92 拡張魔法の練習3
翌日、グローリディアの懸念が当たった。
手本を見せるだけだったので最初の1時間は余裕であったが、お昼に近づく頃にはグローリディアの魔力は尽きかけていた。
「ど、どうしてリサちゃんは、そんなに魔力があるの…」
エルフは人族より遥かに多くの魔力を持っている。
その中でグローリディアは魔術師として飛び抜けた魔力と技術を持っていた。
だからリサの魔法の教師に抜擢されたのだが。
そのグローリディアが、魔力切れで気絶しそうになるギリギリまで頑張ったが、それでもリサには着いていけなかった。
さすがに魔力切れでは見本を見せることができないないため、グローリディアが魔力が回復するまでの間、リサには自主練をしてもらうことになった。
まずは今まで倍近いスピードで発動できるようになるのが目標だ。
それができるようになったら、グローリディアと再度速度を比べることにした。
「多分、回復する魔力が多いからだと思います」
リサはそれを証明するかのごとくグローリディアの問いかけに答えながら、休むことなく水槽の中でファイヤーボールを発動させている。
ありえない状況なのに、ありえている結果をグローリディアは疲れた目で見つめた。
「この師匠にしてこの弟子あり、ね」
おじいさまも規格外のお方だけど、その弟子であるリサちゃんもかなり規格外の存在らしいとグローリディアは思った。
拡張魔法を知らずに使えるようになっていて、さらに水の中に燃焼するものがあるというとんでもない知識まであった。
魔法の勉強前にも服飾や調薬や栽培なんかの手ほどきを受けたと聞いたから、それぞれ教師を務めた者にどういう子だったか聞いて回ってみたのだが。
全員が”超絶な”と頭文字が付くくらいものすごく器用だと言っていた。
1度、見本を見せれば大まかなことは取得してしまう腕前。
観察眼もあり、手先が器用な上、基本の魔力操作を徹底的に習得しているから可能になったのではないかと意見を交換した。
類は友を呼ぶと言うけれど、やっぱりその力量のある者は惹かれ合うのかもしれない。
「じいじはもっとすごいですよ!魔力量も底が見えないし、魔法を使う時の魔力も最小限だから!初級の魔法ならずっと打ち続けられるんじゃないかな?」
初級魔法だとリサは流石に3発打って1発分回復するくらいの頻度でしかないが、じいじは打ったその都度回復している感じがする。
リサの勝手な想像ではあったが、あながち間違いではなかった。
どちらかというと初級魔法であれば1発打つ間に3発分は回復するくらいの頻度であるが、それはじいじ以外誰も知らないことである。
「おじいさまもすごいけど、リサちゃんもすごいよ〜」
「そう、ですか?そうなら嬉しいです」
リサが戸惑いながら笑う様子にグローリディアは少し違和感があった。
今までもエルフの子どもたちを指導していたが、リサほどの力量がある者ならもっと自信に溢れていた。
そう、リサには自信が感じられないのだ。
人族の割に謙虚なのかと思ったけど、自分がどれだけすごいことをしているのか認識していない気がする。
「…おじいさま?」
「少しずつですよ。だからこそこの里に来たのですから」
グローリディアがちらりと視線を向けると、じいじはリサに気づかれないようにサッと防音魔法を発動させた。
そしてこの里に来た理由を説明した。
リサがトラブルに巻き込まれて疲弊したこともエルフの里に来た要因の1つだが、それ以外にも考えがあってのことだった。
1つはリサが考えていたように手に職をつけること。
冒険者として動けなくなった後でも知識があれば食べることに困ることはなくなる。
もう1つはリサが自分のことを正しく理解すること。
幼少期はひたすら蔑まれてきた。
力づくではあるが一国の王に勝てるだけの実力があるのに、リサ自身がそれを評価しない。
それというのも、じいじという規格外な者しか側にいないため、一般的な比較対象がいないからだ。
魔法も武術も何一つ追いつけず劣っているから、まだ未熟だとリサは自分を認めない。
まあ、エルフが一般的かと言われたらそうではないのだが、じいじより遥かにマシである。
さらにリサに嫉妬せず穏やかに接してくれると分かっていたからじいじはエルフの里に連れて来たのだ。
すぐには無理だろうと思ってはいたけど、ようやく少しずつリサが自分を認めて来ているようにじいじは感じた。
やはり、自分以外にも側にいる者が必要かもしれない。
じいじはそう考え、画策することにした。
それから数日、リサはグローリディアと魔法のスピード勝負にのめり込んでいた。
魔力はリサがあるものの、技術ではまだまだグローリディアが勝っている。
グローリディアの魔法を見ながら真似ることで当初より早くなってきているが、やはり本家を真似するだけでは追いつくことができない。
そのためリサは魔法の発動速度でグローリディアに中々勝てないでいた。
「あーやっぱり、これでもリディさんの速さに追いつけない!」
「これでも百年以上魔法を教えているのよ〜そんなに早く追い抜かれたら立場がないじゃないよ」
「百年ですか!?」
悔しいと口を尖らせるリサにグローリディアは穏やかに笑って胸を張る。
その言葉にリサは驚いた。
百年以上教師をしている。
つまりリディさんの年齢はそれ以上と言うことだ。
見た目20代くらいにしか見えないのにリディさんが百歳かもしかしたらその倍は生きているかもしれない。
改めてエルフの長寿命と若さに慄く。
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