75 レシピ登録

「お前さん、どんだけ料理のアイデアが出てくるんだよ」

「あっもしかして漏れていました?」


口にする気はなかったが、美味しい想像をしていたらうっかり言葉が漏れてしまっていたらしい。

そんな大きな声ではなかったから、聞こえていたのは料理長だけっぽいので良かった。


「聞いていたなら、せっかくだから今度作ってくださいよ!」

「まあ、今の作り方とそう変わらないからできるがよ。その前にレシピの登録しとけよ?」

「えーしないと駄目ですか?レシピ料とかいらないんですけど」


見たらわかるようなレシピをわざわざ登録する必要はないんじゃないかな?

ジャムかけるだけだよ?

不満な気持ちが顔に出ていたのか、料理長は肩をすくめた。


「レシピ料を取らず公開する方法もあるさ。レシピを登録するっていうのは第3者が勝手に搾取しないようにする対策でもあるんだ」

「ほうほう」


料理長の説明によれば、さっきのジャムをかけるだけのデザートも見ればわかるレシピだ。

人が作ったデザートを見て、そのレシピを勝手に登録して、作成者が登録料を払うなんていう酷い問題が起こったらしい。

そういう問題もあったことがあって、完成でなくても使えるレシピができれば登録する慣例になっているとのことだ。

言われてみれば確かに。

何も関わっていない第3者に勝手に登録料を取られるのは腹立たしい。


「でもレシピ登録するなら商業ギルドに行かないといけないですよね?」


騒動があった翌日に普通に訪れるとか、そんな強靭な心を持っていないので遠慮したい。

でもそうすると料理長が牛乳プリンの味変を作ることができない。

だからって料理長は自分のレシピとして登録はしたくないと言われるしな〜


「仕方ないな。とりあえず食べてな」


料理長はため息をついて厨房へ戻っていた。

何か思いついたのだろうか。

とりあえず言われたとおり朝食を堪能しておく。


「ごちそうさまでした」

「おう、全部食べれたな」

「昨夜の分も美味しくいただきました!」


デザートはもちろん、パンやオムレツなども美味しかった。

定番の朝食だけどその分料理人の腕が問われるよね。


「このパンってもしかして私のレシピの?」

「そうだ。お前さんが他のレシピ登録しているって言っていたから見せてもらったぜ。特にこの柔らかいパンは朝食に出すと喜ばれているぜ」


早く起きる商人なんかは食欲がないので、あまり朝食を摂らなかったらしいが、このパンにしたら残さず食べれるようになったらしい。

朝からちゃんと食べるから、朝から仕事がはかどると商人からさらに人気の宿になりつつあると満面の笑みで言われた。

今までの固めのパンが好きな人のために2種類用意しているが、朝は断然柔らかいパンが人気だそうだ。


「デザートアレンジレシピなんだが、これに書いておけよ」

「これ、商業ギルドの登録用の紙じゃ?」


これって個人で持ってていいんだっけ?

書くのはいいのだが、書いても持っていくのは本人じゃないと駄目なのでは?


「食事の準備の合間に新しい料理を開発しているんだがな。商業ギルドに登録に行く時間はないわけだ」


そりゃ宿の食事のクオリティを下げずに作って、新しい料理開発してってしていたら時間なんてないだろう。

宿だからお休みもないだろうし。


「だから商業ギルドに相談してな。登録用の紙をもらって、それを届けたら登録してもらえるようにした訳だ」

「それは楽ですね!」


商業ギルドに行かないという時点でとてもいい。

往復する時間も馬鹿にならないし、変な人に絡まれる心配がない。


「お前さん登録料いらないんだろう?俺の用紙に書いて、念の為共同レシピってことで登録すればお互い問題ないかと思ってな」


料理長は牛乳プリンのアレンジレシピを作れるし、私は手を煩わせずレシピが登録でき、第3者に利益を搾取されることもない。

お互いwin-winな状況になるってことだね!


「それなら料理長もう1つお願いがあるんだけど」

「なんだ?」


今の取引でも全然問題ないのだが、ちょっと私の方の利益が少ないかもと思った。

取引はなるべく公平にしたおいた方が後々問題も少ないだろうし、それなら首都に来たらやりたいことを料理長にお願いしてみる。


「お高いレストランに行ってみたいので紹介お願いします!」


そう、首都に着いたら高級レストランに行ってみたかったのだ。

本当はオークションの売上を受け取ってからと考えていたのだが、保湿剤の売上が入った。

正確な売上額は知らないがCランクに上がれるくらいだから問題ないはず。

それならオークションを待たずに堪能してしまってもいいだろう!


「なんだ、そんなことか」

「そんなこと、ではないですよ!お高くて美味しい料理が食べれる所ですからね!」


珍しい食材を使っただけの、味は二の次のレストランなんてお呼びでない!

高くてもその対価にあった美味しい料理が食べたい!


「美味しい食事は生きる上で必要です!」


何せ食欲は人の本能!3大欲求の1つなのだ!

しかも人生で満足に食べられる回数には限りがあるのだ!


「美味しい料理は大抵美味しい料理を作る人と繋がっているはずです!繋がってなくても耳には入るはず!美味しい料理を食べたいなら美味しい料理を作る人に聞くのが一番です!」

「はは、褒め殺しだな。いいぜ!とっておきの店を紹介してやるぜ!」


褒め殺した気はないのだが、料理長が紹介してくれるならそれでOK!

終わりよければそれでいい!

さっそく今夜食べに行くことができるか確認してもらえるらしい。

とても楽しみだ!

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