95 エルフの子どもたち

リディさんの厳しい言葉に子どもたちは揃って意気込んだ返事をした。

リディさんも教師の顔をしているし、子どもたちも1つ成長できたっていうキラキラした顔をしていた。

私は教材にされたまま置いてきぼりなんですが、この後どうしたらいいでしょうか?


「はーいということで本日一緒に魔法の練習するリサちゃんです〜」

「…リサです。よろしくお願いします」


置いてきぼりにされているところにいきなり紹介をされて、戸惑いながら自己紹介をする。

リディさん独特のテンポの人だと思っていたけど、さらにマイペースが乗っかるとは思っていませんでしたよ。


「ちなみにリサちゃんはおじいさまの紹介で里にきて、族長から認められて、世界樹からも認められています〜リサちゃんの腕輪を見たら、わかるでしょう?」

「「「「は、はい!」」」


と思っていたら、リディさんは何だか立て続けに捲し立て、最後に念押しするように低い声を出した。

これは、もしかして怒っていらっしゃる?


後から恐る恐る怒っていた理由を聞いたところ、腕輪を見てもなお疑うというのは、その元となっている世界樹を疑うということになる。

祀っている世界樹を信じていないなんてエルフとしてあり得ない。

誰の信用を得て里に来ているのかわからないのであれば、まず腕輪を必ず確認することを子どもたちに叩き込みたかったというのだ。

人種や環境によって教え方は違うと改めて感じた。


「さて気を取り直して練習行いますよ〜」


リディさんのせいでこの空気ですよとツッコみたいが部外者なので大人しく口を閉じておく。

するとリディさんは再度爆弾を落とす。


「そうそう、リサちゃんはこの中で最年少の15歳ですが、魔力操作はみんな以上にありますから見習ってくださいね〜」

「15歳!?」

「えっ?それって生まれたばっかりってこと?」

「いいえ!人族だと15歳は大人扱いです!」


とんでもないことを言い出されてぎょっとする。

長寿命のエルフの中では15歳は赤ちゃん扱いらしいが、流石にその扱いは嫌だ。

未熟な部分もあるが一人前であるという自負はあるので、慌てて成人していることを補足する。

子どもの姿をしている子に赤ちゃん扱いなんて勘弁して欲しい。

しかし子どもたちはクシャッと顔を歪めた。


「ご、ごめんなさい!」

「そんな小さい子に無遠慮のないことを言っちゃって!」

「ここにいる子たちは大体90歳前後になるからね〜リサちゃんより年上なんだよ〜」


最少年ということには違いないのでそこは受け入れるしかないが、本当に、本当に赤ちゃん扱いは勘弁して欲しい。

その一心で提案する。


「せめて、同年齢の扱いでお願いします!」


魔力操作はあるとリディさんが言っていたので、せめてその扱いで!

必死で頼み込んだ結果、渋々受け入れてもらえたのだが、仕方ないなという表情だ。

赤ちゃんがワガママ言ったみたいな雰囲気だが、背に腹は変えられない。

けどなんでだろう、ちょっと泣きたくなった。


そもそもエルフが90歳で子どもだとしたら、生きている人族の殆どは赤ちゃん扱いになってしまうのでは?

その可能性に気づいたので、慌てて人族の寿命はそこまで長くないことを説明する。

リディさんも言っていたように人さらいする悪い人族もいる。

自分より年下だと気を緩めると捕まってしまうかもしれない。

過去にそういう人がいたからエルフの人たちは警戒しているのだろうし、その教訓を忘れないで欲しい。


「お祭りでたくさんの人が訪れます〜今日の教訓とリサちゃんの言ったことを忘れず対応してくださいね〜」

「「「「「はーい」」」」」


ちゃんとエルフの子どもたちの教材になったのならいい。

例えそれで赤ちゃん扱いを受けたとしても。

その後、拡張魔法を披露することで、やっと一人前に扱ってもらえたのだった。

見た目に引きずられて申し訳ないのだが、子どもに子ども扱いされず良かった。


そんなこんなでちょっとした騒ぎがありながらも、穏やかに過ごしていき、お祭りの日が近づいていた。

それに伴い里の中にエルフ以外の人が増えてきた。

ドワーフ、獣人、魔人などラノベの定番ならが、今まで見たことない種族ばかり。


魔人については実は初めてではないのだが。

魔人の魔王には会ったけど、上に立つ人だからか、やっぱり一般の魔人とは違うわけなので魔人は今回初めて見たということにしておく。

人が増えてきたこともあって、里の中に屋台が出るようになってきた。


「リサちゃんもそろそろ屋台を出して練習しましょうか?」


族長のリアさんとリディさんの後押しもあって屋台を出すことになったのだが、流石に1人でずっとお店をするわけにもいかない。

そのため、エルフの人に手伝ってもらうことになった。

祭りの当日は今の数倍の人で賑わうことになるので、その前に練習できるよう屋台を促されたというわけだ。


屋台で売るチーズドッグは事前に大量に作っておき、アイテムボックスに入れておいた。

お祭りがあると知ってからコツコツ作り溜めておいたので、後から慌てて追加を準備することもないだろう。

時間停止できるアイテムボックスだからできる暴挙でもある。


それは別に揚げる前のチーズドッグも準備しておく。

折角の祭りなのだからできたものを並べるだけじゃ楽しくないと考え、ライブキッチン風に販売している横で揚げている様子を見せようと思ったのだ。

揚げる音と香りで集客できるだろうし、希望する人には熱々を食べてもらうこともできる。

売れなかったらアイテムボックスに入れておくだけだから廃棄を心配する必要もない。


「というわけで、リサちゃんの屋台始めます〜」


初日のお手伝いとして来たのは、何故かリディさんだった。

本当は族長のリアさんが手伝いたかったらしいのだが、さすがにお祭りの準備があるため仕方なくリディさんに譲ったと言っていた。

屋台の手伝いで譲る譲らないという話にはならないと思うけど、突っ込んだら何か疲れそうな予感がするのでスルーする。

そしてリディさんの掛け声で屋台を開店すると、すぐエルフが集まりだした。


「一番最初に買いに来てくれるのは嬉しいのですが、お祭りの準備は大丈夫ですか?」

「大丈夫よ!試食でも美味しかったけど、やっぱり本番も食べておきたいからね」


試食も本番も味は変わらないと思うけど、リアさんがそれでいいというなら文句はないけど。

リアさんとやり取りしている間に他の人も並び始めていた。

並んでいる顔ぶれを見ると顔見知りばかりだ。

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