89 拡張魔法

じいじに連れられてやって来ました、森の外へ!

里の外の訓練場だから、じいじと一緒じゃないと行けないらしい。

特殊な里だから勝手に出入りできないのは仕方ないか。

じいじくらい強くなれたら一人でも出入りできるようになるのだろうか。

どんな目標を掲げても結果的に、じいじ並みの強さを手に入れることが必須になってしまう。


「お待ちしてました」

「お待たせしました」

「お待たせしてすみません!」


森の中にポツンと1箇所だけ拓けたところに出れば、その中心に立っている人から声をかけられた。

じいじに提案されてすぐ来たのだが、まさかもうすでに準備しているとは思っていなくて慌てて謝罪する。


「いえ、こちらが先に準備していただけなので。初めまして、リサちゃんでよかったかな?」

「はい、リサです!よろしくお願いします!」


教えてもらうからには誠意をちゃんと見せないといけない。

挨拶と感謝と謝罪は必ずするようにじいじに徹底して教え込まれた。


「そんなに緊張しなくて大丈夫よ〜あっ私はグローリディアよ。リディって呼んでね?」

「リディさん、わかりました!今日から魔法を教えてもらえると聞いたのですが?」

「そうそう。リサちゃん色んな人に教わっているんだってね?折角だから私も教えたいなと思ってね?良かったかな?」

「はい!こちらこそお願いしたいくらいです!」

「良かったわ〜断られたらどうしようかと思っていたの」


普通の話し方なのだがリディさんの会話のテンポはちょっと独特だ。

ゆったりしていて、どこで返答をしていいか少し迷ってしまう。

でも穏やかな感じで嫌いなわけじゃない。


「基本的なことはおじいさまから教わっているそうだから、今日教えるのは拡張魔法ね」

「初級とか中級魔法とかとは違うんでしょうか?」


じいじから教えてもらった魔法の段階は初級-中級-上級の3つだ。

拡張魔法とは聞いたことがない。

言葉のままなら範囲を広げる魔法ということになるけど、範囲や火力を上げるのであれば魔力をより込めて発動すればいいと聞いていた。

わざわざ別の魔法として展開するとは思えなくて、首を傾げてしまう。


「拡張魔法は通称名かな?できる魔法の総称みたいなものね。初級と中級と言った魔法の難易度を表すカテゴリーとはちょっと別ね。難易度でいえば中級より難しいけれど」

「この魔法と指定されたものではないのですか?」


リサの言葉にグローリディアはよくできましたと言わんばかりに頷いた。


「言葉通り範囲を広げて使う魔法の総称なの。まあエルフの中での話だから人族がなんて呼んでいるかは知らないんだけど」


じいじは知っているかとちらっと目線を向けるが、じいじはにっこり笑うだけ。

今から教えてもらう魔法、もしかしたら人族が知らない可能性があるのかも?

内容にもよるけど、人前で使えるかは後で確認しておかないといけない案件では?

他の技術を学ぶときもそうだったのだが、エルフにしか知られていない技術が多そうなのだ。

人族と交流がないから情報共有されていないんだと思う。

エルフの里は里の中で需要と供給が成り立っているから、わざわざ人族を入れる必要がないからその弊害かな。


「教えてもらうのは嬉しいのですが、エルフの秘技ではないんですよね?人族の前で使っても大丈夫ですか?」

「大丈夫よ〜リサちゃんが必要なときに使ってくれればそれでいいから」


本当に構わないらしくあっけらかんと承諾をもらえた。

エルフにとっては当たり前の技術で、教えたものをどう使うかは本人の自由だという。

人族に知られたらエルフの里にこぞって強襲してきそう。

どこで知ったか聞かれても、最悪じいじに教わったと言って誤魔化そう。


「じゃあリサちゃん、ここでグラスバイン使ってみて?」

《グラスバイン》

「あら?」


言われた通りグラスバインを発動させたのだが、リディさんから疑問の声が上がった。

いつも通り使ってみたんだけど、何かおかしいのか不安になる。


「あの、何か問題ありましたか?」

「ううん、問題ないよ。ただ教えようと思っていた初歩の技術は身についているようだから、その後どう教えようかと思って」


初歩の技術ってなんだろう。

じいじが知らない間に教えてくれていたのだろうか。

じいじに教えてもらう時は割りと感覚的というか、理論的な説明が少ない。

こうすればできる、できたみたいな感じですごくフワッとしているのだ。

魔法はイメージだみたいな感じで、それで今まで疑問に思っていなかったけど、じいじから教えてもらった時にそういう技術の名称を聞いたことがなかった気がする。

まさかここに来てじいじに脳筋疑惑が発生。


「先に説明するとね、拡張魔法って魔法に使用する因子がないところでも魔法を発動できる技術なの」

「魔法に使用する因子?」

「そう。グラスバインだと草木を成長させて相手を絡ませる魔法になるけど、草木がない場所では基本発動しないのよ?」

「なんと!」


グラスバインが草木がないところでは基本使えないなんて思ってもいなかった。

えっじいじそんなこと一言も教えてもらってないけど、そうなの?

魔法って使おうと思えば使えるものじゃないの?

リサの混乱を気にせずグローリディアは説明を続ける。


「水魔法は空気中の水分を、火魔法は空気中の燃料を因子として発動しているの。魔法はその因子を魔力によって変化させて起きるものになるの」

「えっと、魔法の発動はなんとなくわかりました。でもそれでいうとリディさんのいう拡張魔法って魔法の発動方法からズレていませんか?」


魔法は因子を変化させるもので、でも拡張魔法は因子がなくても使える魔法…。

ちょっと矛盾がある説明にあまり頭を使ってこなかったリサは理解が難しくなってきていた。


「そうそう。拡張魔法って魔力を全く別の因子に変換することで発動する魔法なの。だから難しさが段違いなんだけど、リサちゃんはその取っ掛かりができているのよね〜」

「取っ掛かり…」


言われて先程発動したグラスバインを眺める。

拓けた訓練場の土の上に1つだけぴょこっと生えてる草の罠。

リディさんの言う通り、草木が生えていない土の上でこれだけ生えているのは私の魔法がちゃんと発動したからだろう。

何でできたんだろう。

最近使用した魔法を振り返って見る。

バイン系を使ったのはCランクパーティーの緋色の獅子との模擬戦辺りで、その時は普通の魔法だった気がする。

冒険者ギルドの訓練場ではアースバイン、草原ではグラスバインを使っていた。

拡張魔法なんて知らなかったから、恐らく無意識に選択していたんだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る