146 おなじみの冤罪騒ぎ
「確かに、貴方は試験の必要はありませんね」
私のカードを確認するとギルド職員は頷いた。
このギルド職員は話がわかるようで、すぐに結論を出してくれて良かった。
Cランクの冒険者がGランクのランク試験を受けるはずないのにね。
「そんなはずは!」
「あっ!」
「な、なんだと!」
納得できなかった野郎は事もあろうにギルド職員が持っていた私のギルドカードを奪いやがった。
人の身分証であるギルドカードを勝手に奪うのはもう窃盗だよね?
窃盗だから、盗賊として対処していいよね?
驚き固まっている野郎の手からすぐさまギルドカードを奪い返す。
「そんな女がCランクなんてあり得ないだろう!」
「あ”ぁ?」
よりによってこんな大勢の前で人のランクをバラしやがった!
自分から開示したならまだしも、勝手に盗んで見てさらに暴露するなんて!
さっきからすっごい不躾な対応になんだかんだストレスが溜まっていたようで、声に怒りがにじみ出てしまう。
目の前の野郎を盗賊として処理してしまってもいいかな?いいよね?
「流石にこの大勢の前で殺すのはいかがかと」
「じいじ…でもさ、何もしていないのにこんな対応されるのは納得がいかないんだよね?」
物騒なことを考えているのがバレて、じいじからそっと制止が入った。
でもここにいるってことは冒険者ってことだよね?
ランクの上の冒険者に喧嘩を売ったんだから相応の責任はとってもらわないといけないよね?
「納得いかないのはこちらだ!私ですらまだCランクには届いていないのに、どんなズルをした!」
ついには相手は逆ギレしてきた。
自分がどれだけ理不尽なことを言っているのか理解していないようだ。
当然だけど、私の近くにいたギルド職員も眉をひそめ、周りにいる受験者たちからも不審な目を向けている。
「これ以上こちらの方に言いがかりをつけるようなら、ギルドとしても対応しなくてはなりませんよ」
自分の所属するギルドが貶されている職員は当然のように不快に感じ、告げる声も冷たいものになる。
ただその警告は逆上している相手にはまったく響かない。
「不正しているのを隠すのか!?それがギルドのすることか?!」
もう自分の言い分しか信じていない愚か者にギルド職員の警告も届かず、一方的に決めつけてしまい、その様子に周りは嫌悪を露わにしていく。
特に職員の人の視線が厳しくなっていっていて、そんな状況を把握していくうちに逆に冷静になってきた。
巻き込まれる運命、なんだろうなぁ。
クリスが巻き込まれないように考えられる限り対策したのに、クリスを見守っただけでこの騒ぎになるとは。
次から気配を隠すとかしていたほうがいいかな。
いや下手に気配を隠して見守っているのも怪しまれてそれはそれで絡まれそう。
なんでそんなモンばっかりが私に近づいてくるんだよ!
「おい、お前のことなのに、反省はないのか?それとも疚しいことがあるから言えないのか?ズルしたことを認めさっさと詫びるがいい!」
「…ギルド職員さん、とんでもない冤罪かけられているけど、どうしたらいいかな?」
「あの手の輩は例え上司が出てこようとも自分の間違いを認めないでしょうね」
忌々しいとばかりに睨みつけるギルド職員さん。
ギルドも色々大変そうだね。
あのやりとりで相手の傾向がわかるほど今までにもあったってことだよね。
でもこのまま喚き立てられても困るな。
クリスのランクアップのお祝いもしたいし。
こんなことに時間を取りたくない。
でも解決方法が思い浮かばない。
例え模擬戦してもまたズルをしたの、反則をしたの、審判を買収したのと騒ぐのが目に見えている。
「おおーい!ランク試験の結果持ってきたぞー!」
1人を除いて訓練場の全員がどうしようと困惑と嫌悪の雰囲気の中、大きな声とともに入ってきたのはとてもガタイのよい方でした。
「ほら、さっさと発表して配ってやれ!」
会場の雰囲気を一切気にすることなく、入ってきた男の人は近くにいたギルド職員を呼ぶと紙と箱を手渡した。
どうやらあの箱の中に新しいギルドカードが入っているようだ。
「ちょっと待ちたまえ!今ギルドの不正について話を」
「ギルドは不正しちゃいねぇよ!ランクは正しい評価でつけている!これ以上ガタガタ抜かすようなら冒険者ギルドの所属を取り消すぞ!」
冒険者ギルドが信用できないってことだろうからな!と鼻を鳴らして相手の言葉を切り捨てた。
確かに…!と訓練場にいた全員が思ったことだろう。
相手は口をパクパクさせて続きを言うこともできなくなっている。
それに我関せずとガタイのいい人はギルド職員と協力して受験者の名前を呼んでギルドカードを渡していく。
もちろんランクを直接いうことはせず、相手にカードで自分のランクを確認させる。
さらに恐らくその人の長所と次のランクに上がるために今足りていないところを伝えているようだ。
とっても手厚いサポートにちょっと感心する。
そしてようやくクリスの名前が呼ばれた。
カードを受け取って、助言を聞いて頷いて他の受験者と同様に頭を下げてお礼を伝えていた。
その様子から理不尽なことは言われていないとわかる。
「じゃーん!」
にこにこ笑顔でクリスがカードを持って来て私たちの目の前にかざして見せる。
Dランク…!Gランクから3段階もアップしている!
おぉすごい!やったね!
…しかしこれはこれでいいのか?Dランクって群れの魔獣にも対応できるって判断じゃなかった?
「なんかね、手を抜いているのわかっちゃったみたいで」
テヘッと舌を出して笑うクリスだけど、それバレちゃっていいの?
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