121 じいじのお説教

さっそく次の3階層に進もうかと思っていたが、その前にしなければいけないことを思い出した。

本当はご飯を食べる前にと思っていたのに、クリスのお腹すいた攻撃についつい流されてしまった。

なので仕切り直しも含めて今しないと!


「クリスそこに正座!」

「えっ?」

「正座!」

「はい!」


再び言うと反射的にクリスはその場に正座した。

でもその表情は正座する理由がわからず困惑しているが、私はそんなことで手を緩める気はない。

クリスはしてはいけないことをしたのだ。


「ということで、じいじ、お願いします」

「えっ?!」

「では僭越ながら」


私が注意するよりじいじにしてもらったほうがダメージが大きいとわかっているので、じいじと場所を交代する。

じいじのお叱りを受けるがいい!


そして静かに始まるじいじのお叱り。

ダンジョンの中で、しかもリアンさんも知らない裏ダンジョンの中で1人で勝手に動いて、どれだけ迷惑を掛けたのか。

もし3人が間に合わなかったら、クリスがどうなっていたかということを説明していく。

淡々とした説明が逆に生々しく感じられ、当事者ではないのに背筋が寒くなる。

私も周りを確認して1人では動かないように気をつけよう。


「わかりましたか?」

「はいぃ!リサお姉ちゃんもリアンも迷惑かけてごめんなさいぃ!」

「うんうん。次はちゃんと気をつけてくれればいいよ」

「そうです。初心者ならよくあることですから」


リアンさんの言葉にクリスは冒険初心者だと思い出す。

初心者がこんなイレギュラーな裏ダンジョンに迷い込むこと事態がおかしいのだけど、迷い込んでしまったのだから仕方ない。

じいじの話にもあったが、これからもダンジョンの罠で別々になる可能性もあるので、再度、状況を確認をしよう。


「基本はまとまって動くけど、万が一はぐれた時のために持ち物確認しておこうか?」


私はアイテムボックスもあるし、食材も日用品も豊富にあるけど、クリスとリアンさんは何を持っているかわからない。

一般的なパーティーなら荷物持ちやマジックバッグ持ちに集約されてしまうけど、私たちのパーティーはみんなマジックバッグやアイテムボックスを持っている。

能力の差はあるだろうが、荷物を偏らせて置く必要はないのだ。


まず食材については生鮮食材は腐る可能性もあるので、各自が加工品を持っておくようにする。

パン単体を基本に一応サンドイッチとマフィンを配っておく。

小腹が空いた時に食べてもいいしね。

あとは干し肉の代わりに唐揚げを、スープ系は小鍋に入れて渡しておく。

水については全員が魔法で出すことができるが、魔力がなくなったときも考え、小樽と水筒に小分けして持っておくことにした。

他の冒険者対策として雑貨屋で購入しておいたものが役立つときが来たよ。


次は日用品だ。

これに関してはリアンさんは持っていたので、クリスに重点的に渡していく。

予備のタオルや食器などを中心に、あとじいじが持っていた魔石を使う1口コンロも。

念のため、クリスが1階層で倒したスライムやゴブリンの魔石も一緒に渡しておく。

これで魔力がなくなってもスープを温めたりできる。


そして一番重要な物があった。

ポーションなどの薬だ。

族長のリアさんか薬師のリップさんからもらっていると思っていたのだが、回復魔法も使えるため、持っているポーションの数も種類も多くなかった。

これに気づいて本当に良かった!

気づかずにもし強敵と出会っていたら自力での回復ができなかったかもしれない。

思い込みはダメだな。

何事も確認することが大事。

準備が整ったところで、次はどうするか話し合いだ。


「30階層の守護者ってビーの魔獣でしたよね?」

「クイーンアントとクイーンビー、そしてアントとビーの群れになります」


ダンジョンでの目標にしていた30階層。

流石に守護者も強力な魔獣になってきている。

蟻と蜂なんて別種族なのになんで一緒の階層を守っているんだか。

森の中だから共存している設定なの?

アントとビーの群れは何体いるのか、考えるだけで恐ろしい。


このまま裏ダンジョンを進めば恐らく、その強化種が出てくるだろう。

戦ったことのない魔獣だし、数も多いとなればこのまま無策で進むのは危ない。

ここは経験豊富なじいじとリアンさんの2人に相談しましょう!


「やはり面倒なのは群れの対処ですね。足下からも頭上からも襲ってきて集中力が散漫になりやすい上に数が多くて倒しきれない場合が多いようです」


通常の冒険者は武器による物理攻撃が多いから、一気に数を倒せない。

魔術師がいれば可能性はあるが、通常のパーティーでも魔術師は1人入れば良いほうだから、突破するのが難しいらしいけど。

でもそれならこのパーティーではその問題がない。

だって全員、魔法が使えるチートパーティーだから!


「4人の魔法で群れを一掃してから、クイーンたちを倒したほうが楽かな?」

「そうですね、相乗効果のある属性の魔法ならそれで大部分倒せるでしょう」

「それなら火と風がいいかもね!2階層のここもしっかりとした石造りだし、延焼する可能性もないんじゃないかな?」

「いいと思います!それなら短時間で倒せそうですね」


提案するととんとん拍子に決まっていく。

そして風魔法担当はクリスとリアンさん、火魔法担当は私とじいじになった。

火魔法担当に威力が偏っているかもと思ったが、最終的には火で焼くことになるのでこれで落ち着いた。


それからひと休憩してから、3階層に挑むことになった。

休憩しているとき、ふとあることを思いついたので冗談で提案すると、意外に賛同された。

そのノリの良さに上機嫌になって冗談半分のその提案を実行してみたのだが。


「あれ〜おっかしいな?」

「作戦自体は上手く行きましたが、予想外ですね…」


その結果、どえらいことになってしまいました…。

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