152 海へ
「ちょっとギルドで時間取られたけど、何からしようっか?」
「そうだね、とりあえず宿を取ったあとに海を見たいかな〜」
世界樹の引き継がれた記憶でしか見たことがないものを、実際に体験する時が一番楽しいとクリスは笑う。
前世でいうところ、テレビとかの映像でしか見れないものを旅行で見に行って感動体験ができるのと同じことなのかな。
クリスの要望を叶えるため、前に泊まった宿の部屋を押さえて、そのまま海へ向かった。
「うっわー!広い!煌めいている!風が変な匂ーい!!」
天候が良かったこともあり、真っ青な空と真っ青な海を見ることができたクリスは大はしゃぎで海に近づいていく。
変な匂いって潮の匂いのことかな?
確かに海を知らないと潮の匂いだとは知らないよね。
「わー!本当に水が近づいたり離れたりしている!不思議!」
クリスがまるで犬のように波に近づいたり逃げたりしながら大笑いしている。
この世界にも潮の満ち引きがあったんだね。
前回来た時は母国から逃げている最中だったせいか全然気づかなかった。
意外と緊張していたのかもしれない。
「海の水って飲んでみてもいいかな?」
「飲むのは止めておいたほうがいいよ!指をつけて舐めればきっとわかるよ」
海を初めて体験する人の失敗あるあるをしようとしているクリスに待ったをかけた。
クリスが手で掬っている海水を一気に飲んだら絶対に悶絶するはずだ。
慌てふためく姿もそれもそれで見たいけど、舌がおかしくなって夕飯に食べるであろう海鮮を楽しめないのはダメ!
美味しいものは美味しく食べないとね!
「み”ぃっ!」
クリスは私の忠告を素直に聞き入れ、海水につけた指をペロッと舐めるとすぐ猫が毛を逆立てるように驚いて固まってしまった。
だよね。思った以上に塩辛いよね海の水って。
予想はできていたので、お水の他に前に作ったミックスジュースもクリスに渡した。
水だけだと塩辛いのが薄れるだけで後味は残ったままだからね。
クリスも水を飲んでそれがわかったのかミックスジュースをごくごく飲んで舌を正気に戻していた。
「こんなに海が近いなら自分たちでお魚とか取れるんじゃないのかな〜?」
「確かに取れそうだね?」
自分たちで取ってすぐに〆れば鮮度抜群だし、好きな量をお金をかけずにゲットできるかも。
お金はあるけど使わなくて済むなら貯めておきたいしね。
取る方法はどうしようか。
釣具借りて一本釣りもいいけど、投網漁のほうがいっぱい取れそうだな。
いっそ水魔法を使って魚を生け捕りもありかも!
水魔法の練習にもなるかもしれないね!
「漁業ギルドがあるので念の為確認しておきましょう。個人とはいえ、リサ様がやらかして他の漁師や船の運行に支障が生じてはいけないので」
「あ〜…だね!1度あることは2度あるし、2度あることは3度あるっていうしね!」
「うぐ!」
考えていることを読んだようにじいじからストップがかかった。
先日の商業ギルドでやらかしているのでぐうの音しか出せない。
そしてじいじの言うことももっともである。
考えていた水魔法をそのまま使っていたら地元の人たちに迷惑をかけていたかもしれないもの。
思いついたらすぐ行動ということで、漁業ギルドに向かっていく。
若い女の子2人とご年配の1人の組み合わせに受付のお姉さんは戸惑ったようすだったが、個人で釣りをしていい場所がないかを聞きに来たことを伝えると納得してくれた。
鉱山があるヴェトネスでの採掘もそうだったけど、港があるリーンでも魚を釣ってみたいという人が少なからずいるらしい。
そういう人に向けた漁場と道具を貸し出しているそうだ。
この世界って魔獣がいる割には観光体験できる施設が常設されているんだよね。
もちろん魔獣が出るかもしれないから、そういう所は自己責任みたいだけど。
もしかしたら放牧が盛んなローウでも体験できる施設があったのかもしれないな〜
ドラゴン騒ぎで観光どころじゃなかったから仕方ないけど。
ほとぼり冷めたらまた寄ってみよう!
定番だと乳搾りとかバターやチーズの手作り体験もあるかもしれない!
その日は宿に帰り、楽しみの一つにしていた海鮮料理を堪能することにした。
母国から逃げて来たばかりの頃には予算の関係で注文できなかったワンランク上の料理を今指定したので期待は高まるばかりだった。
「お、美味しい〜」
「んっ!」
そして夕食に出た料理は素晴らしいものだった!
さっすが港街!
一番嬉しいのは何と言っても刺身だ!
港街以外で刺身なんて食べれないし、港街でもお腹を壊さないために丁寧な処理が必要らしく、海鮮料理の中では高価なメニューなのだ。
もちろんそれ以外も美味しいものばかりだった。
焼き魚にフライに蒸し焼きにパスタにパエリアなど多種多様な海鮮料理に舌鼓を打つ。
和洋折衷な感じだが、転生者がきっとレシピなどを提供していった結果なのだろう。
美味しいからありがたい限りだけどね!
料理でチートなんて考えないし。
そもそもチートなんて目立つことしたくないしね。
目立つ=厄介事に巻き込まれるって経験則でもわかっているからね。
私は私の好きなことができればそれでいいのだ!
この料理たちもまた食べたいな〜
頑張った時とかお祝いの時とかに食べれるように確保しておきたいな〜
アイテムボックスに入れておけばいいんだし、追加注文しちゃおうかな?
ちらっとじいじを見ると、微笑みながら頷いてくれた。
本当に心を読んでいるように察しがいいな〜
「すみませーん!注文した料理の追加をお願いできますか?」
「っん!いいね!」
夢中で食べていたクリスも私がしたいことがわかったようで、満面の笑みを浮かべた。
クリスもまた食べたいと思うよね!
同じ量を3人前注文して、そそくさとマジックバッグに入れる振りしてアイテムボックスに収納させてもらった。
豪華な夕食とストックを獲れたことに満足してその日はベッドで熟睡した。
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