119 トンカツ実食

まずはそのまま何もつけずに食べよう!

皿に盛り付けられたトンカツを一切れを取って口に入れる。

サクっとした衣、その中のお肉は予熱で火を通したおかげで柔らかくすぐ噛み切れた。

噛めば口いっぱいに肉汁が広がって、思わず口の中が美味しさで溢れてキュッとなってしまう。

出てきた肉の旨味と塩コショウが合わさってたまらない…!

間にキャベツを一緒に食べればお肉の油もサッパリして、また次のお肉と求めてしまう。


数切れ何もつけずに食べたところで、箸を押し留めた。

そのままでも美味しいけど、やっぱりタレをつけて、白米と一緒に食べたい!

じいじが用意してくれた、トンカツソースっぽいやつとすりゴマを混ぜたソースが置いてある。

そのソースを2切れずつつけて食べてみる。


トンカツソースは香辛料のスパイシーな香りと野菜や果物の旨味を感じる。

このソースは前世の有名なソースにそっくりだ。

この美味しさだとじいじが手作りした可能性が高いかも、じいじだからね!


つぎはすりごまが混ざったソースを食べてみる。

すりたてのゴマのいい香りがたまらない。

トンカツのチェーン店で食べたような、香ばしいすりゴマソースの味がする。

後はただただソースをつけたトンカツとキャベツと白米を交互に食べていく。


「ごちそうさまでした」


最後に味噌汁を飲み干して、食べきった。

お腹が空いていたこともあるが、できたてのトンカツの美味しさは一際違った。

無言で一気に食べてしまった。


「美味しかったー!」

「美味しゅうございましたね」

「美味しかった…です」


クリスもじいじも食べ終わって満足げだ。

リアンさんは、なんかとっても複雑そうな顔をしている。

美味しかったのは間違いないけど、なんか違うと思っていそうなな顔だ。


「顔が変だよ〜美味しいもの食べられたんだから良かったんじゃない?」

「美味しかったのですが、これはこれといいますか…」

「もう!煮えきらないな!はっきり言ったらいいじゃん!」


どう言っていいか迷っているリアンさんにクリスが逆ギレ(?)のようなことを起こした。

どちらかというと私はリアンさんが言いたいことはわかる。

自分の食欲を優先した私が言うことではないけど。


「で、では!普通ダンジョンの中で料理はしません!やってもスープを温めるくらいです!」

「当たり前じゃない?」


クリスが何を当たり前のこと言っているんだという顔をしているが、料理されたばかりの昼食を食べて言う台詞ではないと思うんだけど。

作った本人がいうのもあれなので、黙ってはおくけど。


「そ、その当たり前が、今守られていないと言いますか」

「リサお姉ちゃんだって他の冒険者がいるダンジョンの中で料理なんてしないよ〜」

「いや、今普通に料理されていましたよね?」


リアンさんが言っていることは正しくクリスも同意しているはずなのに、なぜかクリスと会話が成り立っていない気がする。

これはツッコミ待ちだったりするのだろうか。


「だってリアンは他の冒険者じゃなくて仲間じゃない?」

「えっ?…あ、仲間…!」


クリスが放った何気ない一言がリアンさんの胸に刺さったように見えた。

クリスから仲間と言われ、それを認識したリアンさんの顔は真っ赤になっている。

元々リアンさんは族長から頼まれたこともあるが、世界樹でもあるクリスを元々敬っている。

そのクリスから、仲間の一言は強烈だったのだろう。


「クリスの言う通り、普通のダンジョンならシステムキッチンを出して1から作るなんてしないですから!」


リアンさんが恥ずかしがって動かなくなったので、私からも話を振っておく。

決して誤魔化すために畳み掛けているわけではないよ!

今まででもじいじと2人の時でなおかつ他の人がいない森の中などでしか使っていない。

今回は恐らく入ってこない裏ダンジョンで、信用できる人しかいないと判断したから使ったのだ。


「そ、そうなんですね。早とちりしました」

「そうだよ!」

「もし表のダンジョンで食事を取るなら、前もって持っているできたてのご飯を食べますよ!」

「えっ?あの、持っている?出来立て?」

「もしそれがなくなったって、作るってなったらテントの中で隠れてこっそりやりますから安心してください!」


システムキッチンがあまり人目に晒していい物ではないと、ちゃんとわかっている。

だからもしもの場合はちゃんとテントの中で作るから安心して欲しい。


「い・い・え!そうじゃありません!」


安心させるように笑顔で話していたのだが、いつの間にかリアンさんの目が座っていた。

大きな声ではないが迫力のある声に背中が伸びる。

なんだろう、じいじがお説教をする気配に似ている。


「ダンジョンもそうですが、一般的に冒険者が依頼中に取る食事は携帯食です。出来合いのものでも温かいものはもちろん、休憩場で料理をするということはしません!」


それは知っているので素直に頷く。

前にも一緒に依頼をした緋色の獅子のパーティーでも同じような話を聞いたし。

頷いている私の態度を見たリアンさんはお説教の迫力を一時ストップした。


「知っていのに料理したんですか?」

「美味しい物が食べたいので」

「冒険者だと荷物を極力減らすのが基本で、料理器具などまず持ち歩きませんが」

「マジックバッグもあるし、美味しいご飯には代えられないですよね?」


そう言うとリアンさんは膝をガックリついて項垂れてしまった。

何か変なことを言ってしまったのだろうか。

しかし私の意識は変わらない。

美味しいのは正義!美味しい料理は生きる糧!

そのためなら荷物になろうが常に食材と料理器具は持ち歩きますよ!


まあ、アイテムボックスがあるからの暴挙でもあるんだけど。

それに一般の冒険者の前では出さないように、そこはちゃんと自制している。

魔獣の森での遠征も人前では前もって作ったものを出して、温かいもの食べる時はテントの中や離れた場所で食べていたんだから!

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