21 荷馬車騒動
やって来ました、遠征日。
早朝に集合ってことでいつもよりも早く起きて準備した。遅刻して余計な反感買いたくないしね。
集合場所には何人かの冒険者とギルドマスターが隊長らしき人と話しているようだった。
遅れていないようで内心安堵する。
周りを見渡してみると他の領主兵の人たちはその周りで馬車に荷物を運んだり、防具や武器の確認をしている。
ちょっとギスギスと言うか不穏な雰囲気だ。
森の奥へは狂暴な魔獣がいることが多く、そこへの遠征となると命懸けと言われているから仕方ないのかな。
声を掛けるのを躊躇ってしまうが受けた依頼だ。
「あの、荷物を運ぶように言われたものですが、どれを運べばいいのでしょうか?」
「君たちが?わかった、案内するよ」
通りかかった兵士の人に思いきって声をかけると、あっさり案内してくれてよかった。
領主兵と言っても変に偉ぶってないのかもしれない。
「お前らが荷物運びの冒険者か?じじいと小娘とはお気楽なものだな」
と思っていたが訂正。
やっぱり居るところには居るんだね。出会い頭から不躾にこちらを見下してきた関わりたくない奴が。
「ワシが遠征の物資を担当している。お前たちが運ぶのはこれだ!」
指差された方を見て、驚いた。
荷馬車っていうから商人さんが運ぶのに使っているものを思い浮かべていたんだけど。
「どう見ても乗り合い馬車…」
荷台にぎっしり荷物が積まれたものが2台並んでいる。
大きさを確認していなかったのは仕方ないとしても、行きは1台って約束していたはずだ。
「どうした?荷物持ちの冒険者なんだろう?約束通り運んでもらおうか?」
私たちがこの遠征に参加するのが気にくわないのか?
出来るわけがないと言うように、ニヤニヤしながら問いかけてくる姿に半目になる。
「どちらを運べばいいのですか?」
「何を言っている!2台のはずだろう!」
器用に片眉だけあげて叫ぶなんて、ちょっと場違いだけど笑いそう。
私が笑いそうになるのを押さえている間に、じいじとその物資担当とのやり取りは続く。
「いいえ、行きは1台分、帰りに1台追加という約束です」
「合計が同じなら問題ないではないか」
「では、討伐された魔獣や採取されたものは運ぶ必要はないということでよいですか?」
「はぁ?何でそうなる!それでは雇った意味がないではないか!全くこれだから教養のない冒険者は嫌なんだ!」
それはこっちのセリフ!と大きな声で叫びたいが、冷静に対処した方が周りからの印象が違うだろうから、ぐっとこらえる。
というか自分が無茶苦茶なこと言っている自覚あるのかな?
周りが遠巻きにしているってことは一般兵って訳じゃ無さそうだし。
この時点でこの遠征、嫌な予感しかない。
「では依頼を破棄致します。原因はそちらの契約不履行ですから仕方ないですね」
やれやれと困った演技を入れるじいじに、また笑いそうになったが堪えた。
この状態で笑い出したら奇異な目で見られてしまう。
「ま、待て!それなら報酬を増額しよう、それなら問題ないだろう!さあ運べ!」
はい、ダウト!
これは私でもわかる。増額と言いつつ額を提示してしないので最悪1円でも多く払えば増額扱いだとか考えていそうだ。
もしくは口約束だけなので、そんな事契約書に記載がないとか言って踏み倒される可能性もある!
っていうか人にものを頼む態度じゃないよね?
「出発前に何を揉めている?」
叫んでいる声が聞こえたのか、もしくは誰か報告してくれたのか、ギルドマスターとお話ししていた人がこちらに向かってきた。
「此方の方が行きも2台にして、更には討伐や採取した荷物も運ぶように強要されますので、依頼を破棄しようかと」
「どういうことだ?行きは1台、討伐採取用に1台と契約したはずだが?」
こっちの人はちゃんと契約内容を把握しているようで、少し安心する。
後はそちら内で話し合ってもらおう。
「砦に置きに行く時間はないな。1台分の荷物をどうするか。」
「きっと部下が報告ミスをしてしまったのです!その者に責任を取らせます!」
「一人で運べる量ではないだろう。責任については遠征が終わってからとする。荷物を空にすれば、荷馬車自体を運ぶことは可能か?討伐採取したものは空になった荷台に入れていくことは?」
責任とか報告ミスとか今話す内容じゃないもんね。
今から遠征に出るんだから、どうしたら時間を取らずに出発できるかを対応することが大事だ。
なんかさっきから論点がズレているんだよね、あの物資担当者。
「荷馬車を収納することも、またその空の荷台に詰め込んで行くことも問題ありません。むしろそちらの方が収納量で揉めることは少なくなるかと思います」
荷台に載せていけば、目に見えて分かりやすいと思うけど、絶対って言えないのは、目の前みたいな変な人がいるからだろうな。
物資担当と言っていた人を無視するような形で、じいじと隊長さんらしき人でさくさく話を詰めていき、あっという間に1台分の荷物を空にした。
すぐさまじいじが荷馬車を持ち上げ収納すると、周りからは感嘆の声が上がった。
耳をすませてみると、かなり大きい荷台だったから運ぶのは無理だと思われていたようだ。
一般的な荷馬車とは大きさが全然違うから心配はもっともだが、じいじにしたら何でもない量だ。
隊長さんらしき人もほっとした様子だった。
「それでは迷惑をかけたな。よろしく頼むよ」
「こちらも契約破棄せずよかったです。道中よろしくお願いいたします」
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