73 魔術師の秘匿

「そうなの、じゃあ」

「ちょっとリンダ!次の質問は私!一人だけ質問を独占するのは許さないわよ!」


リンダさんが次の質問をしようとすると、次はシャロンさんから非難の声が上がった。

どうやらシャロンさんも質問したことがあるようだ。


「おじ様、さっき宿からこちらに来られたのですよね?でも走ったにしても早すぎますし、部屋に入った気配もありませんでした。つまりそれは魔法で来られたということでしょうか?」


シャロンさん、興奮しているせいかむっちゃ喋る。

いや茶化していい雰囲気ではないのはわかっているんだけど、どうにも思ってしまった。


「そうですね、それは」

「それは?」

「秘密ですね」

「あぅ!」


じいじが言葉を溜めたと思ったら、古のナイショポーズを繰り出した。

シャロンさん100のダメージ!と某モンゲームが頭を過ぎった。


「そうですよね。そんな秘術答えてもらえませんよね」


興奮していたシャロンさんの意欲が折れたようだ。

シャロンさんに話せないが、じいじは転移魔法を使える。

それを知ったのは魔王国で体験したからだ。

ただ、有象無象に知られると厄介な事柄に巻き込まれるので誰にも話さないようじいじと約束をしている。

シャロンさんもその厄介事になるとわかっているのだろう。

それ以上の追求はしなかった。


「じゃあ改めて次は」

「私も質問したい!」


シャロンさんの質問が終わったと思ったリンダさんに思わぬ伏兵が現れた。

ノーマークのシエラさんだ。


「おじいさん宿にいたんだよね?なんで状況把握できたの?」


言われてみれば、当然の質問だ。

宿で待っていたはずのじいじが商業ギルドに到着した時点で、大体の状況を把握したと言っていた。

普通であれば聞き込みなどする時間などなかったはずだ。

第3者から見ればおかしいことこの上ないだろう。

だけどじいじの情報収集能力がすごいことを知っているの。

方法は知らないがじいじが知らないことがないので今更疑問に思わなかった。


「それも秘密ですね」

「えぇ〜おじいさん秘密ばっかり!!」


シエラさんが納得いかないと声をあげるが、じいじは微笑むばかり。

まだシエラさんは追及したいようだったが、その口をシャロンさんが塞いだ。


「シエラ!魔術師には色々秘匿することが多いの!それを無理やり聞き出してはだめ!」

「だってわかんないことだらけだもん」

「ワガママ言うんじゃないの!わからないから全部教えて欲しいというなら、シエラの隠し事も全部教えていいのね?」

「それは嫌だー!」


シャロンさんの力づくの説得にどうやら諦めてもらえたようだ。

魔術師のシャロンさんが槍使いのシエラさんを羽交い締めしている面白い構図だけど。


「そうね、質問ばかりは失礼よね」


どうやらその様子にリンダさんは少し冷静になったようだ。

シエラさん程とはいかなくても、リンダさんも色々聞き出したそうだったし。

最悪シエラさんの二の舞いになると思ったら、あんな格好になるのは嫌だよね。


「最後の質問にするわ。そのピアス、私が手に入れることはできる?」


最後の質問もじいじにしか答えられないものだ。

このピアスをもらった時に聞いたことは連絡する相手と対になっているということだけ。

だからリンダさんが使いたいなら最低2セットは必要だ。


「可能性はあるでしょうが、お薦めはいたしません。それはこの魔道具が普及していないという時点で察することができるでしょう」

「…そうよね。お答えいただいてありがとう」


何やらじいじとリンダさんの会話に含みがあるような気がするのは気のせいかな?

この魔道具って原理もわかっているから簡単だと思っていたんだけど、普及していないって言っていたし。

リンダさんも手紙の魔法は一部しか使えない的なこと言っていたな。

という事はあまり気軽に使えない?

ちらりとじいじを見ると、「後ほど」と小さく口パクで伝えられた。

つまりその理由にも秘密があるってことだね。

了解の意味を込めて小さく頷いておく。


「お待たせいたしました」

「おかえりなさい」


軽くドアを叩く音がして、エミリーさんが部屋に入ってきた。

なんだかタイミングバッチリなんですが、もしかして部屋の外で待たせていたのかもしれない。

申し訳ないと思いつつ、やぶ蛇になりたくないので、確認することなくそのままギルドカードを受け取る。


「今回は色々とお手数かけましたが、本当にありがとうございます」

「はい!エミリーさんも色々とありがとうございます!」

「ぜひ次のレシピを登録する時もご指名下さいね!」


エミリーさんがすっごい輝いた笑顔で次回の登録を催促してくる。

登録の度に副ギルドマスターを呼んでいいか一瞬だけ悩んだが、考えるのを放棄する。

知らなかったとはいえ、既にエミリーさんを呼び出した実績があるし、本人の希望もあるし、それにそもそもレシピを登録するとは限らないからね!


「何かあればまたエミリーさんに依頼しますね!」

「はい、お待ちしております」


なので笑顔で無難な言葉を返した。

するとエミリーさんも笑顔で返してくれた。

ようやく、これで商業ギルドでの用事は終わりだ!

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