25 聞き取り
夜明け前、ぐっすり寝ていたところをじいじに起こしてもらった。
例の人が来たときは最悪な気分だったが、無詠唱のことでテンションが上がり、昨夜はスッキリした気分で寝られた。
ささっと支度を済ませたが、じいじに言われ私だけその場でまったり待っている。
早く集合場所に行って昨夜のことで絡まれるのを防ぐためだ。
悪いこと何もしていないのに、なんでこっちが気を使わないといけないのか!と思うが、これより面倒な事態を防ぐためだ。
わかってはいるんだけど、だからって納得はできないよね。
荷物を回収したじいじが迎えにきて、ようやく集合場所へ向かった。
例のあの人は昨日のことをあまり覚えていないらしく、こちらに寄ってくることはなかった。
その後も何事なく進んでいくと、前方からこちらに向かってくる人がいた。
長身がっしりした体格、防具や武器は良いモノをいいのを使っているということは。
「ちょっといいか?」
「はい、えっと護衛担当の方ですか?」
「あぁ、竜の尾のリーダーをしているギャレンだ。よろしく」
見回りのついでのようにススッと近づいてくるとにこやかに挨拶される。
「お知りの通り輸送担当です。何かありましたか?」
「昨夜なんだが、例のテント壊そうとしていたお役人が来なかったか?」
私たちにだけ聞こえないくらいの声量で問われた。
なるほど聞き取り確認ですね?
そう聞くってことは、あの人の本当に護衛担当のパーティーにまで声をかけたってことだよね。
隠す必要もないことだからそこは正直に答える。
「来たようですね。私は横になっていたので、じいじが対応したそうです」
「あんたは対応してないのか?」
「してないですね。詳しいことはじいじに聞いてください」
言い合った内容や恐らくじいじが眠らせたかも?ということは知っているが、それを正直に話す気はない。
事前に昨夜の事を聞かれたら、じいじに話を回すように言われていたのだ。余計なことを言って面倒事を起こしたくはないし。
じいじにアイコンタクトすると、良くできましたとばかりに頷いて話を切り出した。
例の人の要求した言葉を一言一句違わず話し、それが契約外であることを伝え退去してもらったと。
相手の言葉を正確に細かく伝え、こちらの行ったことの詳細を全部言っていない。
そういうところが肝心なんだろうな。
嘘は言っていないから、ギャレンさんも怪しむことなく、大きなため息をついた。
「まじで、女全員に声かけたんだなぁ」
「ぜ、全員ですか!?」
「そっ!もしやと思って聞き回ってみたらさぁ、案の定だ」
まさかまさかと思っていたけど、それが事実だとわかっても理解できない。
魔獣がひしめく森の中で、しかも守りの要になる冒険者に対してそんな要求をするなんて。自分の欲望に忠実過ぎるだろう。
さすがのじいじは、面倒くさそうにため息をついた。
「今後の同じようなことがあった場合はどのように対応はしますか?」
要望を受け入れるっていうのはありえないから、上の人に報告して対応を迫るのか。
「とりあえず今は様子見だな。昨日だけなら提案しただけって終わりそうだし。懲りずにまた来ればその時は…なぁ?」
目を細めて笑う姿とは対極に、すごく含みのある言い方をする。
確実に、二度目はねぇよと聞こえてくるのは気のせいなのだろうか?
「こちらも同じことが起きれば、ご連絡いたします」
「おう、宜しくなじいさん!」
じいじの返答に満足したギャレンさんはにこにこと持ち場に戻っていった。
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