24 頭おかしい人

じいじの低っくぅーい声が響く。

その声を聞いたことある過去のあれこれを思い出して、背筋が凍る。

思わず逃げ出したくなるけど、これは私に向けられているものじゃない!

何とか衝動を抑えて、私たちのテントを改めて見る。


「こ、これはその」


そこにはテントの結界を剣で殴っている例のあの人が、…うん、そんな予感がしていたよ。

これはあれかな、テントに勝手に入ろうとしていたのかな?


「雇われていますが、他人のテントを壊そうとするのは普通に犯罪ですよ?」

「テントを壊そうとしたわけではない!入れないから、邪魔だと」

「勝手にテントに入ろうとするのも、犯罪ですよね?」

「っんぐ!?」


別にじいじは尋問したかったわけではないのだろうに、勝手に自爆している。

しかし中に入って何をしたかったんだろうか?


「わしは危ないものがないか確認したかっただけだ!」


うわっ開き直った!


「そんなことより!これはなんだ!テントになんでこんなものがある!?」

「そんなことではないのですが…結界があった方が安全に決まっています。野営中、警戒するのは魔獣だけではないのですから」


じいじが呆れた声で、暗にお前みたいな奴がいるから結界を張っているんだろうと言葉に含ませている。


「離れた場所でも結界魔法が使えるのか。すごいな」


感心したように隣にいた冒険者が呟いた。

じいじの結界魔法だと思われたみたいだ、良かった。普通テントに結界機能があるとは思わないもんね。

そう言えば他の冒険者たちも一緒に来ているんだった。

この騒動でこの人の信用は…自業自得として、巻き添えで領主兵の信用はガタ落ちになるんじゃないだろうか。


「そうか、ならワシのテントにも同じものを張れ!」

「依頼ということであれば、一つのテント一晩で1万Gいただきます」

「なっ!雇われているというのに、金を取るのか!?」


何を驚くのだろうこの人は。タダでしてもらえると思っていたなら相当頭悪いんじゃないだろうか。


「雇われていますがそれは荷物を運ぶという契約です。なぜ契約以外のことを無償で行わないといけないのですか?」

「雇ってやっているんだから当然だろう!?」

「契約外のことを強要される謂れはありません。強要するようであれば、こちらは契約破棄しても構いませんよ?」


相手の言い分に一歩も退かず、にっこり笑顔で対応するじいじがカッコいい!スムーズな煽りと切り捨て方、経験豊富な故かな!…決して、年の功とはオモッテナイヨ。


「そ、それは困ります!」


じいじとの言い争いに口を挟んだのは、あの疲れたお兄さんだった。


「ザガール様が失礼しました。契約は継続でお願いいたします!ザガール様のテントはこちらでしっかり護衛いたしますのでご安心ください!さあ、夕食を取りに行きましょう!!」


がばっと音が聞こえそうな頭を下げ平謝りするお兄さんは、まだ文句を言おうとした例の人の口を挟ませない勢いで話し掛け、宿泊地に連れていった。


こちらの返事もテントに侵入しようとした罪も何もいう暇がなかったけど、お兄さんのことを考えたらわざわざ後を追ってまで追及するのは憚れた。


「後でまとめて報告して隊長か冒険者ギルドマスターに注意してもらいましょう」


ぼそりと呟くじいじの言葉に頷く。仕方ない、そうしよう。

出発前の問題も知られているし、今回のテント侵入問題に、契約外の見張りや結界を強要したことを伝えれば厳重に注意してくれるだろう。


「これから領主の依頼を受ける際は、さっきの奴が関係していないか確認してから受けた方がいいな」


誰かが呟いた言葉に周りの冒険者たちも頷いている。

完全に、例の人の信用が、落ちています!

いやまあ、仕方ないことだとは思うけど。領主が出したっていう信頼があるから依頼を受けたのに、依頼外の強要とか。テントでの行動を見ると下手したら自分たちの荷物を盗まれていたかも知れないでしょう?

損にしかならない依頼なんて誰も受けたくないわ。

ちょうど名前もわかったから今後確認しやすくなるでしょう。


連絡事項はもうないということで、微妙な空気のままその場で解散となった。

さっさとご飯を出し直して食べよう。気分の切り替えが大事だ。

待ちに待った美味しい唐揚げご飯を食べて、洗浄魔法で身体や衣服をきれいにする。

ふかふかの布団を出して、後は寝るだけ。


「ちっ、またか。おい!起きろ!」


と思ったら結界を叩く音と叫ぶが。

まだ寝てなかったけど、寝た振りでもしようかな。どうせロクな理由じゃないだろうし。

じいじに視線を送ると頷いてじいじだけテントから出ていった。


「なんのご用でしょうか?」

「用があるのはお前じゃない、小娘の方だ。すぐにワシをテントに入れろ!」

「だから何の用かと聞いているのですよ」


じいじ言葉は丁寧だけど凄く面倒そうな声だよ。

奴に割く労力なんてひとつもないとは思うけど。


「ワシに奉仕をさせる栄誉を授ける!わかったならさっさと入れろ!」

「そんな契約はございません。お引き取りください」

「バカな、光栄なことなのだぞ!他の冒険者は見張りのためにできないと言っていたが、ここなら結界がある。だから貧相な小娘をわざわざ指名してやっているんだぞ?」


奉仕ってやっぱり性的なあれだよね?

えっ、他の冒険者にも言ったの?女性がいるところと言えば2組いたけど、上位ランクのパーティーだと思うんだけど。

しかも片方は隊長さんとギルドマスターと打ち合わせしていたような。

そんな人たちにすでに断られているのに、何を言っているんだろう。

というか本当に頭がどうなっているんだろう。

なんて思っていたら、ドサッと倒れる音が聞こえてきた。


「寝てしまったみたいなので、さっさと届けてきます」


こちらが返事する間もなくじいじは、ザガールの足を掴んでそのまま引きずって行った。

一応顔に傷がつかないように仰向けにしていたけど、頭や背に小石などが当たって細かな傷ができていた気がする。

今までの腹いせにわざと引きずっている…のかな?


全然起きる気配がないところをみると、眠ったみたいと言っていたけど、あれ絶対じいじのせいだよね。

詠唱聞こえなかったけど、じいじ詠唱なしでも魔法が使えるの?

この依頼中は無理そうだから終わってから聞いてみよう。小説でよく書いてある無詠唱で魔法が使えると思うとワクワクします!

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