。
国の問題に一個人が口を挟めることでもないし、言われたことは果たした。
これ以上ここにいる必要もない。
変に引き留められても面倒だと、紛糾している間に城から抜け出す。
「あ〜やっと解放された!やっとやりたいことできるよ!」
「ではまず、服を着替えましょうか。そのままでは民にも引き留められてしまいますから」
さっと出された服を受け取り、鎧を脱いで着替える。
動きを確かめるように、一回転して見せると、執事のじいじはにっこり笑った。
うんうん、今までは剣士っていう格好しかしてこなかったからね。
「よし!これから楽しく自由に生きるぞ!」
スカートを靡かせながら、女の子に戻った元勇者リサの旅が始まったのである。
ステータス
名前:リサ
level:40
種族:人族
体力:960
魔力:1230
年齢:15
取得スキル
・アイテムボックス
・剣術
・気配感知
・鑑定
・武術
・全属性魔法
・身体耐性
・物理攻撃耐性
・魔法攻撃耐性
・地図
・身体異常無効
・精神異常無効
称号
・主神の加護
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