55 国宝級の肌着

「何を隠しているのかしら?」


逸してしまったからには疾しいことがあると言っているようなものだ。

隠すことではないと思うけど石鹸の価値がわからないので素直に話すには憚られる。

もしまたとっても貴重なものだったら、しかも宿に帰る道の真ん中で、あのとんでもないテンションで詰められたくない。


「いや、あの。そのじいじが、野営とかはではその魔法で」

「…そう。なら仕方ないわね」


単語のように繋げた言葉でどうやら納得してもらったようだ。

最初の野営の時にじいじが浄化魔法を使っていたから、それをいつも使っていると思われたのだろう。

リンダさんごめんなさい、石鹸の価値がちゃんとわかって問題なかったら説明しますから!問題なかったら!

心の中で謝罪しながら宿に戻った。


「じいじ!石鹸って高級品なの?!」

「リサ様…お帰りの挨拶は?」


じいじは意外と挨拶にうるさい。

人として大事なのはわかってるけど、またとんでもないものを使っていたら気が気でないのでつい端折ってしまった。


「はい!ただいま!」

「はい、お帰りなさいませ。それと石鹸ですか?」

「そうそう!」


それからじいじに服飾店であったやり取りを話した。

私的には大変な出来事だったんだけど、じいじはずっと微笑ましい表情をしていた。

そんな和やかな話ではなかったと思うけど。


「そうですか、しかし肌着を無事購入できてよかったですね」

「流石のじいじも肌着は持ってなかったの?」

「いいえ、あるにはあるのですが、リサ様が必要と思っていないものでしたし、異性から肌着を渡すのも常識的にどうだろうと思いまして」


私から肌着の話が出るまでは渡すのは控えておこうと思ったそうだ。

だから思わず。


「じいじにも常識あったんだね」

「もちろんですよ。常識を知った上で自分の要望を貫いているだけでございます」


それってどうなの…。

常識を持っているというより身勝手なほうじゃない?


「購入されたということですが、念の為私が持っているものをお渡ししておきましょう」

「また飛んでもないものなんじゃ?」


じいじが取り出したその肌着を受け取るのはちょっと怖いんだけど。

まだ国宝級のとんでもない代物じゃないよね?


「そうですね、その服と同じくらいなのでそこまでは」

「服と同じなら飛んでもないものだからね!じいじの普通の基準は世間とはかなり違うよ!」


思わず突っ込んでしまった。

服飾士に国宝級って言われたって話を伝えたばかりだよね?!

その服と同じくらいって肌着も国宝級ってことじゃん!


「いえいえ、防御力は落ちます。その代わり常に浄化されるようになっていますので洗濯いらずで便利ですよ」

「いやいやいや!便利どころの話じゃないよね?!」


肌着にそんな防御力があるのも破格なのに、浄化魔法って。

防御力が落ちても、浄化魔法が自動でかかっているのならどう考えても高いものでしょう!

そんなサラリと流すことじゃないよ!


「今回買われたものもあるでしょうから、依頼の時だけもこちらを着用するのがいいかと」

「…はい」


いくら常識外れだと突っ込んでも受け流すじいじに根負けして差し出された肌着を受け取る。

国宝級であっても服と違い肌着は見られる可能性が低いし、依頼中に万が一のことがあっても服と肌着の二重に対策しておけば、その万が一にも対応できる!と思うことにした。

貧乏性だしそんな破格のものを着ないという選択肢はない。


「それと聞きたいことは石鹸のことでしたか?」

「そうそう!」


最初に聞いたはずなのに肌着の話になって後回しになっていた。

突っ込まざるを得ないものを出すじいじが悪いのだが。

浄化魔法を使用しているのは間違いないので嘘ではないのだが、今後石鹸の話が出た時に回避できる気がしない。


「石鹸は庶民でも買えるようになってきた、ちょっとした贅沢でしょうか。もちろん価格に応じて品質は異なりますが」

「そうなんだ!」


じゃあ石鹸で洗っているっていってもそこまで驚くことじゃないってことだよね?

まあじいじの持っている石鹸なんて高級品一択だから、使っている石鹸を見せなければ驚かれることはないだろう。

石鹸で洗っているって言うのはセーフ!


安心した翌朝、身支度を整えて食堂に降りたところで女性陣に捕まった。

なんでだろう。逃がすものかと獲物を見る目で両腕と背中を押さえられているんだろう。


「リサちゃん、ちょっとお部屋までいい?」

「えっ朝ごはんは?」

「大丈夫大丈夫!部屋まで持ってきてもらうから!」


ちらっと男性陣をみると、エイルさんとラウルさんは引きつった表情で戸惑っているようだ。

じいじは安定の生暖かい笑顔で手を振っている。

女性陣のお部屋に行く選択肢しか残されていないようなので、諦めて女性陣の部屋に連れて行かれました。


「ちょっと強引になってごめんなさいね?」

「念の為確認しておきたいことがあったの」

「はい?」

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