94 お祭り準備

食べたいー!と猛烈に叫ぶリディさんには申し訳ないのだが、族長が食べたって言っていた料理がどれかわからない。

結構な頻度で族長とご飯やおやつを一緒に食べたので、族長がリディさんに伝えた料理がどれか本当にわからないので冷や汗が浮かぶ。

お世話になっているリディさんがこんなに叫ぶならぜひともおもてなししたいけど。

全部もう一回作るわけにも、それを全部屋台に出すわけにもいかないから、これは新しいレシピでお茶を濁すしかないのでは…!


「せっかくのお祭りなら新しいレシピなんてどうでしょう?」

「新しい?それって族長も食べたことないってこと?」

「そうです!」

「おぉ〜いいね!」


族長も食べたことないってところで、リディさんも落ち着いてくれたようだ。

お祭りはもうすぐってことだし、さっさと試作品を作って準備しなきゃ!


「お祭りまで時間ないみたいだから、明日からは試作品作りしますね!」

「うんうん。1日中魔法ばっかりだったからね〜気分転換にもなっていいと思うよ〜」


リディさんのテンションがいつもの穏やかな感じに戻っていた。

これはもしかして気を使われたのかな?

リディさんから拡張魔法を教えてもらってから、数日ずーっと魔法を発動しっぱなしだった。

反復作業は慣れているから苦痛じゃないんだけど、他の人からしたらずっと万単位で同じ作業を繰り返すのは辛いことらしい。

だから気分転換にお祭りの屋台を提案してくれたのかな?


…いやさっきの猛烈なアピールは本気だった気がする。

口調も変わっていたし。

本気で食べたいと思ってくれたのはありがたいけど、食欲は人を変えてしまうんだね。

なんて恐ろしい。

三大欲求を侮るなかれ!だね。



「で、また私は魔法の練習をすることになっているのでしょうか?」

「うん?屋台で出すものも決まったって聞いたから、ちょっとお手伝いしてもらおうと思ったんだよ〜」


呟いた疑問にリディさんは朗らかに答えてくれたが、そうじゃないんです。

確かに屋台で出すものも決まった。

前世で流行したホットドッグの中にとっても伸びるチーズが入った軽食。

串に刺しているから食べ歩きもしやすいし、チーズが伸びてとても楽しい。

その上食材は食べ慣れたものだから、誰でも食べやすいだろうし。

祭りに間に合うように急いで準備したのに。


「まさか祭りが始まるのがまだ数ヶ月先だなんて…」


もうすぐっていうから急いで準備したのに、エルフのもうすぐが人族のもうすぐとは数倍違うってこと知らなかった。

おかげで祭りが始まる前に余裕で準備ができて良かったけど、それならもうちょっとレシピを練ったりしたかった気持ちがある。


「まあまあその辺の誤差はその内なれ慣れるよ〜まさか数日で屋台のレシピ考えちゃんなんて思ってなかったから〜」

「そうですね。時間に関してはちゃんと数字でやりとりすべきだと心に刻みました」


長寿命なエルフの時間の価値観が人族とはまったく違うと学びました。

時間に追われていない分穏やかだけど、約束事する時はちゃんと日数でお話しよう。


「それで今から何をするんですか?」

「成人前のエルフの子どもたちに魔法を教えているんだけど、リサちゃんにも参加してもらおうかと思って」


そうして連れられてきた場所で数名のエルフたちから鋭い視線を向けられた。

年は…エルフだから見かけ通りの年とは限らないけど、人族で言うなら10歳前後くらいの子どもが並んでいる。

初対面で何故か睨まれているようですが。


「あら〜いけない子たちがいるわ〜」

「っ!」


リディさんもその視線に気づいたのか、いつもの穏やかな声の中に冷めた感情をにじませていた。


「どうしてリサちゃんを睨んでいるのかしら〜?」

「…そ、そいつは人族です!」

「そうです!人族は悪いやつって聞きました!」

「そんな人族がいるんだから警戒するに決まっています!近寄られたくないです!」


リディさんの問いかけに1人が答えると睨んでいた残りの子どもたちが堰を切ったように言い出した。

うむむ、どうやら人族の印象が悪いようだ。

ただ人族に悪い印象を持っているのは全員ではないようで。

隣の子の暴言に戸惑っている子や知らない顔して遠くを見ている子、睨んではいないけどじーっとこちらを見ている子と様々だ。

どう対応していいものかわからず、苦笑いしながらリディさんに視線を向けた。


「人族は悪いものというエルフもいるでしょう。でもそれはエルフも同じことですよ〜」

「えっ?」


リディさんの言葉が意外なのか子どもたちは目を丸くした。


「今のみんなもそうだけど、勝手に決めつけて悪口を言う子もいれば、慎重にリサちゃんを見ている子もいるでしょう?それと同じで人族も個人差があります〜」

「あっ…」


リディさんが何を言いたいかわかってきたのか、子どもたちは両隣を見て自分と違う対応をした子がいることに気がついた。


「人種で全員が悪いということなら、ここにいるみんなは全員、人族を勝手に決めつけて悪口をいう子と言うことになりますね〜?」

「そんな!」


暴言を言った子も言っていない子も驚いた声をあげて、リディさんの言葉を理解していくと顔を青ざめていく。

私がここにお呼ばれしたのはエルフの子どもの教育も兼ねている気がする。

子どもって一方的に決めつけてそれを信じちゃったりするもんね。

実体験で教えないとなかなか理解できないし。


「もちろん人族の中には自分の利益しか考えない人がいます。そういった輩はエルフが金と同じように思えて手に入れようとする人族もいます。そしてそれは人族に限りません」

「はい…」

「だから里の中でも外でも知らない人に会ったら慎重に見極めなさい!いいわね?」

「「「はい!」」」」

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