22 休憩

魔獣の森への移動は徒歩になる。

森の中は獣道のようなもので、馬車が通れるように舗装されていないから、当たり前なんだけど、それに文句を言う人がいる。


例の物資担当の人だ。

遠征物資の運搬負担の軽減のため、予算を計上して森の中を舗装すればいいとか言い出した。

異変がなければ殆ど入らない森を舗装だなんて、まずこの遠征中に舗装なんて終わることできないし、何を考えているんだろう。

しかも実際行うのであれば、冒険者を雇って魔獣を警戒しながら作業する必要がある。どれだけお金がかかるか、わかっていないのかな。

はっきり言って無駄の一言である。

揚々と提案しに行って、すげなく隊長さんに却下されていた。


それはともかく、物資は遠征での必需品のため、魔獣に襲われないようにやや後方に配置される。

物資を運ぶのはじいじだから必然的に私も物資の隊に入るのだが、例の物資担当の人と近くて嫌だ。

気持ち距離を取りながらじいじに小声で話しかける。


「私が討伐するの控えていた方がいい?」

「この辺りならわざわざ討伐するほどではありませんし、兵士の皆さんで抑えきれない時のみ討伐しましょう」


森の奥ならまだしも、手前の方でDランク冒険者がしゃしゃり出るのは心証が悪いだろう。

見た目が成人したばかりの女と年配の冒険者だからか、同じ隊の兵士たちが並んで歩くことを嫌がるそぶりをみせていたのだ。

荷物運びで選ばれた戦闘力のない冒険者だと思われているのかもしれない。

ちゃんと戦えるし、足手まといにならないアピールをしたいけど、Dランク以下の魔獣では説得力がない。

アピールできるのは、明日以降か。


今回の遠征の日程は2日かけて森の奥まで行き、そこに拠点を作って2日、今回の異常現象の原因を突き止めるための調査を行う。

場合によっては1日延長して、また2日かけて帰る予定だ。


拠点になる場所なら魔獣のランクも高いし、採取できる薬草も多いはず。そこで腕を見せつつ、狩りと採取で儲けよう。

荷物運びだから調査に参加する必要ないし、稼ぎ時は逃さないようにしないと。


ぶつぶつ文句をいう人はいるものの、遠征自体は順調のようで、一旦休憩を取ることになった。

じいじが荷物が入った荷馬車を出すと、兵士の人たちは辺りを警戒する人、食事の準備をする人、休憩する人と別れた。

予め休憩を取る順番や役割を決めているようだ。ちゃんと訓練されているんだと感心する。


「貴様らは荷物担当なのだから、ちゃんと見張っていろ」

「えっ?」


食事の準備をしようと思っていたら、そんな声がかけられた。

後ろを向けば、やっぱり予想していた通りの人だ。


「必要ないでしょう?」

「荷物運びなんだから、当たり前だろう!その荷物をちゃんと見ておけよ!」


言うだけ言って、その人は料理が準備されている場所へ行った。

見張りはしなくていいっていう契約なんですが…。

あーますますあの人の近くに居たくない。


「申し訳ございません。見張りはこちらで行いますので、お気になさらず」


近くにいたそのお兄さんはそう言って頭を下げてと謝罪してきた。直ぐ様荷馬車の側に立って辺りを警戒し出す。

すらっと背が高くて身体もがっしりしているのに、顔はとても疲れた様子で覇気がない。

…上司に振り回される人の良い人ってやっぱりいるよね。お兄さんその典型じゃないかな。


「お兄さんは休憩取れるんですか?」

「いや…気にしなくていいよ。いつものことだから」


苦笑いで答えるお兄さんに毎度の苦労が伺える。

そんな人を放っておいて気軽に食べてられないよ。


「はい、これで良ければ一緒に食べましょう!」

「いや、その…」


マジックバッグから出す振りをして、作りおきしておいたサンドイッチを取り出した。

これなら片手で食べられるし、魔獣が出てきてもすぐ構えることができる。

お兄さんがこれ以上遠慮しないように、手にサンドイッチを持たせ、自分達も同じものを食べる。


「では…んっ!このパン美味しいな!」


一口食べるとお兄さんが幸せそうに頬を緩めた。

サンドイッチの中身は在り来たりな鶏の照り焼きだけど、パンは固いのしか売っていなかったので、柔らかめのパンを作ったのだ。


ふわふわのパンと外パリッ中ジュワ~の鶏肉にシャキシャキの野菜の食感。甘辛い照り焼きソースにマヨネーズの酸味が加わって、手軽だけどすごく美味しい。

ふわふわのパンに野菜の水分が吸われないようにバターを塗っていたのも正解だ。


隣を見るとお兄さんは一口ひとくち噛み締めるように食べている。最後の一切れを口に入れて、ほぅっと息を吐いているところをみると味には満足してもらえたようで良かった。


「お兄さんが元気出たみたいだね!」

「…ありがとう。とても美味しかったよ」


放心していたのが恥ずかしいのか、誤魔化すようにお兄さんは笑った。

血色も心なしか良くなったようでひと安心。


「こちらこそまた何かあったらよろしくお願いします!」


うん、例の人とはまた絶対何かありそうだから。

疲れているお兄さんには大変申し訳ないが、この遠征が終わるまで本当によろしくお願いしたい。

その分食事などを差し入れさせてもらうので。

心の中でそっとお兄さんに合掌した。

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