120 リアンさんの食事事情
「そんな…いや、確かに今なら…あぁ…」
リアンさんは片手で顔を押さえ、うめき声をあげ始めた。
なんだか、ものすごく葛藤しているようだ。
そんなに困惑するものなのかな。
クリスに視線を送ってみるけど、クリスも分からず首を傾げている。
ついでにじいじを見るけど、相変わらず微笑んでいる。
「とりあえず、デザートでも食べる?」
「食べるー!」
「デ、デザートまで…!」
リアンさんが落ち着くまでまだ長くかかりそうだなと思って、クリスに前もって作っておいた食後のデザートのプリンを取り出す。
するとそれにもリアンさんは衝撃を受けたようだ。
感情の起伏が激しいな。
「リアンさんもとりあえずどうぞ?」
もう少し落ち着いて欲しいという思いも込めて、リアンさんの前にプリンを置く。
何を悩んでいるのかわからないけど、美味しいものを食べれば大体はどうでも良くなるよ!
「美味しーい!」
「…はい、美味しいです!」
満面の笑みでプリンを食べるクリスを見て、リアンさんもプリンを一口食べる。
そしてリアンさんも笑みをこぼす。
そうそう、それでいいんだよ!
美味しいのは正義!そんなに深く考えることじゃない。
私もプリンを掬って一口。
冷たいツルンとした舌触りのプリン、うまーい。
頑張って作った甲斐があったよ。
「なんだか食べたことあるプリンとは違いますね?」
「リアンさんが食べたのは蒸したプリンだと思います!このプリンは冷やして作ったプリンなので舌触りが違うんです!」
この世界のプリンは蒸しプリンがスタンダードだった。
多分卵の除菌なんかが上手くできず、熱を通して安全に食べれる無難な方法になったんだろう。
しかも裏ごししていないレシピのようで、ちょっと固めの昔なつかしい系のプリンだった。
でもどうしても冷たくてなめらかなプリンが食べたかったから、族長に相談して作ったのだ。
エルフの里なら魔法も使い放題だったから、卵に浄化魔法を使って作った自慢のプリンです!
「そうなんですね。こういった物も持ち運べるんですよね」
「リアンさん?どうしたんです?」
食べ終わった後にはいい笑顔だったリアンさんがまた落ち込み始めた。
これはちゃんと話を聞いたほうがいいのかな?
話を聞いても悩みが解決できるかは分からないけど。
「一応Aランクとして色々と装備を揃えてきたんですが、食事に関しては…」
「食事に関しては…?」
「低ランクの時と変わっていないと気づいてしまって…!」
低ランク時期と一緒の…あのマズイ携帯食を続けていたと…?!
Aランクなのにあの携帯食を食べ続けていたという恐ろしい事実に衝撃を受けた。
そりゃ、リアンさんが落ち込むのも無理はない。
低ランクの時なら宿代や武器や装備を優先するため依頼中の食費は節約する。
そのためあの激まずの携帯食を常用するのだけど、高ランクになったら1つの依頼でかなりのお金を稼ぐことができる。
拠点を持てば宿代もなくなり、武器や装備の買い替えもなくなり、必然的に日常の品質もあがるはずなのに、その携帯食が低ランクの時と同じままだったらしい。
「そうなんです!今ならマジックバッグもあるから、ある程度荷物も運べます。短期とか日帰りの任務なら美味しいものを持ち込んでも良かったのに。ずっとあの携帯食を…」
自分で説明しながらリアンさんがだんだん項垂れていく。
…うん、そういうことあるよね。
当たり前すぎて疑問に思うことなく、ずっと同じことを続けることって。
でもあの携帯食をずっと食べていたなんて、なんてもったいない!
リアンさんがいくら長寿命のエルフとは言え、時には大変な依頼があると思う。
その時の食事がそんな粗末なご飯になるなんて本当に損をしている!
「固定概念だっけ?美味しいものを食べられる時に食べてないなんてもったいないよね〜」
「クリスそれを言うなら固定観念だよ」
「ぐっ」
クリスの留めの一言に、リアンさんは撃沈した。
私もフォローを後回しにして、ついクリスの言い間違いを指摘してしまった。
「リアンさん!気づいたなら今から変えていけばいいんですよ!何事も臨機応変に、ね!」
後悔ばかりしても仕方ないことを知っているので、リアンさんを励ます。
それにリアンさんが落ち込んだままの状況でダンジョンにいるのは怖いという思いもある。
リアンさんが持っているマジックバッグは若干の時間遅延効果もあるらしいので、ダンジョンから帰ったら色々詰め込もうと提案する。
そうすると未来の楽しい予定を思い浮かべたのかリアンさんの気分も上がってきた。
よしよし。
「これからどうする?宝箱にあった帰還石でいつでも帰れるようにはなったんだよね?」
「そうだね〜一般的なダンジョンも気になるけど、この裏ダンジョンを進めるのも魅力的だよね」
帰れない不安がなくなったから、この裏ダンジョンを進んでいきたい気持ちが大きい。
一度帰った後に、また裏ダンジョンに挑戦するかと言われると多分しない。
帰還石がないのに裏ダンジョンに入るなんて危ないことはしたくない。
脱出方法が裏ダンジョンを攻略するしかないなんて状況は絶対に嫌だ。
それならこのまま裏ダンジョンを進めて、経験値と魔石とアイテムをもらうのはいいかもなんて思える。
他の冒険者もいないから自分たちのペースで好きなことができそうだしね。
「それでいいと思う!通常じゃ得ることができない体験だろうし!」
「えぇ、通い慣れたダンジョンで深層以外に未知のところがあるとは思いませんでした。ぜひともこのまま冒険したいです!」
「そうですね、良い経験になるでしょう」
全員が賛成してくれたので、裏ダンジョンをこのまま進めることに決定した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます