90 拡張魔法の練習

それなら拡張魔法を使えるようになったのはその後だ。

首都から離れて、盗賊騒ぎに会ったから、多分じいじが穴倉の盗賊たちを縛り上げたとき?

じいじの魔法のように、盗賊を持ち上げられるような魔法を真似をしようとした。

その時に土の上でグラスバインを使おうとしていた。

結果は魔法をパックちゃんに食べられたから発動できていたかは不明だけど。

じいじが普通に使っていたからそんなものだと思っていたけど、名称があるくらいの技術だったんだね。


「グラスバインの発動に心当たりがあるみたいだね。教えやすいからこちらとしても助かるけど。じゃあ次はこっちだね〜」


リディさんはニコニコしながら手招きしながら訓練場の外へ向かう。

何をするかわからないけど、今はリディさんが師匠なので大人しくついていく。

訓練場から森の中へ入った先には大きな湖があった。


「次はここで火魔法の練習だよ〜」


火は水で消えるから、水の中で火魔法は使えない。

確かにそんなイメージがある。

土の上から草木を生やすより難易度が高いのも頷ける。

けれどふと思い出す。

前世の知識を、水の分子構造を。


「リディさん、とっても危険な気がするんですが本当に火魔法使っていいですか?」

「いいよ〜これができれば中級レベルは合格だよ」


リサとエルフの間で知識の差があることを知らないグローリディアは安易に許可を出した。

今までエルフが火魔法を使って問題が起こっていなかったからだ。

リサはそういうものかと湖の中に手を入れて、念のため湖の中心に火魔法を発動する。


《ファイヤーボール》

ドォォーーン!!

ザァー

「うわ!」

「えっ?」


魔法を発動した途端に水の中で膨らんだファイヤーボールが大きな水柱を上げて爆発した。

普通に使用しても岩を砕くファイヤーボールが水素の燃焼と合わさって、とんでもない威力を見せた。

湖の半分の水量が空に舞い上がり、周囲に雨のように降り注いだ。

今までにない威力にグローリディアは目が点になって固まり、やってしまったリサもここまで威力が上がるなんて思わず思考が停止してしまう。


「ほほほ、思った以上に威力が大きかったようですね」

「じいじ、ありがとう!」


降ってくる水に対応できずにいたリサ達を、じいじがすぐさま風魔法で乾かしてくれた。

水素が燃えやすい気体だと分かっていたけど、流石にここまでとは思わなかった。

水素爆弾ってヤバいんだね。

今度はこの威力を考えてから魔法を使わないと、魔獣を倒しても素材が取れずに終わってしまいそうだ。

気をつけよう!


「リディさん、ごめんなさい。ここまで爆発するとは思っていなくて…」

「…ううん、こちらこそ対応できなくてごめんね?」


リサでも予想していなかった威力に呆然としすぎて、教える立場のはずなのに何もできなかったとグローリディアは肩を落として謝った。

失敗することも視野に入れて対応しようと思っていたのに、余りの衝撃に対応できなかったと。

失敗して不発ならともかく、爆弾並の発動になると誰も思っていなかったのだから仕方ない。


「油断していたわ。普段はおじいさまが教えているんだから気を抜いては駄目ね〜」

「じいじはやっぱりそういう扱いなんですね」


エルフの人に教わる時にちょこちょこじいじの話題が飛び出す。

大体は規格外の人だからその人に教わっているリサも一般の範疇にとどまらない的な意味合いで。


「さて、さっきの魔法拡張魔法にしては魔力の流れが違ったようだけど、原因はわかる?」

「あーどちらかというと普通の魔法と拡張魔法を合わせた感じでしょうか?」


水の中で火をつけるのは拡張魔法だが、あの威力は魔力で水の中の水素を燃料として認識したからだ。

だから拡張魔法とは魔力の流れが違ったのだろう。

分子の説明は難しいし、それに分子構造は水と酸素系くらいしか覚えていない。

そのため水の中に燃焼できる水素という因子があり、その因子を意識して魔法を使ったと簡単に説明した。


「そうなのね〜それを知識として知っておけば、今後水中でも魔法の威力が上がるわね」

「お役に立てたなら良かったです!」


エルフの里では教えてもらうばっかりだったから少しでも返せるものがあって良かった。

もらいすぎるのも落ち着かないからね!


「ちゃんと拡張魔法と切り替えができるまで水の中で拡張魔法の練習は危険ね〜どの練習方法なら安全かしら?」


水の中で火魔法という一番わかりやすい練習方法が使えず、グローリディアは頭を悩ませた。

土の上で植物魔法も因子が近い。土の中で風魔法も目に見えないので結果が分かりづらい。

マグマの中で水魔法も先程の二の舞いになりそうだし。

グローリディアがうーんうーんと唸っている様子をリサは申し訳なさそうに見つめた。


「まあまあ、先人の知恵はそのまま生かした方がいいでしょう」

「そのまま?水の中で火魔法ということですか?ですが先程と同じ様なことになったら」

「そうならないための工夫をすればいいだけですよ」


じいじはアイテムボックスから大きな水槽を取り出し、そこに水を流し込んだ。


「こちらであれば火魔法をそのまま使用して構いませんよ?」

「これなら水素爆発は起きないのかな?」

「はい、この中の水は拡張魔法しか使用できないように制限しましたので」

「わーさすがじいじだね!これから安全にしかも見やすく練習できるよ!」

「えっそれって禁術じゃ」


興奮するあまりグローリディアの呟いた一言を聞き逃したリサであった。

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