42 暗黙の決まりごと

お昼ごはんを食べた後は特に問題が起こることもなく、予定していた野営地に到着した。

初日のため短い距離にしていたことや魔獣や盗賊の襲撃がなく順調に進んだ結果、予定より早く着いたみたいだ。

早速夜ご飯の準備を!と思ったけど、ちょっと止められた。


「今日は早く着いたし、今のうちに野営地での暗黙の決まりごとを先に教えるわ」


あまり話していなかったリンダさんがそう切り出した。

エイルさんに好意を寄せていて、恋敵になる懸念は払拭されたようだ。


「暗黙の決まりごとですか?」

「首都への街道は野営地が整備されているわ。冒険者だけじゃなく行商や移住者とか色々な人が使うから、自分の都合で好き勝手使ってはいけないの」

「へえ〜そうなんですね」


今までの旅の記憶を辿ると、うん、街道の野営地を使用した記憶がない。

勇者修行時代は野営なんてしないし、じいじと2人旅のときは街道を使わず森を突っ切って移動したから、森の中で野営していた。

この間の遠征も森の中で、しかも人に見られたくないからと離れた場所にテントを設置したし。

普通の野営方法を知らないや…。


「その顔、やっぱり使ったことなかったのね?」

「えへへ、…はい」


自分が使ったことないことを見抜かれて、正直に頷く。

今までの自分の行動に疑問にすら浮かばなかったよ。


「今から教えてあげるから覚えておけば問題ないわ。まず、火を使う場合は決められた場所に設置されたかまどを使うか、見張りの側だけよ。不始末があるとあっという間に火が燃え移って火事になるから」

「そう言われればそうですね」


整地されて燃えるものが少ないとはいえ、そこまで広いわけでもない。複数の団体が使用しようとしたらどうしても互いの場所が近くなってしまう。

そんな状態で好き勝手に火を使ったら飛び火して辺り一面延焼しそう。


「川の水は汲んでもいいけど、街に近い場所では汚れていることもあるから気を付けて。あと川に汚れた水は捨てないこと」

「ほうほう」


街からの排水が川に流れている場合もあるのかな?確かに知らずに飲んだら怖いわ。

言われてみれば当たり前のことだけど、言われないと気づかないことばかりだ。


「…遠征とかでも野営したはずよね?まあおじいさんの収納スキルがあれば飲水の確保は容易いわね」

「そうですね。川の水は使ったことなかったです!」


リンダさんにちょっと不審に思われたけど、じいじがアイテムボックス持ちという情報のおかけでそこまで追及されなかった。

私も嘘は言っていないからセーフ!

今までのじいじと一緒の野営では、食事の準備ではシステムキッチンの魔道具を使っていたから火は使わず。テントに結界があったから見張りの火も使わず。

飲水も水が湧き出る水筒の魔道具を使っているし、汚れ物は浄化魔法を使ってお終い…。

普通の冒険者じゃありえない方法の野営しか経験がありません!


じいじは野営地の暗黙の決まりごとをちゃんと知っていそう。

知っていて便利な方を選んでいた可能性が高い...!

きっとその時になったら教えようと思っていたけど、便利な方がいいだろうと後回しにしていた可能性も!


私はそもそも知らないんだから先に教えてよ!教えた上で選ばせて欲しいです!

じいじと一緒に使っているとそれが当たり前になっちゃうんだよ!!


そんな気持ちを込めて首をグルンと回してじいじを見たけど、ふふふという生暖かい笑顔で返された。リンダさんとの会話を聞いていたはずなのに聞き流す気だなと私は肩を落とした。


「あとむやみに他の団体に近寄らない。知人でも黙礼が基本、何か重要な情報共有が必要なときは街道側で話すくらいかしら」

「色々ありがとうございます!」


本当に知らないことが多い!

じいじへの抗議も無駄に終わり疲れていた私は、感謝の気持ちを込めまくってリンダさんにお礼を言った。


「ちょっと気になっていたけど、時々敬語になっているから注意したほうがいいわよ。エイルも言っていたけど敬語を使っただけで勘違いしてくる、面倒なやつがいるから」


リンダさんもエイルさんと同じように何か経験があるようで、今まで淡々と話していたリンダさんの口調が熱の篭もった言い方になった。


「じゃあ次は寝床の準備ね。これはラウルから説明するわ」


野営地の暗黙の決まりごとの説明が終わると、次は実際に使う場所について説明してもらえるようだ。何から何まで教えてもらうばかりでとっても申し訳ない気持ちになる。


「街道の野営地では街道と森の真ん中の位置で、両側が確認できる位置が一番いい。その場所がなければ、地域の状況によって、森側か街道側を選ぶんだ」

「地域の状況っていうのは?」

「高ランクの魔獣がいる森や盗賊の情報があるなら街道側、首都に近い往来の多いところなら森側が無難だ」

「へぇ〜色々考えて場所を確保するんだ」


森の中の野営ではそんなこと考えたことなかった。


「まああんたとじいさんと一緒なら、魔獣や盗賊が出てきても大丈夫そうだが、護衛依頼の時は依頼主がなるべく怖い思いをしないように配慮しないといけないからな。覚えておけよ」


護衛依頼か、いつか受けるのかな。

依頼を受ける必要性を感じないけど、目立たないように行動するなら覚えていないとね!


「今日は俺たちしかいないから、適度な場所を確保できるが、他の団体がいたときは場所取り争いになることもあるから、それも気を付けてな」

「うわ〜争いは嫌ですね〜」

「実際には取っ組み合いできないから依頼主の権力や冒険者のランクで決まることが多いな」

「それはそれで遺恨が残りそう」


いつか見返してやるくらいならまだしも、理不尽な逆恨みとかあるのかな?

やっぱりそういうのがあるなら護衛依頼を受ける旨味が感じられないから、高額であっても断ろう!

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