56 保湿剤

部屋に入って座らせられたと思ったら、リンダさんについっと頬を触られた。

そして、他の2人に向かって頷く。

なんですか!その意味深な仕草はやめてください!何が起こるかわからなくて怖いです!


「リサちゃん、貴方、お肌のお手入れは何をしているの?」

「お手入れ?」


真剣な目で聞いてきたシャロンさんの言葉に目が点となる。


「昨日リンダたちに浄化魔法を使用しているという話をしたでしょう?それで夜にクリーンを使用してみたの」

「はい」


魔力の温存を推奨していたシャロンさんから、魔法を使ってみたと聞いてちょっと驚く。

宿で戦闘の心配がいらないから温存していた魔力を使ったのかな?


「確かにいつもよりキレイになったわ。でも、貴方のその肌には程遠い!」

「このしっとりしながらさらりとした肌触り!浄化魔法だとここまでしっとりさらりにならないのよ!」

「それで浄化魔法以外になにか別のお手入れがあるんじゃないかと思ったんだよ!」

「えぇ〜」


そんなことのために私は食堂から拉致されたの?

いや大人の女性からしたらそんなことではないのかもしれない。


「とりあえず起きたら、石鹸で洗顔して、保湿剤を付けて、日焼け止めを塗っているだけですよ?」


前世と同じようにしている朝の流れを説明する。

石鹸は平民でもちょっとした贅沢品だけど、使われているってじいじに教えてもらったし、使用している保湿剤と日焼け止めだって森に多く自生している薬草から取れるものを使用しているからそこまで珍しいものじゃないはず…あれ?


「保湿剤と日焼け止め…?それってどこで売っているの?!」

「いくらするの!ある程度なら出せるわよ!」

「うんうん!」


私は薬草から抽出していたから簡単に使用していたけど、それって普通じゃなかったりするのかな?

シャロンさんに売っている場所を聞かれるが、売っているかも知らないし、幾らするものなのかもわからない。


「売っているかわかりません。薬草から作ったものを使っているだけなので」

「作った?」

「リサは調薬もできるの?」


私の説明に、次々と疑問が出てくる。


「ちょっと独特な作り方だと思うけど薬も作れますよ」


じいじに教えてもらった方法は高品質のものが大量にできるけど、ものすごく魔法操作が必要なのと、3つの魔法を同時に使用しなければできないという、とんでもない方法だけど。

それとは別に一般的な方法も教えてもらったけど、それも大量にはできないし品質がバラつく可能性があるから使っていないけど。


「あっでも薬師の資格はありませんよ!あくまでじいじに教えてもらっただけなので!」


薬師の資格があると思われては大変なのですぐ訂正しておく。

じいじの話だと薬師になるのはちょっと面倒くさそうな気配がするから、ここは念押ししておかないと!


「そう。その保湿剤と日焼け止めは、特に保湿剤の方なんだけど、リサとおじいさんしかできないものなのかしら?」


リンダさんが神妙な顔をして聞いてくるけど、今までのじいじの非常識を知っているせいなんだろうな。

そう思われるのも仕方ないけど、大丈夫です。


「一般的な方法もありますよ!ただ、人によって品質にバラつきが出る可能性があって」

「それなら普通のポーションも同じだから大丈夫だよ!」

「リサちゃんが使う以外の余剰分があればぜひ!今!売って欲しいわ!」


余剰分と言うかかなり大量に作ったので売ろうと思えばいくらでも売れるので、まず保湿剤をいれている小瓶の1本を取り出した。

保湿剤を作った時に入れ物を準備していなかったからポーション用の小瓶にいれていたのだが、品質劣化を防ぐのでちょうど良かったようだ。

他のポーションと間違わないように保湿剤が入った小瓶には雪の結晶っぽいワンポイントを入れているので安心だ。


「これが保湿剤になります。かなり大量に作ったので何個でも大丈夫だと思いますよ」

「この瓶でどれくらい使えるのかしら?」

「これ1本で大体30日くらいは使えます」

「どんな時に使っているの?朝の洗顔だけ?」

「毎日朝と夜の洗顔後に使っています。薄く伸ばすくらいでいいので」

「ちなみに劣化はないのかしら?ポーションだと60日くらいから劣化し始めるから気になって」

「実際測ったことはないですが、じいじ曰く1年くらいは持つみたいです」


美容用品だからか次々と質問が飛んでくる。細かいことだけどお肌に直接塗るものだし気になるのは仕方ないよね。

私の説明を聞くと女性陣3人は寄り添って相談し始めた。


「何個にする?1本で30日…1年持つなら、1年使う分買っちゃう?」

「3人分だけでも40本近くになるよ?持ち運びをどうするかが問題かな?」

「首都で売ってもらって、持ち歩く分以外は拠点に置いておきましょう」

「そうなると3人分だけじゃなくて、家族とか友人用も確保しておいたほうがいいんじゃない?絶対追求されるわよ?!」


殆ど聞こえていて居心地が悪いんだけどな。まあ最終的に買う数を決めるだけだから、隠すようなことでもないからいいんだろうけど。

聞き流しながら待っていようと思ったけど、購入する本数を決める前に確認しておかなければならないことがあった。


「すみません、その前に売るにしても価格をどう決めればいいんですか…?」

「「「あっ!」」」


一番の問題は販売価格だ。

女性陣の様子からして、この手のものが市販されていないようなので、価格の基準がわからない。

販売されていればそれを目安に金額を設定できるのだけど…。

同じ依頼を受けている冒険者仲間だということもあり、あまり高く売りたくはない。

そもそも薬草も値段が付かないくらい安価なものだし、そこまで複雑な作り方をしているわけでもない。

ただ、安すぎる金額を言うと、それはそれで怒られそうな気をヒシヒシと感じる。


「困ったわ。いくらが適切な金額かわからないわ」

「やっぱり保湿剤みたいなもの売ってないんですね?」

「そうよ。基本は白粉のような肌を隠す系の化粧品が主だから」

「肌をマッサージして香油を使って美を保つ方法はあるけど、それは特別な日だけね。毎日肌のお手入れをするって考え方がないわね」


女性陣に改めて確認すると考えていた内容だった。

過去の転生者と思わしき人たちは異世界ノベル定番の1つでもある美容品の開発はしなかったようだ。

食べ物の方が多種に渡って広められていたから、てっきりその辺の定番も押さえられているものだと思っていたけど違ったようだ。

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