10 装備
「こちらにお願いします!」
「まずはブラックベアーから出しましょう。」
解体台に頭と胴体が現れ、解体職人の人たちがざわめく。
Bランクのブラックベアーは珍しいようだ。
次はマッドウルフだよね。
「マッドウルフはこちらに出しますね」
じいじが私の前に立ち、ちらりとこちらを見て置く場所を示した。
じいじの動きに違和感を覚えながらも、その場所にマッドウルフを出す。
じいじの考えていることに何となく心当たりはあるんだけど。
ここで問うのはダメだろうからあとで聞こう。
「マッドウルフの肉だけ半分はお返しで、あとは買取でいいですか?」
「はい、お願いします」
ブラックベアーの肉は食べられないことは無いけど、硬いらしいので全て売ってしまう。
マッドウルフは勿論美味しいから、返してもらうよ!
全部を今すぐに解体できないので、明日もらうことになった。
宿に帰り、夕飯も食べ一段落したところで、じいじに切り出してみた。
「私がアイテムボックス持ちって知られるとまずい?」
「アイテムボックスは便利な反面、良からぬことを考える輩を引き寄せます。安易に利用されない交渉術が必要ですが、リサ様はまだ未熟なので控えた方がよろしいかと」
悲しいことに対人経験は底辺もいいところ。
なんせ10歳で徴兵されてから訓練ばかりで、人との会話した記憶すらあまりない。
日本にいた頃の記憶で会話くらいはできても、この世界の人たち相手に交渉は無理だろうな。どうしたって日本を基準に対応するし、そうしたら使い潰される勢いでこき使われそうだ。
「リサ様はこちらを持っておいた方がよいでしょう」
じいじが取り出したのはウエストポーチ。
微かに魔力を感じるから…。
「マジックバッグ?」
「そうです。時間経過があり、容量も馬車の荷台ほどしかありませんが、こちらを使っているように偽装しましょう」
「この街に来てすぐ使わなかったのは?」
「使い勝手は悪いですが、それでも高価なものです。Fランクが持っていればそれはそれで面倒なことが起きるでしょう」
そうなのか、…そうだよね。
アイテムボックスと比較したら低機能なんだろうけど。
アイテムボックスを持っていない人からしたらこの小さいポーチに馬車で運べる量が入るんだから、商人からしたら喉から手が出るほど欲しいよね。
「まあ、Dランクになりましたし、すでに目立っているので使っても問題ないでしょう」
やっぱり目立っていたのか。
ノベル定番の最速ランクアップとかあったからな。
最速とはいかないけど、一日でDランクまでいけたんだからなかなか早い昇格じゃないかな。
じいじの修行に耐えてきた分、強くはなっているんだろう。
ランクも現金も手に入れたし、これからは急ぐ必要もない。
「明日は装備を見直しついでに街を散策しない?」
「それもいいですね。冒険者としての装備も見直しましょう」
防具や武器は勿論、持ち物も見直した方がいいよね。
それが終わったら、屋台とか美味しい食堂探しもありかもしれない。
冒険者らしいことにちょっとワクワクする。
翌日のため、そそくさとベッドに潜り込んで熟睡した。
*
翌朝、まず部屋の中で現在の持ち物の確認を行うことにした。
街中で色々出して確認できないし、買い忘れがあったら大変だからね。
「私の装備から確認しようかな」
ギルドマスターも気づいていた私の衣服の異様さ。
本人が知らないと後々困ることが出てくるかも知れない。
「そのワンピースは昨日お話しした通り、防御力のある魔獣の繊維を編み込んであります」
「防護力ってどれくらい?金属の鎧には劣るよね?」
そして知らされたのは驚きの内容。
このワンピース一枚で金属の鎧よりはるかに強く、魔獣でいうならBランクの攻撃くらいなら防ぐことができるという。
しかも物理魔法どちらにも耐性があると、ついでに汚れにくく耐久性もバッチリらしい。
「この靴もじいじが用意してくれたけど、まさかね?」
「ワンピースと同じように作られていますので、防御力も安心ですよ」
簡単にじいじは言うけど、本来そんなポンっと出せるものじゃないよね?
ワンピースだけならまだしも、靴もだよね?
えっ…えっ?えぇー?!
「…じいじは一体どこで手にいれたの」
「長生きしていると色々経験し、その中で得られるものも多いですから」
目を伏せ、いつもと違う曖昧な笑みを浮かべるじいじに、それ以上追及ができなかった。
じいじの実力なら色々なお宝を手にする機会が多かったんだろう、と思うことにする。
気を取り直して、防具はいいとして、次は武器についてだ。
今は訓練も兼ねて魔法を主に使っているけど、勿論武器も使える。
一応魔王退治もあったから、一通りの武器の扱いを教えてもらったし、一番時間をかけたのは騎士がよく使っていた片手剣だ。
片手剣は勇者時代のがあるが、万が一見つかるとややこしい事態になるのは目に見えているから、これはアイテムボックス内に封印。
魔法の耐性がある魔獣を相手にするときがあるかも知れないから、片手剣と籠手か小盾を見繕った方がいいかな?
「こんなものもありますが?」
じいじが出してきた、なんだか蒼白い繊細な飾りが施された剣と盾。
それは所謂、聖剣とか神剣とか呼ばれそうな、一般的じゃない鉱物が使われていそうなとても高級なものではないでしょうか?
ものすごいオーラを感じます。そんな剣をDランクの冒険者が持っているはずない!
逆に勇者の疑いを持たれるようなものだ。
じいじの最高品質のものを提供したい気持ちはわからないでもないが、流石にこの辺の魔獣に対してオーバーキルなので、仕舞ってもらうことにした。
必要な時には言うのでそれまでアイテムボックスから出さないようにお願いします。
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