74 手紙の魔法
「やーっと宿に着いた!もう今日はお休みするよ!」
宿泊している部屋にたどり着いてベッドにダイブする。
緋色の獅子の拠点に行ってから半日しか経っていないのにこの疲れとは。
遠征でAランクの魔獣を討伐するほうがもっと楽だった気がする。
「そういえば!じいじ、このピアスって使っていいの?」
疲れた体を起こし、思い出したことをじいじに問いかける。
リンダさんとの会話から推測すると、このピアスも手に入りにくい感じだった。
元々そんなに使用する予定はないのだが、控えておいたほうがいいのか確認しておかねば!
「大丈夫ですよ。誰かに知られても私が持っているものにしか通じませんから」
「確かに。じゃあ使っても大丈夫だね!」
仮に持っている物を盗まれても、じいじから盗めるとは思わない。
それなら使ったところでじいじにしか通じないものに価値はないだろう。
「そもそもそのピアスには最初に魔力を通した者しか使えないようになっています。リサ様の物を借りたとしても使うことはできません」
「そうなんだ。じゃあ誰かに貸すこともできないわけだね」
先に聞いておいて良かった。
知らなかったら、もしかして緋色の獅子のメンバーに貸していたかもしれない。
特に魔法が大好きなシャロンさんが「一回だけ!一回でいいから使わせて!」と懇願する姿が浮かぶ。
そしてシャロンさんに貸していたら、使えない事実に落ち込む姿まで想像できる。
回避できて良かった。
登録した本人しか使えないなら万が一盗まれても大丈夫。
あと手紙の魔法が一部しか使えないとか、この魔道具が普及していないこととかも一緒に聞いておこう。
思い立った時に聞いておかないと、聞きそびれてそのまま忘れてしまいそうだから。
「手紙の魔法が一部の人しか使えないの?」
「手紙の魔法は、魔力で手紙を届けるからです」
「うん。…うん?魔法なんだから魔力を使うのは当たり前なんじゃない?」
聞いた理由が当たり前過ぎて、じいじが一瞬何を言っているのか理解できなかった。
魔力がなければ魔法はもちろん魔道具も動かないよ?
一瞬じいじがボケたかと思ったが、思った瞬間に異様に凄みを込めた微笑みをもらったので、その考えは即座に捨てた。
「正確にいうと込める魔力の量で届けられる距離が変わります」
「それって大量に流さないと遠くまで届けられない?」
私の返答にじいじが頷く。
それは確かに使用する場面が限られるかもしれない。
近い距離であれば通常の手紙を送ればいいし、遠い距離であれば魔力量が多い人しか使えない。
そんな魔法なら広まることもないだろう。
「さらに付け加えると届ける相手の魔力を前もって認識しておく必要がありますが、これは個人によって得意不得意があります」
そういえばそうだった。
送る人の魔力がわからないと指定した人に届けることができないから、当然といえば当然なんだけど。
魔力を感知できない人もいるし、人の魔力を識別するのが苦手な人は苦手だって聞いたっけ。
それならさらに使用する難易度があがる。
「ちなみに魔力を認識するのは魔力量と比例していています。リサ様ほどだと複数人を認識できるでしょうが、通常の魔術師はそこまで把握できません」
せいぜい2人くらいでしょうかと呟くじいじに目が点になる。
自分の魔力量が多いことは感じていたけど、そこまで違うとは思っていなかった。
その例でいうなら通常の魔術師の倍以上の魔力量があるってことでしょう。
「とはいえ、慢心はいけませんよ?」
「はい!」
目を細めて忠告するじいじに背筋を伸ばして返事をする。
いくら魔力量が多いとしても魔法を使う際に非効率に魔力を込めれば、魔法を使える回数は当然、少なくなる。
多量の魔力を効率的に使用することは生き延びることに繋がる。
じいじには魔力量でも圧倒的に劣るのに魔法効率でもさらに劣っている。
慢心している暇なんてないんだと改めて思う。
「今日は予想以上の騒動に巻き込まれて疲れているでしょう。今後の予定の相談は明日以降に回して今日は早く寝ましょう」
「ありがとう、じいじ!」
さすがイケ執事である。
厳しいときもあるけど、基本は心身を健康を優先してくれる。
行動で示してくれるのはもちろん、言葉でも伝えてくれるから嬉しい。
照れくさくなるけど、感謝をちゃんと伝えて、その日はすぐ横になった。
*
翌日、ぐっすり寝たためかスッキリとした目覚めで起きることができた。
やっぱり精神的な疲れがひどかったんだなと改めて実感する。
朝食を取るため食堂に降りていくと、昨夜食べに来なかったことを心配した料理長が朝食を大盛りにしてくれた。
デザートも、もちろんつけてくれた。
レシピが絡まなければ常識人なんだよね、料理長。
心配してくれた料理長に失礼なことを考えながら用意してもらった朝食をいただく。
「今回のデザートは牛乳プリンか。先に食べちゃおうかな〜」
昨夜食べなかったこともあり、身体が糖分を欲していると思い、デザートである牛乳プリンを手に取った。
一口食べてみると、ぷるんとしっかり弾力のありながら、滑らかな食感。
程よい甘さで牛乳の独特の匂いもなく、男性でも食べられそうな味。
やっぱり本職の人の作るデザートは一味違うな。
「幸せ…」
そのまま全部食べたいと思う気持ちをグッと堪え、パンの横に置かれたジャムに目をつける。
本日のジャムは苺とブルーベリー。
白い牛乳プリンに合わせてと言わんばかりの品揃えに、テンションが上がる。
そっと一口分のジャムをすくって牛乳プリンと一緒に食べる。
「苺ジャムは優しい甘さを足してくれるし、ブルーベリーは甘酸っぱさがアクセントになって飽きがこない」
「また面白いことしているな?」
朝食は牛乳プリンだけでいいかなっと思っていた所に、作った料理長本人がわざわざテーブルまでやって来た。
これが噂をすればなんとやらか、声に出していないけど。
「ジャムか。確かに彩りにもなるし、味にも変化をつけられるな」
「うんうん!上にかけるのもいいけど、中に混ぜるのもありだと思います!」
かけることでジャムと牛乳プリンの2つの味を楽しめるが、混ぜて作ってジャム味の牛乳プリンっていうのもいい!
あとは牛乳プリンとジャム入りの牛乳プリンの2層とか、その果実を飾りとして乗せるのも良さそう!
あとはあとはジャムだけじゃなくて、生クリームやキャラメルで装飾してもいいかも知れない!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます